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    『それから、【グランド・マザー】の言葉ですが。』先の思い出話と同じような口調だったが、その内容にどきりとする。ジョミーが現れる前にはまさに、そればかり考えていたのだから。
 『気にする必要はありませんよ。
 あなたはどうやら自分の存在で他のものたちに害が及ぶのではないかと思っているようですが、それこそ何の根拠もありません。』
 「根拠がないという証明もできない。」
 そもそもジョミーは、何を理由に同胞を危険にさらすようなことを平気で言ってしまえるのだろうか。
 何度もあの屋敷に足を運んだという君なら、【グランド・マザー】の言葉に嘘はないと、よく分かっているはずなのに。彼女は残酷な人だが、嘘を言うような人ではない。
 『それはできますよ。』
 ところがジョミーはやけに自信ありげに言う。
 『僕がそう思っているからです。あなたは僕の命を救ってくれましたし。』
 それこそ、根拠だの証明だの言う以前の問題だ。
 「それは君の思い込みだろう。」
 『そうですよ。
 でも、それがすべてです。僕はあなたに恋していますが、それ抜きでも十分あなたは美しいし、優しい気持ちの持ち主です。そんな人が、まわりを傷つけるような存在のはずはない。』
 以前から思っていたが。
 どうして、ジョミーは人が聞けば呆れてしまうような台詞を平気で言うのだろうか。それに…。
 「…君にかかると、話が短絡的になる。」
 もっとよく考えるべきだと思うのに、この指導者は本当に自分の感じたままさっさと物事を決めてしまう。これでは、一緒にいるものたちは不安で仕方がないと思うが…。
 『それのどこが悪いんですか?
 大体、あなたは随分失礼ですよ。これでも僕は指導者なんですから。少なくとも傍にいる人間が邪悪かどうか分からなくて、なぜそんな役が務まるんですか?』
 急に指導者風を吹かれても困る…。
 でも、ジョミーは自信たっぷりで、ついその言葉を信じてしまいそうになる。
 『魔物を退治するのは、僕の役割のひとつです。そんなことまで見損なってもらっては困ります。』
 「しかし…。」
 『じゃあこうしましょう。
 万が一、あなたの存在が魔物に近かったとして…、他の人間を害するような状況になれば、その前に僕が迎えに来てあげます。それならいいでしょ?』
 思ってもみなかったことを言われて、驚いてしまう。
 迎えに来るって…。
 「…そんなことが、できるのか…?」
 よく考えれば、今もこういう姿で人の前に立つことができるのだから、それも可能ではと思った。ただ、幽体となったジョミーにどのくらいの力があるのか、分からない。
 『そりゃ、そのくらいのアフターフォローはしますよ。』
 …それはフォローか?とは思ったけれど、本人の感じ方だということで、そういうことにしておいて。
 「…では、僕がそうでなかった場合は…?」
 『喜ばしいことだとして、当然迎えには来ません。』
 つい…、残念だと感じてしまう。
 こんなことを考えていたら、またジョミーに叱られるかと思っていたのだが、意外にも彼は静かに微笑んだ。しかしいつもの笑みとは違う、陰りのあるような微笑だった。
 『僕、喜んでいいですか…?あなたにそう思われて嬉しいって。
 あなたがそう思ってくれるだけで、僕は心穏やかでいられるんです。あなたが僕を求めてくれる、それだけで満たされるんですから。
 こんなことを言ったら僕は指導者失格になると思いますが…。実は僕のほうこそ…、あなたが魔物のような存在であればいいと思っています。そうならば、すぐにでもあなたを連れて行けるのですから。
 でも、あなたに幸せになってほしいと思う気持ちも、きちんと持っているんですけどね…。』
 意外、だった。ジョミーは、指導者としての気構えだけは高潔だったから、そう言われるのに少し驚いてしまう。
 それでも、さっきから言われている、幸せになってだの、強く生きてだのという言葉より、よっぽど嬉しい。
 『やっぱり…、僕は綺麗ごとを言いすぎですね。すみません…。』
 そう言って、ジョミーは軽く頭を下げる。そして、にっこり笑って続けた。
 『もし、あなたが望むのなら、あなたの最期には迎えに来ると約束します。ただし、自分で命を絶った場合は迎えに来ませんから。』
 最後だけはしっかり釘を刺されたなと思いつつも。
 今は…、その言葉だけで満足しよう。その言葉が嘘だとしても、僕は喜んで騙されることにする。とにかく、これ以上ワガママを言って、ジョミーを困らせるのはやめようと思っていると。
 『…返す返す失礼ですね、あなたって人は…。
 誰も騙してなんかいません!僕が迎えに来るといったら必ず来ます!』
 そうむっとしたように言われるのに、おかしくなった。
 「では、早く会えるのを楽しみにしている。」
 『あんなことを言った僕が言うのもナンですけど、早く会いたいというのは問題だと思いますよ?』
 ジョミーはそう言ってから、少し寂しそうにして再び口を開いた。
 『尤も…、あなたに好きな人ができて僕の迎えなど必要ないかもしれませんけどね。』
 「それはない。」
 即座に否定するのに、ジョミーが首を傾げる。
 「僕は君の妻になったんだから。」
 そういうと、今度は口をぽかんと開けてびっくりしている。
 さっき言ったじゃないか。
 「君以外はいらない。君がこのまま逝ってしまうというのなら、僕は君が迎えに来てくれるのを待つだけだ。約束する、君以外のものにはならない。」
 ジョミーはというと。
 一瞬、嬉しそうな表情を浮かべたかと思うと、『いや、それはちょっと』と表情が崩れるのをこらえるように咳払いをした。
 『そ、そんな、神に嫁ぐ巫女じゃあるまいし、そこまで僕に気を遣わなくてもいいんですよ。大体、今までよりもこれからのほうが永いんですから。』
 「神じゃなくて、天使だろう。ついでに僕は巫覡ではない。
 そんな迷惑そうな顔をしなくても、この件で君を煩わせたりはしない。」
 『いや、迷惑だなんて…。』
 「それに、これからの僕の生き方について君に指図される謂れはない。
 妻になることについても、僕は君の承諾がなくても構わない。押しかけ女房でいい。」
 『押しかけ女房って…、あなたがですか?』
 ジョミーは驚いたように目を見開いてこちらを見つめている。
 「そんなに嫌なのか?」
 『そ、そんなこと全然思ってません…!でも。』
 この期に及んで、惚れ直してしまった…、と呆然とつぶやいている。
 『本格的に…、後悔してきたかもしれない…。』
 
 
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        | やっとギャグに転じてくれた…!短い話だけど、緊張感に耐えられず、さっさとアップ〜♪ |   |