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 もう少し早く気がつけばよかった。そう思っても後の祭り。前と同じで、君を看取ることさえもできないなんて。
 君はもうここにはいないと分かっていても、つい君の墓前に立ってしまう。雨が降りしきる中こうしていると、身体を持たないはずなのに涙を流している錯覚に陥りそうになる。
 『享年15歳』
 早すぎる。君はまた僕を置いていってしまったんだね。今度はその存在さえ知らないうちに。
 遠くで戦闘機の飛び交う音が聞こえてくる。今は戦争の真っ只中だから、それは日常の風景だ。
 人間はやはり同じ過ちを繰り返す生き物だとつくづく思うが、これも定めなら仕方がないのだろう。少なくとも、人自身が選んだ未来だ。機械に管理され、考える力さえ奪われていたことを考えれば、まだいいほうだと思わなければいけない。
 「誰だ…?」
 不意に聞こえたその声に顔を上げて、驚いた。
 …君は…。
 「弟の墓に、何か用か…?」
 傘を差して、白い花束を持ってやってきた青年には覚えがある。
 そうか。現世では、君はジョミーの兄だったのか。警戒心むき出しでこちらをにらむ姿に、はるか昔に敵として対峙した君が重なる。
 「…昔の友人の墓参りだ。」
 そう言うと、君は警戒心をさらに強くする。
 「貴様のような友人が、弟にいたと言うことは聞いたことがないな。」
 「そうかい?」
 「大体貴様、この世のものではないだろう。」
 「よく分かったね。」
 そう応じた後、この雨でもまったく濡れていない上に、時代錯誤な服装だからそう思われるのも当然かと思った。
 「でも、ジョミーの昔の友人というのは本当だよ。確かに、ずっと昔の友人だったし、ジョミーにとっては、僕は友人というよりも腐れ縁のような気でいたかもしれないけど。」
 その言葉を信じたのかは分からない。けれど、少しは警戒が薄くなったようで、君は薄く笑いを浮かべる。
 それなら、はるばる来てくれた礼ぐらいしてやるか、とつぶやいて。
 「時間があるなら寄って行くか?茶くらい出す。」
 …君にしては、破格の対応だろうね。ならば、君の気が変わらないうちに。
 「では、お言葉に甘えようか。ジョミーに会えなかった分、君には彼のことが聞きたいし。
 でも気遣いは無用だよ、僕はこの世の生き物ではないからね。」
 「そうだったな。」
 
 「ジョミーはなぜ死んだ?戦争の犠牲というわけではないのだろう?」
 そう言うと、君は嘲ったような笑みを浮かべる。
 「そんなことも知らず、墓参りをしていたのか。」
 …相変わらず嫌味だね、君は。
 そうだった、君は昔もそうやって人を挑発するようなことを口にしていたなと思い出した。
 「すまない、気がついたのが最近だったものだから。」
 「ほう、亡霊である貴様が仮にも友人の死に気がつかなかったのか。」
 さすがに不愉快な気分が表情に出てしまっているなと感じたが、仕方ない。それに、今や君を相手に本心を隠す必要もないし。
 「…何か皮肉を言わないと気がすまないのかい?
 いくら僕でも万能というわけにはいかないからね。増してや、ジョミーはずいぶん早くに逝ってしまったようだから。」
 そう言えば、それもそうかとつぶやく。
 「万能なくらいなら、雨の中墓場で突っ立っていることもないだろうからな。
 ジョミーが死んだのは1ヶ月前、交通事故だ。近所の子供をかばって。」
 …ジョミーらしくて納得してしまう。
 そういう理由なら、彼自身も心残りはなかっただろう。安心したけれど、ジョミーに会えなかった僕の気持ちがそれで和らぐわけでもない。
 僕がこんなことを言うとジョミーは怒るだろうけど、もう少し自分自身のことを考えて行動してもらいたいものだ。自分を後回しにするのは彼のいい癖でもあり、悪い癖でもある。
 …少なくとも、残される身には元気だった君が突然いなくなるということはひどく辛い事実だということを、知っておいてほしい。
 「それで、貴様はジョミーに会ってどうするつもりだったんだ?」
 ふと目をやると、探るような目つきで見つめてくる。
 「どうもしないよ。約束だから会いに来ただけだ。」
 はるか昔に交わした約束だけど、僕にとっては大切なものだから。
 「…貴様が生きていたのは随分と昔のことだろうが。生きて会えたとしても、多分弟は覚えていなかったと思うがな。思い出しもしなかったかもしれんぞ。」
 「構わない。」
 忘れていたとしても、ジョミーには間違いないから。
 すると、君の薄ら笑いの中に呆れたような色が混ざった。
 「随分と入れ込んでいたんだな。」
 「…そんな生易しいものではない。」
 入れ込んでいたとか惚れ込んでいたとか。
 ジョミーに対する気持ちはすでにそんなレベルじゃない。だからこそ、彼に会えないことがこんなに悲しいのに、待つことをやめられない。
 …それを見越して、君はいつやめてもいいからと言ってくれたのだろうと思うのにね、ジョミー。
 それでも、現実に満足しよう。今回は君と会えなかったけれど、間違いなくこの世に生を受けているのだから、いつかは会えると。
 それから。
 「ジョミーとは会えなかったけど、君と会えてよかった。」
 あのときは敵として向かい合った君と。
 「…俺は貴様と会ったことがあるのか…?」
 その言葉に、怪訝そうになる、君。
 「さあ、どうだろう。随分昔のことだからね。」
 澄まして言うと、君は不快そうな顔になる。
 このくらいの意趣晴らしは許してもらおうか。
 人類統合軍キース・アニアン国家主席殿。
 
 
 
 
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        | 拍手連載!守護者でキース編書いてみたくて挑戦したんだけど、やっぱりギャグだわ…。 |   |