いつもはジョミーの墓のそばにいるのだが、最近は冷やかし半分にこの家にやってくることもしばしばだ。
今日も居間の隅に佇んでいる。幸い、人相の悪いあの男は不在で、その代わり忠実な副官がいそいそと炊事洗濯といった家事を行っている。
「…まるで、新婚家庭にお邪魔しているような気がするな。」
『そう思うのなら、さっさと出て行け。この亡霊が!』
…もう戻ったのか。
ドアが開く気配にそちらを見ると、不愉快を絵に描いたような表情のキースがこちらを睨みつけていた。
『キース!?一体何に話しかけているのですか!』
『病院へ行きましょう、何かあってからでは遅いのですから!』
『どうか正気に戻ってください。あなたに何かあったら僕は…!』
…キースが僕相手に喋ると、副官の彼が怯えるので、最近では心の中で話しかけるテクニックを身に着けたらしい。いじらしいことだ。
「マツカ、と言ったか。
彼には僕が見えないことだし、透けているから邪魔にもならない。だから、僕がここにいたとしても、なんら問題はないと思うが?」
しかし、この三白眼男はなおさら表情を険しくする。
『問題なら大ありだ!
貴様の姿は俺にしっかり見えているんだからな!家族がくつろぐ居間で貴様の姿がちらついては休息すら取れん!』
「あ、キース、戻ったんですか。」
タイムリーに振り返る副官の笑顔に、キースは調子が狂ったように表情が崩れそうになる。
「ま、まあな。」
咳払いをしてソファに座りながら、こちらを睨みつけることは忘れない。
…君たちにはすまないと思っているが、僕にはこれが面白い。敬老精神を発揮して、どうかこの哀れな年寄りの娯楽に付き合ってほしいものだ。
『貴様のどこが哀れだ?この若作りが!』
心のつぶやきに、むっとする前に不思議な気分になる。
君は僕の考えていることも分かるようになったのか…。
『大体貴様、こうやってマツカのそばにちょこちょこ現れやがって…!まさかと思うが、マツカに取り憑こうと考えているわけではあるまいな…?』
…僕の考えていることが分かるくせに、なぜそんなとんでもない思い違いをするのか理解に苦しむが…。
「副官の彼に取り憑く?冗談はやめてほしいものだ。
そんなことをしたら、僕は君を世話するために四六時中働いていなければいけないじゃないか。」
ジョミーの世話ならまだしもだ。
『では貴様の目的は何だ…?』
そう、探るような目つきでにらまれるのに。
「だから、娯楽だ。」
笑いながら言うと、今度はかちんときたらしい。
「そんなことで俺の平和な家庭生活を乱すなー!!」
怒鳴ってから、はたと我に返って、慌てて副官を振り返る。
副官のマツカは真っ青な顔でキースを見つめていた。
「…キース…、まだ治っていなかったんですか!
さあ、早く病院に行きましょう!」
「マ、マツカ、そうじゃない、これは…!」
…少し悪いことをしたかな、と思ったけれど。
これも幸せの形と言うことで満足してもらおうと思って、姿を消す。
「何が幸せの形だ!責任を取れー!!」
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別名、キース受難話。少しどころか大いに悪いことをしているような…。何気にいたずら好きの妖怪と化しているブルー。 |
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