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  「情報捜査局…?」「そうですよ、それが僕の勤め先です。
 あなたと会えなくなってからも、あなたやミュウと人類との戦いのことが気になって、ずっと調べる術を探していたんですよ。僕は結構しつこい性質でして。
 そのうち、『知る』ことに快感を覚えてきまして、こういう職業についてしまったんですよ。」
 情報捜査局では、一般に知られていない情報が多くありますし、自分で収集するときもありますから、と続けるのに。
 目の前のこの人はため息をついた。
 「…あれだけタブーには近づくなと言っていたのに…。思ったとおり、君は僕の忠告を聞かなかったんだね。」
 そう言われるのに、むしろ嬉しいと感じてしまう。だって、あなたがその奔放さに悩まされたという、ジョミー・マーキス・シンと僕が同じだと思えるから。
 「だって、あなた言ってたじゃないですか。
 あなたの後継者が自分の手の内でしか動けないのなら、満足できないって。それは後継者だけに限ったことじゃないでしょ?」
 そう言えば、今度は困ったように目を伏せた。
 「つまらないことをよく覚えているね。
 だけど、この間のように拉致されて殺されかけるような事態になると、なおさら感心できないよ。」
 言いながら、彼の人はふっと目を開く。紅い瞳に、焦りとも苛立ちとも判断のつかぬ色が見えた。
 「分かってますって。今後気をつけます、ソルジャー。」
 「…やっぱり懲りてないな、君は。」
 呆れるように言われるのに、こっそり心の中で笑う。
  自分自身、あなたが気にしている後継者だったジョミーという人物に対して、変にライバル心を持っている自覚はある。だけど、あなたのその澄ました顔を崩して、僕を認めさせたいと思うようになったときから、ジョミーは時空を超えた僕の目標となり、超えたいと思う存在になった。「それにあなたのことも、あのときよりはよく知ってると思うよ?あなたたちが受けた仕打ちもその戦いも。」
 「それならば、なおさら触れてはならないと思ったはずだ。」
 向けられた視線に。
 初めてこの人の瞳を怖い、と思った。
 こちらがすくみあがるような紅い瞳に、圧倒されそうになる。その目を見ていると、彼がソルジャーと呼ばれていたころの威圧感が感じられて一瞬言葉を失った。
 「ミュウの歴史は、君が考えている以上に君にとっては危険だ。」
 しかし。
 そう言われるのに、かっとなった。
 「…だから…?
 だから、あなたは僕の前から姿を消したんですか!?」
 そのことについては恨みにさえ思っていたせいで、今は畏怖の気持ちよりも生来の負けん気のほうが勝って、つい言い返してしまった。
 確かに、ミュウのことについて、初めて詳細を知ったときには驚いた。いかに迫害される対象であったとしても、人体実験が当たり前のように行われ、当然のように命が奪われていた事実。しかも、マザー・コンピュータと呼ばれる絶対者の管理下で意図的に生み出されていた因子であったことも驚愕に値するものだった。
 そんなふざけた話があるか、ならば迫害により、もしくは戦いのために死んでいったミュウたちは、マザー・コンピュータの大きな手のひらで踊らされていた存在だったのかと。
 自分のことではないのに、激しい怒りを覚えたものだった。
 「でも、僕はミュウの悲しい歴史をなかったことにしたくない。」
 「それは危険だと前に言った。」
 この人にしては頑ななほどに言い返される。
 その様子に、さらにこちらの怒りが倍増する。
 「じゃああなたは、今この世界でミュウのような存在が生み出されてもいいというんですか?あなたのように、辛い戦いに身を投じる人がいてもいいと…!」
 「それがこの星の歴史の流れならば仕方がない。」
 いくらなんでも、そんな答えが返ってくると思わなかったせいで、僕は呆気にとられてしまった。
 今のこの人は、人というものを超えた存在であるが、そこまで無関心になれるのだろうかと。いや、もしかして…。
 「…あなたがそう言うってことは…、世界のどこかでそんな歴史が繰り返されているってことですか…?」
 「いつの世も、そういうことは存在する。」
 やんわりと肯定されるのに、愕然とする。
 「…信じられない…!
 あなたはそれでいいんですか!?」
 「シロエ、僕は見守るものだよ…?今のこの世界に触れていいものじゃない。」
 「そういう意味ではなく…!」
 「とにかく。」
 言い募ろうと思っているところに、反論さえ許さないとばかりに遮られる。
 「君はこれ以上、このことに触れてはいけない。」
 そう言われるのに、そのときはただ反感しか覚えなかった。
 「…あなたがそんなことを言うなんて、思ってもみませんでしたね…!むしろ背中を押してくれるくらいかと思っていたのに…!
 でも、あなたの指示は受けません。」
 きっぱりとそう言ってしまえば、この人は駄々っ子を前にしているように、またため息をついて、今度はなだめるように言った。
 「無論、君の信条は曲げる必要はないが…。だが、決して無茶はしないでくれ。
 それに、過去のミュウの歴史は僕にとってもミュウ全体にとっても、静かに眠らせておくのが一番だ。」
 このとき。
 この人は僕の未来に何か感じていたのだろう。もともとこんなに押しつけがましいことを言う人ではなかったのに、ということはすっかり頭の外に追いやられていた。
 この人に褒められこそすれ、否定されるなどと考えてもいなかった僕は、ひどく感情的になっていたのだから。
 
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        | 拍手連載!シロエ編。前にシロエは早世したかも、なんて書いたせいか、それっぽくなっています〜! |   |