「…で、今度は君が怪我か…。」
病室の壁に、ブルーの呆れ返った声がはねかえる。
「いつものことだろ?」
手、足、頭とぐるぐるに包帯を巻かれた姿でベッドに横になっているのは、ジョミーだった。それでも、彼の減らず口は健在らしい。
「寝ていなければならないほどの怪我はいつもか?よくここまで命があったものだな。」
いつも以上に冷たい響きだと思うのは気のせいではないと思う。
まったくこの人は、ひどく嫌味っぽいし、結構怒りっぽい。ついでにたまに子供っぽい。しかも僕に限って。
「怪我人にそんなひどいことを言う?」
一体何の恨みがあるんだよ?
「僕が倒れたときに、散々やさしく慰めてもらったからね。」
にこやかにそう言われるのに、ため息が出る。
人類統合軍との小競り合い。確かにいつものとおりにやればいいと高を括っていたことは認めるけど。
…そんなに根に持つことはないじゃないか。
「それで、この見舞い品の山は…。」
ベッドの反対側のテーブルには、花束やお菓子が積まれている。それを見て、さらに唖然としているらしい。
「あ、それ、艦内の女の子からの差し入れ!僕だって、ちょっとは人気あるんだからな!」
偉大なるソルジャーには敵わないけどと、ちょっと卑屈な気分にはなったけど。
「君の人気は子供たちだけかと思っていたよ。」
不機嫌そうに言うのに。
「それは君の認識不足。」
そうあっさりと返すと、さらに不愉快そうに顔をしかめる。
「…そうやって浮ついているから、怪我などするのだろう。」
よほど気に障ったと見えて、声が地を這っている。しかし、ここまで来ると、もうただの言いがかりとしか思えない。
「だーかーら、どうしてそんなに嫌味なわけ?
あ、分かった!自分が倒れたときよりも見舞いが多いから、ヤキモチ焼いてるんだろ?」
「見当違いもはなはだしい。」
「じゃあ何だって言うんだよ!」
それに対して、ブルーは何も返さなかった。その様子に、ジョミーは密かにほくそえむ。
へえ、この人も意外に普通の一面を持ってるんだな。いつも何考えているかよく分からないけど、見舞い品の多少でこんなに感情的になるなんて!
大体君と僕じゃ、周囲の連中の親近感が違うんだから、僕のほうが多くて当然だろ?そんなことで拗ねるなんて…。
「ソルジャーからは、見舞いはないの?」
ついからかうと、今度は完全に気分を害したらしい。冷たく冴えた瞳が鋭さを増した。
「あいにくと、自分のミスから怪我をするようなうっかり者には、見舞いすら惜しいものでね。
いや。相手の戦力を見誤るなど、ミス以前の問題だ。その迂闊さで、味方を危機に陥れそうになった反省すらしていないとは。怒りを通り越して呆れ果てる。」
氷のような冷ややかなまなざしに、この人の怒りようが知れて何とも言えない悲しい気持ちになってしまう。
「…そこまで言う…?」
さすがに…。こんなにはっきり言われてしまうと、ちょっと…、へこむ。
確かに、そのことは自分でも軽率だったと感じていたものだから…。でも、結果オーライでいいじゃないかと思っていたし…。
気まずい沈黙が落ちる。
それもそう、だよな…。
忙しいはずのブルーが心配して見舞いに来てくれたと思って、はしゃぎすぎた…。
ごめん、と謝ろうとして。
「…すまない、言いすぎた。」
逆に謝罪されるのに、びっくりして顔を上げた。
改めて見つめるブルーの沈んだ表情からは、さっきの怒りの片鱗もないことに少しだけ安心する。
「あの場面からひっくり返したんだから、君の機動力は大したものだと認める。
ただ…。」
少し言いよどんでから、再び続ける。
「あまり…、心配はかけないでくれ。見ているこっちの寿命が縮む。」
その言葉に、つい笑ってしまった。
「…分かったよ、君を早死にさせたくはないから。」
もう無茶はしないようにする、と言うと、綺麗な顔に微笑を浮かべてこちらを見るのにほっとする。
…やっぱりブルーは笑顔のほうがいいよな…。
「…さすがに見舞い品を返してこいとは言えないし…。」
「え?何か言った?」
珍しくぼそぼそつぶやいているから、何を言っているのか分からなかったんだけど…?
「いや、なんでもない。
それよりも、僕からの見舞いのことだが。」
「ああ、それ冗談だよ。」
ブルーが来てくれただけで嬉しいんだから。
そう言っているのに、思案気に続ける。
「確かに手ぶらだが…、何か欲しいものはあるのか?」
せめてリクエストに応えようというのに、今度はこちらが慌てる。
「だからいいんだって!多忙な君がここにいてくれるだけで!」
「僕がここにいればいいのか?それなら、この後の予定はキャンセルしよう。」
「はあ!?」
何言ってんの?ただでさえ忙しいのに、僕のポカでフォローしなきゃいけないことが山のようにあるはずだろ!?
「では少しだけ待っていてくれ。予定を調整してくる。」
言いながら、病室を出ようとするブルーに慌てる。
「ちょ、ちょっと待ってよ!ソルジャーがそんなことしたらダメだろ!?」
そんなことされたら、困る人たちがいっぱいいるし!
「構わない。」
「僕が構う!ていうか、僕が長老に怒られるから!」
「気にしなければいい。」
「いや、すっごく気になる!ブルーは気にならないかもしれないけど、僕は小心者だから…!
ってブルー!聞いてるの!?」
そう叫んだときには、病室のドアは無情にも閉まっていて、部屋には自分ひとりになっていた。
…ま、いいか…。ブルーと一緒に過ごすなんて滅多にあることじゃないし。
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拍手連載!素直になれない二人、ということで、やたらと守護者過去編は県下が多いです〜。でも、結局はぬるい関係に…。
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