やっぱりいる。
窓際にたたずむ彼の人の姿を認めて嬉しくなった。
幻なんかじゃない、あの人は本当にいるんだ…!
「待って!」
駆け寄ろうとしたら、それを察したかのようにふいと歩き出し、廊下の角に消えた。慌てて自分もそれを追いかけたのだが、角を曲がると誰もいなかった。
どこに行ったんだろう…?
その先は、行き止まりだ。隠れるようなところもない。
「僕に何か用かい?」
その声に慌てて振り返ると、穏やかな微笑を浮かべる彼の人の姿があった。
「あ、やっぱりいたー!」
幻であろうはずがない。今目の前にいるこの人は、僕に話しかけて微笑んでいる。
「僕、いつもここの前を通って学校に行ってるんだけど、窓からあなたの姿が見えるときがあって…!」
興奮気味に喋ると、この人は苦笑いしながらうなずく。
「そう、僕の姿が見えるんだね。」
「でも友達はみんな見えないって言うし、だからここに来てみたんだ。」
「なるほど、実際に確かめてみようと思ったのか…。好奇心旺盛だね。
確かに、僕の姿はほとんどの人に見えないから。」
「ていうことは、やっぱり幽霊なんだ。
ねえ、いつごろ生きてたの?格好からすると、随分昔みたいだけど。それからどうして死んだの?あなた若そうなのに。マントを着てるってことは、当時は偉い人だったの?それに、赤い目なんて珍しい。もともとそんな色だったの?」
「そんなに一度に聞かれても答えられないよ。」
マシンガンのような問いかけに、ため息混じりに応じながら、この人は少し考えるように心持ち上を見る。
「そうだね。
僕が生きていたのはいつごろかと聞かれても、僕自身よく分からないんだよ。君の言葉ではないけど、随分昔、としか言いようがないね。
それから僕が死んだときは、戦争の真っ最中だった。だから、戦死したというのが一番ぴったりだろうね。それに、マントは僕だけが身に着けていたわけじゃないよ。別に僕が偉いからというわけじゃない。
僕の目のことだけど、生前からこの色だった。光には弱いんだけど、視力自体は普通の生活をする分には問題はなかったよ。
これで全部答えたかな?」
「へえ…。」
答えられないといいながらすべて答えてくるあたり、もともと頭のいい人だったんだろう。ゆえに、自分のことを偉いわけじゃないという答えには少々引っかかるのだが。
まあいいか、調べてみれば分かるかもと思ってそれ以上の追及はやめた。
「僕、シロエ!あなたは?」
「ブルーだよ。」
「いつもここにいるよね。」
「そうだね。」
「どうしてずっとここにいるの?いくら博物館だって、いつも同じものばかり見ててもつまんないんじゃない?」
「そうでもないよ。展示物だって入れ替わっているし、こういう過去のものはずっと見てても飽きない。」
それに、ここは僕にとっては大切な場所なんだよ。」
「大切な、場所…?」
ここって一体何があった場所だったんだろう?
「ここで人を待っているんだ。ここに来るかどうかは分からないけどね。」
「人って…、誰?」
「君に似ているよ。好奇心旺盛で、何でもはっきりいうところも。」
僕に、似た人?
ずっと昔に亡くなったこの人が待っている人って…。
「その人、死んだの…?」
「僕が死ぬ少し前にね。必ず戻ってくると約束してくれたから。」
しかし、それは生きていることが前提では、と思ってしまう。
「それって戻れなかったんじゃない?」
やっぱりそう思うかい?と苦笑いする。
「でも、僕は彼にずっと待つと約束したし、彼も了解してくれたしね。もっとも、彼の了解の言葉は『勝手にすれば』だったけど。」
大切な場所、というくだりも気になったけど、この人が大事にしている約束も気になった。
…どんな人なんだろう、この人の待ち人って…。
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拍手連載!シロエ編、この二人は会うことがなかったから想像するのが難しいけど、なかなかどうして書いてて面白いです! |
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