「僕がどこにいようと、君には関係ないと思うけど?」
「今日は嫌味を言いに来たわけじゃない。ちょっと貴様に用があってな。」
…用…?
ジョミーの墓前でまた彼に会ったので、先制攻撃のつもりで言ってみたが、どうも今日はいつもとは違うらしい。
「珍しいね。一体なんだい?」
「察しているとは思うが、俺たちには頼るべき身寄りを持たない。爆撃で死んでしまったんでな。」
俺たち、という言葉を聞いて君は今もジョミーと一緒にいるんだなと思って切なくはなったけど。
「…そうだと思っていたが。」
戦争の真っ只中だから戦災孤児は多い。しかし、君には十分生活力があるから、戦争によって親を失ったとはいえ、いわゆる戦災孤児というものには当たらないだろうとも思う。
しかし、それがどうしたのだろう。
「ジョミーの身内と呼べるものは俺だけだが、俺も出かけなきゃいけなくてな。」
その言葉が意味するところはすぐに分かった。
「…徴兵か。」
「そういうことだ。いつ戻ってくるか分からん。」
君は今も昔も戦いに身を置く宿命か…。因果なものだな。
「拒否はしないのか?わざわざ殺し合いの場に赴くこともないだろう。」
「…貴様が俺を心配してくれるとは意外だな。」
嫌味ったらしく視線を向けられるのに、ついこちらも嫌味で応酬したくなる。
「君に何かあったら、ジョミーが悲しむからね。」
君を心配したわけじゃないと言外に匂わせるが、苦笑いする君には通じているのか通じていないのか。
「…なるほどな。
そのジョミーのことで頼みたいことがある。俺がいない間、この墓の面倒を見てやってくれないか?」
…僕に?
その内容よりも、君から僕に頼みごとをするという事実のほうに驚いて、まじまじと顔を見てしまった。
「貴様が嫌なら無理にとは言わん。」
「そんなことは言っていない。君から頼みごとをされるとは思っていなかったから、つい固まってしまっただけだ。」
…それにしても。ジョミーの墓の面倒…?
「言ったとおり、他に頼める奴がいなくてな。」
…素直じゃないな。こんなにジョミーのことを思い続けてくれる人が大勢いるのに、頼める人がいないはないと思うんだけど。
「分かった。僕はここでジョミーと君の帰りを待つとしよう。」
ついでに、ジョミーの次の転生もこの場で待たせてもらおう。
そう言うと、君は思いっきり嫌な顔をする。
「言っておくが、俺が帰ってきたら貴様はお役御免だからな。」
「狭量な男は出世しないと思うよ。」
「余計なお世話だ。」
それでも、僕に墓守りを頼むのは君だろう?
つい表情が緩んでしまうのは仕方ない。君とこんな会話を交わせるとは思っていなかったからね。
「気持ち悪い奴だな。」
それなのに、君は顔をしかめてこちらを見ている。
「まったく失礼だな、君は。気持ち悪いはないだろう。」
「頼んでいるのは墓守りなんだぞ?それなのに嬉しそうな顔をしていたら、気持ち悪いとしか言えまいに。」
「…なるほど。でも僕にとっては嬉しいよ。
前のときは遺体すら残らなくて、しかも戦いの真っ最中だったから、墓ひとつ建ててやれなかった。それどころじゃなかったしね。
だから、ジョミーの墓を守ることができる日が来るとは思っていなかったから。」
それに、皮肉屋の君の頼みごとだしね。
「…生きた本人じゃなくて、墓だぞ?死体は入っているがな。」
「…君には墓所に対する敬いの気持ちがないのか?もちろん生きている本人だったらなおのこと良かったんだけどね。」
それで、君はどこの戦地へ行くんだ?と訊くのに、君は空を眺めてため息をつく。
「そうだな。他の星だからそう簡単には帰ってこられまい。」
「無事帰ってくる日を待っているよ。」
そう言えばまた顔を歪めてこちらを見る。
「貴様からそんな気色の悪い言葉を聞こうとはな。」
「素直に嬉しいとくらい、言ったらどうなんだ?」
「どうせ貴様のことだ、ジョミーが待ってるからとか言うんだろうが。」
「そうだね。」
やっぱりな、とつぶやくのにおかしくなる。君とはずっとこんな感じなんだろうね。
「それで貴様本当にいいのか?」
墓守り、と言われるのに。
「構わないよ、定住場所もないから引越しもないしね。」
「亡霊にそういう心配はしていない。
それにしても亡霊に墓守りを頼まなきゃならんとは…。俺も情けない限りだがな。」
「…頼むから、亡霊亡霊と連呼しないでくれないか?」
事実ではあるけれど、聞いていて気分的によくない。
「亡霊を亡霊といって何が悪い。」
「…死者を敬う気持ちもないようだね、君には。」
君とはこれからもこういう会話を繰り返すことになるのかな。
決して愉快なわけではないが、かといって不快ともいえない。こんな関係なら、許容範囲かと思った。
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拍手連載!ブルーとキースでほのぼの狙ってみましたが!思いっきりコケました…。 |
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