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 「君も出世したものだね。」
 副官を伴っての里帰りだなんて。
 仏頂面のキースと、その斜め後ろに控える青年を眺めてつぶやいてみる。すると案の定、仏頂面が険しさを帯びた。
 「…亡霊に出迎えられるだなんて、縁起でもない…。」
 「相変わらずだね、君は。そもそも僕を墓守に指名したのは君だろう。」
 そう言ってやれば、さらに嫌な顔をする。
 「だからと言って、俺の前に出てこなくてもいい!」
 …まったく君は進歩がない。かつて敵として出会ったころとほとんど変わりがないじゃないか。
 でも。凱旋して一番に挨拶に来るのは、彼の墓なのか…。
 あれから5年は経つのだろうか。当時よりも墓に参る人間は減ったとはいえ、未だに供え物が絶えない。これはやはりジョミーの人徳なんだろう。
 「あの…、キース…?誰と話しているのですか…?」
 後ろの副官が、恐る恐る尋ねてくる。
 「マツカ、お前にはあれが見えないのか!?」
 「すみません!」
 怒鳴る君に怯える副官が気の毒になる。
 「僕の姿は見える人と見えない人がいるんだよ。君のように見える人のほうが稀だから、彼のように見えないほうが多数派だ。」
 助け舟でも出そうと思って口を挟んでみたが、それを聞くとなおさら不愉快そうになる。
 「…それはまったく不運だった。
 ならばマツカ!今から俺が喋ることは、聞かないふりをしていろ!」
 「は、はいっ!」
 「素直な副官だな…。君の教育の賜物か?」
 「やかましい!大体貴様、常にここにいる必要はないだろうが!」
 「すっ、すみません!!」
 「だから聞かないふりをしていろと言っているだろうが!そもそも今のはお前に言ったわけじゃない!!」
 「すみません、キース!」
 「君たちはいいコンビだな。」
 「そんなことを亡霊に言われる筋合いはない!」
 …やれやれ、君が変わらないことを喜べばいいのか嘆けばいいのか。
 少なくとも、急に弱気になったり、変に優しくなったりされると、こちらの調子が狂うからこれでいいのか。
 そう思っていると。
 「…随分と留守にして…、悪かった。貴様には感謝している。」
 不意に聞こえたその言葉に、つい。
 食い入るように、彼を見つめてしまった。誰が言った言葉なのか、咄嗟に判断できなかった。というよりも、君が僕に感謝するなんて…。
 「な、何だ?」
 沈黙したこちらに、反対に君が戸惑っている。
 「君から礼を言われるなんて思ってもみなかったから、驚いただけだ。
 ほら、副官の彼も固まっている。」
 そう言うと、君は目を見開いて凍りついている副官を勢いよく振り返る。
 「だから!聞かないふりをしていろと言っていただろうが!!」
 「す、すみませんすみませんっ!」
 「もういい!帰るぞ!!」
 「はいっ!」
 わずかに頬を染めている君を見ていると、おかしくて仕方がない。そのまま、こちらを振り返ることなく去って行く君と副官を見送って、今は自分が守っている墓を振り返る。
 「ジョミーのおかげ、だろうな。」
 こうやって、彼の意外な一面を見られるのも。
 これでしばらくは楽しめるか、とキースが聞けば激昂しそうなことを考えてしまったのだった。
 
 
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        | 拍手連載!今回マツカも参戦させてみたけど、ギャグに拍車がかかるだけのような…。 |   |