|      殺伐とした雰囲気の中、ジョミーがにやりと笑う。「でも、その手には乗らない。
 あなたに誘われるんならまだしも、挑発されて手を出したなんて、僕のプライドが傷つく。」
 それを訊くと、ブルーは苦く笑った
 「何もそこまで利口にならなくとも。」
 「あなたが食えない人だからだよ。」
 表面上は、先ほどまでの緊迫感など感じさせない二人の会話だ。
 「それに、さっき言った僕の特殊能力を長老方に諮ってみれば、否定の返事が返ることは間違いないでしょ。ソルジャーたるもの、自分の守るべきミュウを危険にさらすわけにはいかないと思うけど。」
 「なぜ危険なんだ?」
 しかし。何の気負いもなく問われた言葉に、ジョミーは訝しげに首をかしげた。
 「あのね…。
 僕の能力を知って、僕が完全部外者で犯罪者のドロボウだって考えれば、自然と答えは出てくるじゃない。」
 「君が危険なら、僕は君と子供たちを遊ばせたりはしていない。
 …ただ…、さっきの賭けは君が勝負を投げてしまったから、無効になると思うけどね。」
 だから、ソルジャーを継ぐという話も白紙になった、とため息混じりにつぶやいた。
 ジョミーはと言うと、ふうん、とうなずきながら面白がるような目つきでブルーを見た。
 「随分と余裕だね。それに、公正明大でもあるようで…。」
 まるでからかうかのごときの微笑みを浮かべて、ジョミーはさらに続けた。
 「で、さっきの話に戻るけど、僕の目的が復讐だろうがなんだろうが、そんなことどうだっていいじゃない…?」
 しかし、笑顔を浮かべているが目は笑っていない。
 「逆に僕の目的が復讐だったら、何?
 あなたの大切なミュウに手を出すのは許さないって…?僕のこと、危険だと思っていないって言葉と矛盾するよね?」
 ああ、そうだね、とブルーはつぶやいた。
 「…言い方が悪かったな。
 それなら言い直そう。対象が僕なら、僕だけを見つめていてほしい。」
 それを聞くと、ジョミーは一瞬凍った後にまじまじとブルーを見た。
 「…ソルジャー…。何か悪いものでも食べたの?」
 疑わしげな、探るような目で見つめられるのに、さすがに苦笑いしてしまう。
 「なぜそうなる…?」
 ジョミーは妙な顔をして、だって…と言いよどんでいる。
 「いや…、僕は自分が思っている以上に君のことが気に入っているようだ。
 万一君からもたらされるのが災厄の類だとしても、それを僕以外に向けられるのは我慢ならない。」
 それを聞くと、ますます困惑の色を深めたらしい。
 「…そりゃ…、嬉しいけど…。」
 眉間にしわを寄せて考え込んでいたジョミーが、ふっと真顔になった。
 「…じゃあ、ソルジャー。僕のこの手を取ることができる?」
 すっと右手を伸ばし、ブルーに向けた。そして、ブルーの怪訝そうな表情に構うことなく続ける。
 「口では何とでも言えるでしょ?
 じゃあ、僕と一緒に来ることができる…?言っておくけど、この手を取ってしまったら、僕だってもう甘い顔はしない。あなたをシャングリラに戻すようなことは二度としない。」
 それでも、いい?
 試すような表情を浮かべているが、目は真剣そのもの。
 「…それはできない。」
 口にすることをためらったのだが、その判断は揺るぎようがない。増してや、ジョミーの言葉にはいつもと違って面白がっているような様子は見えない。そんな相手に、いい加減な答えはできない。
 「…そう。」
 力なく下ろされる腕。
 それでも、ある程度予想はしていたらしい。やっぱりね…とつぶやいた。
 「…あなた、前もそうだったよね…。」
 しかし。その言葉には首をかしげた。おそらくそれは、消された記憶の中にあったのだろう。
 「分かっては、いたんだけどさ…。」
 そんな風にさびしそうに言って、悲しげに目を伏せる姿に。
 「まだ…、賭けは終わっていないだろう。」
 …確証がないのに、ついそう言ってしまった。
 それを聞くと、ジョミーは眉をひそめてこちらを見た。
 「さっき無効だって言ってたじゃない。」
 「そうじゃない。その賭けじゃなくて、50年前にも僕は君と賭けをしただろう。」
 ブルーのその言葉に。
 「…へえ、覚えてるんだ…?」
 意外そうにジョミーは目を見張った。
 しかし、さすがにそれには…、首を振った。
 「正直に言うと、記憶にはない。
 ただ、そんな気がしてたまらない。」
 「ふうん…。」
 目を見開いていたジョミーがそう言って、ふっと笑う。安心したような笑顔に見えたのは気のせいか。
 「じゃあ…、せいぜいがんばってよ。思い出せるようにさ。」
 天使のような微笑みを浮かべ、ジョミーは挑戦するようにそう言った。一瞬にしてドロボウの顔に戻ってしまい、結局儚げな微笑みは確認することができなかった。
 「ヒントくらい、くれないのかい?」
 まったくのノーヒントだと辛い。だから、手がかりでもあれば…と思ったのだが。
 「ヒントねえ…。」
 ジョミーは心持ち顔を上げしばらく考え込んでいたが、いいことを思いついたようににこりと笑った。
 「じゃあ、特別にサービス。」
 言いながらこちらに寄ってきた。
 なんだろうと思っていると、ジョミーの微笑が深いものになった。そう…、思ったら。
 ………テ。
 「!!」
 突然の、触れるだけの口付け。
 呆気に取られているブルーに、ジョミーがしてやったり、と言わんばかりの得意そうな笑みを浮かべる。
 「僕はもう帰るね。さよなら、ソルジャー。」
 そのジョミーの言葉には、何か引っかかるものを感じたが、そのままテレポートして消えていく姿を呆然と見送ってしまった。
 『さよなら』…?
 いつも別れ際には、『またね』と言うことが多いのに。いや、それ以前に…。
 …今のは何だ…?
 見知らぬ場所のイメージと見知ったイメージ。それからジョミーの声が聞こえたが…。
 イメージのひとつは、洞窟の中のような、むき出しの岩肌が見える場所。そしてもうひとつは、まるで水槽の中にいるようなイメージ。後者はフィシスのものだと感じることができ、自分の直感が当たっていることを証明してくれる。
 それと…、ジョミーの声だ。
 ………探シテ。
 探す…?何を…?
 ………僕ヲ、探シテ。
 探さなくても、君はここにいるじゃないか。
 …一体、君は何を言いたかったんだ…?
 だが、答えは見つからなかった。
  しかし。その日を境にして、ジョミーの姿はまったく見られなくなってしまった。
 どうしたのだろうか…?本業にでも精を出しているのか、と思って別件で報告に来ていたハーレイに話を振ってみた。
 「ジョミー…?誰です、それは。」
 だが、目を見開き、不思議そうに問い返されるのに、最初は冗談かと思っていた。
 「…?覚えていないのか?
 僕を盗むといってここに何度か出入りしていただろう。『Bandit of 
    Jade』と名乗って。」
 「あなたこそ、変なことを言いますね。
 私がついていながら、そんな怪しげなものをここに出入りさせるわけがないではないですか!」
 自信たっぷりのハーレイの返事に。
 ブルーの心にまさか…という焦燥感に似た思いがよぎった。
 
 
 6へ
 5.5へ
 
 
 
      
        | 最近、暗い話が多いような気がしていたので、ちょっとばかり「つかまえてごらんなさーい。」のジョミーを書いてみました! |   |