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 いつもの訓練の合間。
 シャングリラの緑地地帯で、勝気そうな彼女に捕まって何を言われるかと思えば…。
 「え?」
 一瞬、何を訊かれているのか分からなかったから、つい訊き返してしまったんだけど。
 「だから、ジョミーなら知ってるかと思って!ソルジャー・ブルーの恋人!」
 はあ?何でそんなことを僕に聞くわけ?知るわけないよ。
 大体、ブルーに恋人なんているのか?あの人に、ただ付き合うのも大変なのに。恋人になれる人なんかいるのかな?
 「やっぱりフィシス様かしら?」
 「知らないけど、そうじゃない?」
 「ひどい!冷たいじゃない、ジョミー!」
 冷たくはないと思うんだけど。それよりも。
 「何でそんなこと知りたいわけ?」
 ブルーに恋人がいようがいるまいが、それが人だろうがモノだろうが。どうだっていいじゃないか。
 「そりゃあ、興味があるからよ。
 あんなに素敵な人いないじゃない。恋人がいても不思議じゃないのに、よく分からないし。だからよ。」
 「興味?まさか、ブルーのこと好きってわけじゃないよね?」
 「いやだ、そんな大声で言わないで!」
 と、すごい勢いで肩を叩かれた。
 え…?まさか本気…?
 真っ赤になって、そんなにはっきり言わなくても、とか、誰かに聞かれたらどうするの!と大騒ぎしている。
 確かに。
 黙って立っていれば、これほど聡明で麗しく、まわりから尊敬を集める人はおるまい。理知的な紅い瞳、一分の狂いもなく創られた白皙の美貌は、神の所業と言っても過言ではあるまい。そして、その指導力の高さとカリスマ性。何を取っても誉め言葉しか出てこない。
 でもさ、一旦口を開けば結構変な人なんだよ?ただ、あの人の外見のよさで、みんな気がつかないだけで。
 「ねえ、ジョミーならソルジャーとよく話をしてるし、聞いてきてよ!」
 お願い!と手を合わせられて、困ったなと思う。
 そんな頼まれごとなんて、苦手でしょうがない。
 「ナイショなんだから、それとなく聞いてよ?」
 それなのに、彼女はさらに難しい注文をつけてくる。
 「…それって無理だって…。」
 あの人と話すときには、主語を抜いたり思わせぶりな話し方をしたりはできない。本人があいまいな言い回しをしないから、そういった話し方は好きではないのだと思う。結局のところ、白状させられることになる。
 「だから、その辺はジョミーの腕の見せ所じゃない!」
 「そんな見せ所、いらないよ…。」
 嬉々として言う彼女に、げんなりしていたとき。
 「楽しそうだね。」
 背後からかかった涼やかな声に、心臓が飛び出るくらいに驚いた。
 「な、何でこんなところに…!?」
 振り返ると予想に違わず、恋人の有無さえ分からないミステリアスな指導者がそこに立っていた。
 「おや。僕がここにいたらおかしいかい?」
 この笑顔なんだよな。これにみんな騙されるんだよ!
 「じゃあジョミー、お願いね!」
 「え?ちょっと待って、やっぱり僕?」
 本人が来たんだから、自分で聞いてくれればいいのに…。
 慌てて逃げるように行ってしまった彼女に、ちょっとした愚痴を心の中でこっそりつぶやいてから、ブルーに向き直る。
 「何か面白い話でもあったのかい?」
 あの…、何気に怖いんですけど…。
 その微笑の中に何かあるような気がして仕方ない。みんな気がつかないみたいだけど。
 「…あー…、面白いって言うか何ていうか…。」
 「君にしては気を持たせる言い方だね。」
 それにしても。
 この人の、恋人?やっぱりフィシス、なのかな?だって、この人の相手なんかできる人は、彼女ぐらいしか思い当たらないし。
 「ねえ、君に恋人っている?」
 当たって砕けろだ、僕にこんな手の込んだことを頼む彼女が悪いんだから!
 「そんな話をしていたのか…。」
 あの手この手で口を割られるくらいなら、さっさと言ってしまおうと思って単刀直入に聞くことにした。この人が本気になったら、僕なんかじゃ敵うわけないんだから。
 「まあそんなとこ。で、いるの?」
 「そうあっさり訊かれると複雑だな…。」
 あれ?ちょっとがっかりしているような気がするのは、気のせいかな?
 「君には?」
 「誰も僕のことなんか聞いてないだろ!?」
 しかし、素早く立ち直って問い返される言葉に、むっとする。何で僕のことを訊かれなきゃいけないんだよ!
 「交換条件だ。
 君が答えたら、僕も答えよう。」
 意地悪そうな微笑を浮かべるブルーに呆れてしまう。
 まったく、相変わらずこの人はずるいんだから!
 「ああ、そう?僕はいないよ!」
 すると、この人はわが意を得たりとばかりに笑う。経験上、こんな笑顔を浮かべるときには、ろくなことを言われない。
 「じゃあ、僕が君の恋人に立候補しよう。」
 「な、何言ってるの!?」
 一体、何を言い出すんだ!この人は!!
 「君に恋人はいないんだろう?僕もいないんだ。」
 「だからってどうして君が僕の恋人になるわけ!?」
 「嫌なのか?」
 「嫌だよ!決まってるだろ!」
 「そうか。
 じゃあ、彼女には、僕の恋人は君だと言っておいてくれ。」
 「君、人の話ちゃんと聞いてるのか!?」
 
 …というわけで、彼女には上手くはぐらかされたとしか言えなかったけど。
 やっぱりブルーは変な人だと自覚させられた一件だった。
 
 
 
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        | 拍手連載!思い立って、守護者過去編で日常のほのぼのを書いてみた〜。ブルー、やっぱり変人…。 |   |