|    「大変です!ソルジャー・ブルー!!」この船のキャプテンであるハーレイが、大慌てで青の間に駆け込んできた。シャングリラの大黒柱である彼がこんなに慌てているのは珍しい。
 「何かあったのか?」
 「こ、これを見てください!!」
 今どき珍しいグリーティングカードというものが、ハーレイの手に握られていた。
 それを受け取って開いてみると。
 "明日の24時、貴艦の最も価値のあるものをいただきに参ります。Bandit 
    of Jade"
 「これは…、予告状というものか?」
 「そうです!しかも、怪盗予告です!!
 私どももこの差出人の『Bandit of Jade』には詳しくなかったので、周辺基地のコンピューターにアクセスしたところ、予告を出したものは必ず盗み出すという泥棒であるということが分かりまして…。」
 ふうん、翡翠の泥棒か…。
 「それで、わが艦で最も価値のあるものというのは何だろう。」
 差出人のことは分かったが、肝心なものがまだなぞのままだ。
 「それが分からないのです。」
 ハーレイは困り果てたようにつぶやいた。
 「このカードが現れたときと同様、この『最も価値のあるもの』の意味も分かりません。
 盗まれるものも分からず、このままでは、予告時間を過ぎても何を盗まれたのか分からない結果になりかねません。」
 「そういえば、そのカードはどうやって届いたんだい?」
 「それが…、いつの間にかブリッジの操縦席にあったのです…。」
 つまり、ハーレイの定位置である。
 「ブリッジには誰か詰めているはずだと思うが。」
 「それが誰も予告状が届いたところを見ていないのです。」
 なおさら奇怪だ。ミュウは特に気配には敏感なのに、それなのにまわりに気づかれないようにこんなものを最も人が出入りするブリッジに置いておくとは。それだけでこの『Bandit 
    of Jade』の手腕が分かろうというものである。
 しかし。
 「何を狙っているのか分からないのでは、対策の立てようがないな。」
 「はあ…。」
 「当日、その『Bandit of Jade』とやらに聞いてみるしかないだろう。捕まえられれば、だが。」
  その予告時間である24時。「こんばんは。」
 いつの間にか、ブルーの寝室である青の間に、金髪の少年が立っていた。年のころは15歳程度か。
 ブルーさえ入室の気配に気がつかなかったほどだ。
 「君が、『Bandit of Jade』かい?」
 なるほど、翡翠か…。
 彼の明るく、それでいて深い緑の瞳を見て、その名の意味がよく分かった。鮮やかに強く、心に残る翠玉。
 「うんそう。予告状、見てくれたんだ。」
 心なしか嬉しそうに泥棒が笑う。
 「あの予告状は見たんだが、この船で最も価値のあるものというところが分からなくてね。君が何を盗りたいのか未だに理解できないんだよ。」
 それをきくと、彼の緑の瞳は面白そうな色を浮かべた。
 「一発で分かると思ったんだけど、そんなに分かりにくかった?そんなの、ここには他にないと思うけど。」
 そういいながら、今度はゆっくりと人差し指をブルーに向けた。
 「僕の狙いは二つの紅玉。」
 そう言って不敵に微笑む。
 「それは困ったね。
 気に入ってくれたのは嬉しいけど、この目がないと僕は物を見ることができなくなってしまうから。」
 「見かけによらず面白いことを言うよね。
 もちろん、目だけほしいってわけじゃないんだから、あなたごといただいていくよ。」
 「それも難しいな。
 僕はこれでもこの船の指導者でね、不在にするとなると多分困ることが起こると思うから、その申し出は遠慮させてもらうよ。」
 しかし、どうやらブルーが断ることも予測していたらしい。泥棒は、さしてショックを受けた風もなく微笑んだ。
 「ふられちゃったか。相変わらずはっきりした人だよね、あなたって。」
 さすがに、その言葉には眉を寄せた。
 まるで、ブルーのことを以前から知っているような素振りだ。
 「でも僕は困ることなんかないんだけど。」
 「君はそうだろうね。
 それよりも、僕のことを知っているようだけど、どこかで会ったことがあるのかな?」
 「…さあ?」
 含み笑いには何が隠されているのか、知りようもない。そう、この少年もミュウだ。しかもかなり力の強い…。
 「それに、僕は盗むといったものは必ず盗むんだよ。」
 「そうらしいね。
 でも、僕なんか盗んでどうするつもりだい?」
 「うーん、いろいろあるけど…。
 とりあえず、昔話でもしようか?」
 本当に以前会ったことがあるのか。それともただのはったりか。
 一度でも会ったならこんな印象の強い瞳を忘れるはずはない。にもかかわらず、まったく覚えがない。
 「そうすれば、君との接点が分かる?」
 「それは分からないけど。」
 「泥棒だけあって食えないね、君は。」
 「あなたにだけは言われたくないよ、それ。」
 「ソルジャー、『Bandit of Jade』はまだ現れないようなのですが…。」
 泥棒が気分を害したようにつぶやいたとき、ハーレイが青の間に入ってきた。そして当然、いるはずのない見たこともない少年に唖然とした。
 「だ、誰だ…!?」
 「ハーレイ、彼が『Bandit of Jade』だよ。」
 「それはなんとなく分かりますが!
 それがなぜあなたとそんなに和やかに話をしているんです!!」
 ブルーが紹介役を買ってしまったのが、ハーレイには気に入らなかったらしい。
 「予告の狙いが僕だというので、少々話をしていたのだが。」
 「あなたを盗むですって!?」
 大騒ぎするハーレイに辟易したように、翡翠の泥棒はため息をついた。
 「じゃあ僕はこれで失礼しようかな。」
 「勝手に帰ろうとするな!
 何が目的だ!?われわれの指導者をかどわかすなどと…!!」
 「目的はソルジャー・ブルー本人だよ。それ以外ないだろ?」
 仕切り直しだなとつぶやきながら、泥棒は部屋の出口に向かった。
 「待ちたまえ。君、名前は?」
 「ノーコメント。一応泥棒やってるから、名前は極秘事項なんだ。」
 泥棒は後ろも見ずに手を振った。
 「では、呼び名を考えておいてくれ。名前がないと話していても不便だ。
 それから、次からは予告状は必要ない。」
 「ソルジャー!?」
 泥棒が再び現れることを予想どころか、確定しているかのような己が指導者の言葉に、ハーレイはわが耳を疑った。
 「彼は盗むといったものは必ず盗むそうだ。だから、これで終わりということはない。」
 これにはむしろ、泥棒のほうがあきれ返ってしまったらしい。今度はこちらを振り返って肩をすくめた。
 「…あなたには負けるよ。じゃあ、僕のことはジョミーと呼んで。
 キャプテン・ハーレイ、そういうことだから。」
 ジョミーと名乗った泥棒は、出口に行くと見せかけて、ふっと姿を消した。
 テレポート、だった。その事実だけで、彼の能力の高さを伺うことができるというものだ。
 「そういうことってどういうことだ!
 こら、勝手に消えるな!帰ってこい!!
 いや、前言撤回だ!帰ってこなくていい!もう二度と来るなーーー!!」
 
 
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        | 大外れパラレル第2弾!(第1弾は拍手に。)王ドロボウJingの雰囲気に近づけたかったのに…!かすりもしません〜。 |   |