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 「それから。」
 ジョミーの代わりはいないが、君の代わりもいない。
 そんな言葉にぼうっとしていたが、この人が真面目な表情で口を開いたのに、はっとした。
 「さっきも言ったが、あまり無茶をしてはいけない。君にとっては単なる興味であったとしても、情報を管理している側はそう思ってくれないからね。」
 「単なる興味なんかじゃありませんよ!」
 「…だから問題なんだが。」
 ため息をつきながらこの人は紅い瞳をこちらに向ける。
 「ただの興味じゃないから、余計に厄介なんだよ。
 君の気持は嬉しい。僕たちの戦いを無駄にしないように考えてくれている。だが、何年経っても隠しておきたい情報というものはあってね。」
 「気をつけます。ミュウの歴史の取り扱いにはそれだけの危険が伴うってことはよく分かりましたから。」
 そう言いつつ、挑戦的な目を彼に向ける。
 「むしろやりがいがありますよ。」
 「…君ならそういうと思ったよ。」
 お手上げと言わんばかりにため息をついて、こちらを見やる姿に嬉しくなった。
 タイプ・ブルーという強大なサイオンを未だに保持しているというこの人がその気になれば、僕の記憶や思いを根こそぎ奪うことは可能だろう。
 かつて成人検査のため、少年少女たちの記憶処理を行ったというテラズナンバーの記憶消去の力。それをさらに上回ったといわれたソルジャー・ブルーのサイオンの前には僕など小さな存在で、僕がミュウの歴史を追うことなど力づくで諦めさせることは簡単にできるはずだ。
 だが、この人はそれをしない。僕の意思を尊重してくれるからだ、と。
 「僕とジョミーは違うって言ったでしょ。大丈夫です、十分気を配ります。」
 「前にも言ったが…、年長者の言うことは聞くものだよ。
 もうひとつ、忠告しておこう。」
 「…またですか?」
 うんざりしたような響きになったのだろう、この人はむっとしてこちらを睨んだ。
 「だから、年長者の言うことはきちんと聞くものだと言っているだろう?」
 年寄りはうるさいものなんだよと言われるのに、この人の姿とのギャップが激しくて笑えてしまう。でも、何とか笑いを堪えてうなずいた。
 「分かりましたよ、何ですか?」
 「『策士策に溺れる』。策を弄しているつもりでも、それに慢心していると足をすくわれる。
 …気をつけたまえ。」
 思えば、この人からは忠告や警告ばかりされていると思い当たり、こういうところがジョミーと似ているのかなとぼんやり考えた。
 「…ジョミー・マーキス・シンにも、何度かそんな言葉をかけたんでしょう?」
 しかし。それに対しては、この人はかぶりを振った。
 「残念ながら、ジョミーは策略を練ることすらしなかったから、こんなことなど言ったことはなかったね。」
 そういうところも違う。
 苦く笑いながらそう言われるのに、ああなるほど、と納得してしまう。
 ジョミー・マーキス・シンは、おそらく作戦や策略といったものを押し付けることで、この人をミュウの長として繋ぎ止めたかったんだと思う。
 少ないながらも存在するミュウ側の情報では、代替わりは後継者であるジョミーのほうが拒否していたという。冷静ではあるが、最強の戦士と呼ばれたこの人のこと、長という立場がなくなってしまえば、どんな無謀なことをするか知れたものではない、と。
 おそらく、誰よりも気性の激しいであろうこの人がたがを外して無茶をしないように、ジョミーは代替わりを嫌がったのではないかと。
 この件ではすっかり歴史オタクと化しているので、それに関する推測にも自信がある。
 「…また余計なことを考える…。」
 この人の苦い表情に、また考えを読まれてしまったのかと思ったが、今回はまったく気にならなかった。
 「いけませんか?
 僕にはジョミーの気持ちのほうがよく分かりますよ。」
 「君のような若者から無謀だの無茶だのと言われては、僕の立場がない。」
 拗ねたような言葉に、長としてのこの人とのギャップを感じてまたおかしくなる。
 それでも、この人は最後の最後で無茶をしたらしい。
 300年以上の間戦ってきたこの人の最期は、やはり地球を救う戦いの中だった。そう、書き残されていた。
 僕は、あなたのその生き方に惹かれたんです。
 
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        | 拍手連載!シロエ編。はやりジョミーと似ているんでしょうねー。やたらと気にしまくっているような…。 |   |