「君が出て行く必要はない。君はここの指導者だろう?そのくらいなら、僕が出て行く。」
指導者たる君にそんなことをさせるわけにいかないだろう。
「あなたが出て行かなければいけない理由なんかありません!」
ジョミーも負けじと言い放つ。
「あなたには、何の非もないんですから! 僕が、あなたと一緒にいられない。ただ、それだけなんです。」
「…それは、僕の目と髪の色や性別が変わったためだろう?」
「目や髪は関係ありません!」
すると、性別か…。
あまりにも分かりやすいジョミーの反応に、立ち上がってドアに向かった。この館の主であるジョミーが出て行く必要などないのだから。
「待ってください!どこへ行こうと…。」
「君が寝る場所を決めてくれないのなら、廊下でも構わない。」
言いながら、ジョミーの隣をすり抜けようとしたとき、ジョミーが慌てたように腕を掴んできた。今回は、以前のように手を離してしまうということはなかった。
「廊下だなんてとんでもない…! 女性に冷えは禁物…。」
しかし、そう言いながら、やはり次には顔を赤らめてしまった。
「と、とにかくですね、出て行くのなら僕が出て行きますから…。あなたはここで寝てください。ただでさえ、身体が細くて体力がないところにもってきて、身体の変化でさらに体力が落ちてるでしょう?」
だから、あなたはここにいて、と言われるのに、逆に切なくなる。
そんな風に優しくされると、また勘違いしそうになる。ジョミーの言葉に甘えたくなって、この部屋にいてもいいのかと思ってしまう。
だけど、君がいないのなら、僕がここにいても仕方のない話だ。
「君が出て行くなど、本末転倒だ。君は指導者であり、ここの主だろう。」
守手であり、指導者たる君を追い出してまで僕が居座るのはおかしい。
「それとこれとは話が別です!」
「同じだ。」
「その理屈でいくなら、僕の妻であるあなたは僕と同じ権利があります!とにかく、あなたがこの部屋から出て行くことは絶対ダメです!」
…そんなに、この身を衆人の目にさらすのが恥だと思われているのだろうか…。
しかし、ジョミーは強く言いすぎたと思ったのか、今度は慌てて頭を下げてきた。
「す、すみません! いや、本当にあなたは悪くないんです。悪いのは僕のほうなんですから…。」
今度はなだめるように、慌ててこちらを覗き込んで謝ってくる。
「あなたに触れるわけにはいかないんです。特に今は…。」
今…? ってどういうことだろう。
「…どうして、今?」
「どうしてって…。」
またそこで絶句してしまったらしく、視線を泳がせる。うっかり口に出してしまった、という反応に見えた。
だが、ジョミーはすぐに気を取り直したらしく、じっとこちらを見据えてくる。
「とにかく!僕はあなたのことを愛しています。それだからこそ、今の状態のあなたには触れたくない。それはきちんと理解してください!」
「分からない。」
「…ブルー。」
「理解してくれというのなら、僕に分かるように説明してくれ。」
ジョミーははああっとため息をついた。
ひどく困っているような様子だが、同情はできない。君の『愛している』という言葉を額面どおり受け取ろうと思っても、今までの君の言動からはとても信じられない。
「説明って言われても…。」
「君が夜中いなくなるのも、僕を愛しているからか?」
「え…っ?」
どうやら、夜更けに部屋を出ていることがバレていると思わなかったらしい。驚いてこちらを見ている。
…夜に君がいなくなることは知らんふりをしていようと思っていたのに…、やはり口をついて出てしまったようだ。
「無理をしなくてもいい。僕のことが嫌いなら嫌いで…。」
「そ、それはないです!!」
真剣にいう言葉に、うそはない…気はするけど。それは僕の都合のいい思い込みなのかもしれない。
一方のジョミーは、またため息をついた。
「…あなたが気がついているなんて知りませんでしたが…。
…そういうことです、あなたを愛しているから夜出歩いていると思っていただいて結構です。」
真剣な顔で言われるのに、開いた口がふさがらなかった。いくら僕が世間知らずだからってそんな理屈はないだろう。
「どこをどうしたら、そんな結論に至るのか理解できない。こじつけだろう。」
誰が聞いたってそれ以外ありえない。そう思っているのに。
「こじつけに思えようが何だろうが、あなたを愛しているからこそ僕はあなたと一緒にいられないんです!」
力を入れて断言するが…、さっぱり意味が不明だ。
「言っただろう、僕に分かるように説明してくれと。」
とにかく、ジョミーの言うことは到底受け止める気になれない。そんな理屈では、納得などできるはずがない。
こんな風にジョミーを追い詰めるつもりはなかったが…、あまりにも彼の言うことがわけが分からないからどうしようもない。
「えっと…、じゃあ話したら僕の言うことを聞いて、この部屋で大人しく眠ってくれますか?」
と、今度は一転して頭を掻きながらお願いモードになる。
「内容による。」
「…ああまったく…。」
困り果てたように、とにかく座りましょうといわれたので、立っているのも疲れていたこともあって大人しく従って傍にあったソファに座る。ジョミーもその向かいに座った。
「…あなたの身体の状態は、あなたがよくご存知ですよね?」
女性になった、ということだろう。そう思ってうなずいた。
「女性になる、ということは…、つまり、僕とのかかわりが少し違ってくるということで…。」
…もう分からなくなった。
女性になるのと、君とのかかわりが違ってくるのと、何がどうつながるというのだ?
「つ、つまりですね…。セックスにおけるかかわり、というものなのですけど。」
「ああ…。」
何かと思えばそう言うことか。
「それは単に入れる場所が…。」
「そ、そうなんですけど!」
「それに、前の場所も使えるから…。」
「だからっ! あなたはどうしてそう言うことを平気で言ってしまえるんですか!もっと恥じらいとか慎みとかそう言う言葉を学んでください!」
「平気でって…。君が言おうとしたことを言ったまでだが。」
「僕は男だからいいんです!」
「僕だって…。」
「あなたは今女性でしょ!
それに、僕が言っているのはそう言うことじゃなく!」
「では何だ?」
そう言うと、今度はぐっと詰まったようで、黙り込んでから視線を泳がせた。
「いや、その…、確かにそう言うことなんです。
僕は男で、あなたも知ってのとおりこらえ性のないときが往々にしてあります。だから…、その。」
「なぜ?」
たとえこらえ性がなかったとしても、何の問題もないだろうに。
「ですから…、僕は女性になったあなたにも興味が…、いえ、興味などという言葉では生ぬるいくらいの…。」
次第にしどろもどろになっていくジョミーに不審な気持ちは募る一方だった。
だから、それのどこに何の問題がある?
「言っただろう。君になら何をされてもいいと。」
「そ、そりゃそうですけど…!」
…まるで、いじめているみたいだ…。
半泣き状態のジョミーを見つめながらふとそう思うが、ジョミーの言うことに納得できないのだから仕方ない。
「でも、あなたはその次に来る展開を考えたことが…。」
そういいかけて。でも慌てて口をつぐんでしまった。
この次の展開…?
「いえ!忘れてください、何でもありませんから!!」
そう言われて、次の展開とは何だろうと思ったのだが、すぐに分からずに。
「とにかく、食事が途中なので! 食べてしまいましょう!」
肩を抱かれたまま、食卓に連れ戻されてしまった。
そのときふっと思い当たった言葉が。
「…妊娠?」
それを聞いた途端、ジョミーは空を仰ぎ見た。
9へ
この手のエピが長引いて、アレもそうですが、シン様登場が遅れそうです…。かなしー。おまけにちょっと一段落つくまで連続更新しそうですー…。
ところで『君になら何をされてもいい』の台詞は10万HIT記念誌の未発表エピに出てきます〜。うーん、あと表紙の処理を決めるだけなのに…!でも今週中には決まって印刷にかかりますので!!ゴメンなさい〜、この場を借りてお詫びします!! |
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