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  冥王星の戦いに勝ち、その基地から情報を引き出した瞬間。…身体が凍りついた。
 「こ…れはいったい、何だ…?」
 「これが…地球だというのか…?」
 …誰もが、そう、僕も声が出なかった。
 人類、いや、ミュウをも含めた人間の心の拠り所が、こんな荒廃した茶色の星だとは、誰が想像しただろう。美しく、青く輝く星。生命を生み出した、母なる海を抱く星。マザーの刷り込みによるものだろうが、そのイメージが強かった自分たちにとっては、それはひどく衝撃的なことだった。
 人類が、冥王星基地が陥ちることを見越して、僕たちを動揺させようとする罠か、と。すぐにそう思った。いや、そう信じたかった。
 ここは人類統合軍にとっては最後の砦。突破されることなど考えていなかっただろうに、そんなあり得ないことまで思いつく始末だった。
 では私たちは…?
 いったい何のために…!
 僕たちはいったい何のために…?
 死んでいった仲間たちはいったい何のために…!
 怨嗟と絶望の声。それが充満する。そんな中、いつもの涼しげな声が耳を打った。
 「皆の言いたいことは分かる。だが、あれが我々の地球だということに変わりはない」
 視線を向けた先。悠然とたたずむその立ち姿に。
 言い知れぬほどの安心感を覚えた。
 やはり、この人でなくてはいけない。ミュウのソルジャーはこの人でなくてはならないのだと、改めて思った。紅い瞳は、思念の乱れひとつない。
 「そう、だな」
 どんな姿であっても、僕たちの目指した星であるという事実は変わらない。
 「あれが、人間たちの犯した環境破壊の跡だよな。じゃあ、戦いが終わったら忙しくなる。地球再生のことまで心配しなきゃいけなくなるんだから」
 唖然とした雰囲気の中、くすっと笑う声がする。
 「気が早いな。まだ、その地球へさえたどり着いていないんだよ?」
 ジョミー、と。
 それは抗いがたい事実ではあったけれど、この人の言葉は優しくて、不思議と笑いがこぼれた。それにつられるように、皆の顔に笑みが宿るのを見て…ほっとした。
 「君が皆の気持ちを変えてくれて、助かったよ」「へっ?」
 青の間で、これからのことで話があるから来てくれと。そう言われて身構えたんだけど、微笑みながらかけられるその言葉に拍子抜けした。
 これからのことというからには、てっきりこの後くるだろう、人類とミュウとの決着の役割分担かと思ったからだ。
 …確かに、この人の身体機能は限界に近いことは分かっている。それをだましながら先頭に立っていることも。後継者の話をたびたび持ち出すのも、そのせいだ。でも、それは機能が限界に近いだけであって、限界には達していない。まだ死んでいないのに、自分が死ぬ話ばっかりしている。
 『君の後継者だけは、絶対にいやだ!』
 何度そんなふうに怒鳴っただろう。ブルーの後継では、比べられることは間違いない。いつも希望を持って前に進む、ミュウの先導者。先の赤茶けた地球の大地のことではないが、何事にも動じず、しっかりと前を見据えている。ブルーがいなかったら、ミュウはしばらくあの地球の姿に自らの存在意義を問い、混乱の渦に巻き込まれていたことだろう。
 いや。本当にいやなのは、比べられることじゃなく…。
 「…変えたのは僕じゃないよ、ブルー」
 ソルジャーである君が、最初に言ったんじゃないか。どんな姿であっても、僕たちの地球に変わりないって。
 「いや。君が変えたんだよ」
 ふっと微笑んで、ブルーはスクリーンを呼び出した。そこに、先に見た地球の姿が映る。
 「この地球を浄化とは少し気が早いとは思うが、君になら任せられる」
 「…やっぱり来たか」
 その嬉しそうな言葉に。ジョミーは自分の直感が当たっていたことに、舌打ちしたい気分に陥った。
 「言っておくけど! 君の後継になれって話だったら、考えなおすつもりないからね!」
 だから。思いっきり怒鳴ったが、ブルーはどこ吹く風と、いつもどおり涼しい顔だった。
 「考えなおすも何も、君しかいない。そうじゃなくて、このあとのことだ。一応は話し合いを要求するつもりだが、話し合いになるかどうかは怪しいものだと見ている」
 「戦いになれば僕が出るよ! いまさら確認すべきことでもないだろ!?」
 するとブルーはひとつため息をついた。
 「その無鉄砲なところに釘を刺しておこうと思っているんだが。むろん力は貸してほしい。だが、あくまで後方で援護してくれ」
 「やっぱり…! そんなことを言われるんじゃないかと思ったんだよ! 『僕は地球の姿を見られただけで十分だから、後は君に頼む』なんてこと言い出すつもりなんだろ? 君に肉弾戦に耐えられる体力があるわけないんだから、そういう現実味のない話は…」
 けれど。その静かな瞳に言葉を切らざるを得なかった。
 「君の気持ちは嬉しい。けれど、こればかりは譲れない」
 「ぼ…僕だって譲れない! 体力がないくせに、なにを偉そうに言ってるんだよ!」
 「体力とは」
 ブルーは淡々とした言葉を継いだ。
 「体力とは、この身体の力のことだ。いざとなればそれを脱ぎ捨てて戦うこともできる。おそらく、君よりも僕のほうがその能力に長けているだろう」
 「…!!! 君は自分の身体を何だと思って…!」
 何でもないことのようにいうブルーに、腹が立った。
 身体を脱ぎ捨てる? それがいったい何を指しているのか、本当に君は分かっているのか!
 瞬間的に相手を殴りつけたい衝動に駆られたジョミーだったが、そのとき突然通信機が鳴った。
 『ソルジャー、ジョミー、すぐにブリッジへ来てください!』
 声がひどく慌てている。
 「どうかしたのか」
 ブルーが何もなかったかのように応える。
 『木星の衛星に…ミュウの収容所があるという記録があります…!』
 「? それは、アルタミラのことではないのか」
 ブルーや長老たちがいたという収容所。すでに衛星ごと破壊されてしまったのだが、つい最近その事実が判明した。当然、この通信を送ってきたものも知っているはずなのだが。
 『アルタミラではありません! 別の衛星に…今も存在しているのです!』
 その言葉に…耳を疑った。
 
 
 
 
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        | 久しぶりの更新は、『守護者』の過去バージョン。ジョミー死亡の真相ってか〜。こちらのジョミーは原作意識なので(どこが?というツッコミは聞こえてきそうですが!)ブルーに対しても『君』呼ばわりで、思いっきり対等な立場を貫いております。この番外編、いつもの軽い雰囲気ではなく、少しばかり重いですvv
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