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    ふと目を開けると、もう朝だった。眠れる自信がないと思いつつ、ジョミーの隣で目を閉じていたら、すっかり眠ってしまったらしい。しかも…、何となく身体が軽くなったような気がして隣で眠るジョミーを起こさないようにそっと起き上がってみた。
 …熱が下がってる…。
 何となく、安心する。腰に鈍痛を感じたが、ずっと寝てばかりだったので、身体がなまっているのだろうと、そう思った。
 窓ガラスに映るのは、やはり色彩の違う自分の姿だが、熱が下がったということは、これ以上変化しないということなのだろう。昨日のドクター・ノルディの言葉を信じればそう思っても差し障りないと思う。
 そう思って、ふとおかしな匂いに気がつく。
 これは…、血の匂い?
 最近ではほとんど嗅ぐことはなくなってしまったが、鉄の錆びたような匂いは間違いなく血の匂いだろう。ふと布団をめくってみると、かなり広範囲に出血しているのが分かる。
 そのとき思ったのは、ジョミーがどこか怪我をしているのかということだった。
 結構な出血量だから、早く手当てをしないと…。
 そう思ってジョミーを起こそうと思った矢先、そのジョミーがふっと目を開けた。
 …いつもは寝ぼけて抱きついてきたりするのに。
 やはり怪我をしているからだろうかと思って声をかけようとしたとき。
 「ブルー!どうしたんですか!?」
 がばっと起きるや否や、真剣な顔で問い詰められる。
 「どうしたって…。それは僕のいうことだ。怪我をしているなら早く手当てしないと…。」
 「それは僕じゃないでしょう!
 とにかく、起き上がってないで横になってください!すぐにドクターを…。」
 いいながら、僕を寝かせようと身体に触れた途端、ジョミーは驚いたような表情を浮かべてこちらを見た。
 …な、なんだろう?夜が明けた今この姿を見て、改めて気持ちが悪くなったのだろうか…?
 「あ、あなたは…、なんとも、ないん、ですか…? か、身体の調子がおかしいとか、気分が悪いとか…。」
 ひどく動揺しているように見えるが、その原因がなんなのかさっぱり分からない。
 「…別に、何とも。」
 だから、正直にそう答えたのだが…。
 「わ、かりました…。ドクターよりも先に、フィシスに来てもらいますから。
 とにかく、あなたは横になってください。」
 「それよりも、君の手当てのほうが…。」
 「ブルー。」
 再度にわたり、言いかけた言葉を途中で遮られてむっとしたのだが。
 「出血しているのは…、あなたのほうなんです。」
 まじめな顔でそういわれるのに、呆気にとられてしまった。
 そんなことはない、どこも怪我はしていないと思いつつ、よく見ると自分の衣服のほうが出血の跡は多い。というよりも…。
 あらぬ場所から出血していることが分かって、今度は呆然とする。
 ど、どうして…?
 頭の中が疑問符だらけになった。しかも、血の染みがじわじわと広がっていく様子から、未だに血は止まっていないということが分かってしまって、一体自分の身体がどうなっているのか分からなくて混乱しそうになる。
 「…ブルー…。」
 ジョミーが明後日の方向を見ながら話しかけてくる。
 顔が赤いところを見ると、照れているようなのだけど…。
 「その…、あなたの身体も変化したんじゃないですか…?」
 身体…?瞳や髪の色なら変化しているのは分かっていると思ったが、ジョミーはそうじゃないと首を振る。
 「原因は分かりませんが…、あなたの胸が膨らんでいるってことは、もしかしてその出血は、初潮なのかもしれません…。」
 「しょ…?」
 初潮…?それは、若い女性が初めて迎える…?
 そこまで考えて。
 あまりのショックに慌てて自分の胸をまさぐって、愕然とした。そんなに大きくはないが、二つの胸のふくらみに、信じられないという思いでジョミーを見返した。
 「と、とにかく、今フィシスを呼びました。僕も一緒に話を聞きますから。」
 
 「検査は、明日にしましょうか…?」
 あれから程なくして到着したフィシスは、一緒に話を聞くといっていたジョミーを部屋から追い出してしまうと、てきぱきと血に染まったシーツや衣服を片付け、これからどうすればいいかということを立て板に水式に説明してくれた。
 それら一連の騒ぎが収まり、ようやく椅子に座ったとき、フィシスから気遣うように問いかけられた。尤も、呆然としていたら、フィシスから椅子に座るよう指示されたというのが正しいが。
 「あなた自身、落ち着かないようですし。
 熱が下がったということは、おそらくこれ以上の変化はないのでしょう。あとは、元の身体に戻ることだけですが…。」
 しかし、それには無理があるような気がする。
 どうやら、子宮や卵巣といったものも、この身体には存在しているらしく、それだけのものを消滅させることができるのだろうかという疑問がある。できたとしても、それはいますぐではないだろう。しばらくはこのままでいるしかない。
 「…本物の化け物だな。」
 性別まで変わるとは。
 下等生物では、種の存続の危機を感じるとそのようなことはありうる話だが、人間のような高等生物では例がない。
 「ブルー、あなたの悪い癖ですよ。そんな風に自分を貶めるのは。」
 そういさめながら、フィシスは困ったように微笑んだ。
 「とにかく、ジョミーを呼びますね。おそらくあなたのことが気になってやきもきしていることでしょうから。」
 ジョミーを…呼ぶ?
 「フィシス…!」
 待ってくれといおうとしたのだが。
 「大丈夫ですわ、あなたはもっと自分に自信を持ってください。」
 いたずらっぽく笑いながらそういうと、フィシスはゆったりとした足取りで部屋を出て行った。
 でも…。
 フィシスが出て行ったドアを眺めながら、焦燥感にとらわれる。
 さっき、ジョミーはあんなに動揺していたんだから…。それを無理やりここに呼ぶのはどうだろう…?
 多分…、気持ち悪くて僕の顔を見るのもイヤだろうに…。
 そう思ってため息をつく。
 瞳と髪の色だけならまだしも、性別まで…。
 しかも、女性の身体になってもやはり貧弱なことに違いないのだ。こんな身体では、余計に食指が動かないだろう。
 そう考えて、自分の胸を見る。
 服を着ていれば、この下に乳房があるなどとはまったく気がつかない。ジョミーだって、寝かせようとしてこの身体に触れたときに初めて分かったくらいだ。
 体形も、胸がわずかに膨らんでいる以外、女らしいところはまったくなく、腰がくびれているということもよく分からない。
 そう考えて、ブルーは再びため息をついた。
 
 
 
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        | ゴメンなさい!女体化一度やってみたくて…!でも、女になってもどうしてそこまで勘違いする!?のブルーですが〜。 |   |