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 『シールドが消えたら、君にはすぐに分かるんだよね?』
 「…そうだね。」
 気乗りしないような返事だったけど、この人はあっさりとうなずいた。
 多分これは、先に見た妙に重たい夢の続きなんだろう。多分、これは『僕』が死ぬ直前。この場所は先の会議室のような部屋じゃなく、戦闘機が置いてある格納庫のようなところだった。
 『その、君を疑うわけじゃないけど、変なこと考えないでよ?』
 「…それはない。安心したまえ。
 君が作ってくれるチャンスを潰すようなことはしない。」
 『ならいいけど。』
 『僕』はほっとしたように吐息をついたあと、この人を見つめた。
 『じゃあ、あとのことはお願い。』
 そう言えば、この人は『僕』から視線をそらした。
 「…すまない。」
 『何で君が謝るの?」
 「彼らに包囲される前に、早く気がつけばよかった。」
 『そんなことを言うなんて君らしくないじゃないか。
 それに、そういう話なら君一人のせいじゃない。僕やほかの仲間たちもすっかり油断していたんだから。』
 「しかし…。」
 『ほら、いつもの君はどこに行ったんだよ。
 後悔する前にさっさと行動、状況の回復に努めるってのは、君の信条だろ?』
 「…そんなこと、はじめて聞いたな。」
 『そうだっけ?』
 『僕』の声は、この人と比べるとかなり明るい。死を目の前にしたものとはまったく思えない。
 『でさ、お願いついでにもうひとつ。』
 「何?」
 『僕の代わりに地球を見守って。
 もう半分死んでいるような星だけど、僕たちの希望だったわけだし。』
 例の、遺言だった。
 「それが君の望みなら。」
 『よかった。』
 この人の了解の返事を聞いて、『僕』は嬉しそうにそう言ってから口調を改めた。
 『では、行ってきます。』
 きびすを返そうとした『僕』をこの人は呼び止めた。
 「必ず戻ってくると約束してくれないか。」
 それは、ほぼ死ぬと分かっている『僕』に対する慰めに似た言葉なのだろう、そう思った。しかし、この人の表情は真剣そのもので、気休めに言っているとは到底思えない。
 『うん、死ぬ気はしない。だからさよならなんて言わない。』
 一方、こちらも虚勢でもなんでもないようだった。『僕』は本当に戻ってくる気でいるらしい。
 「では、僕は君を待っていてもいいかな?」
 『…でも、戻ってくるまで時間かかるかもしれないよ?』
 しかし、さすがにこの人が『僕』を待つことには難色を示した。状況的には生きて戻ってくることのできる確率などゼロに等しく、待ちぼうけを食わされることは必至だからだろう。
 「構わない。」
 『本当に何日とか何年とかの問題じゃないかも?』
 「それでも。」
 『どうしても君がそうしたいって言うなら止めないけど。ていうか、止めても聞かないでしょ。』
 「そうだね。」
 『待ちくたびれたら、やめてもいいから。』
 「その言葉はありがたく受け取っておくけど、多分それはないだろう。」
 『…君は本当にずーっと待ちそうだから怖いよ。』
 「君が迷惑だと言ってもね。」
 『…まったく頑固なんだから…。』
 「ようやく自分でも、そうかもしれないと思ったよ。」
 『今頃やっと?』
 『僕』の笑いを含んだ言葉に、この人は静かに微笑んだ。現代ではよく見せてくれる表情だが、夢の中では初めてかもしれない。
 「戻ってくるときには、真っ先に僕のところに来てくれると嬉しい。」
 『忘れてなかったら。』
 『僕』の返事に、この人はつれないねとつぶやいた。
 「じゃあ、僕が覚えておこう。君の姿かたちだけじゃなく、魂の有り様まで。
 君が忘れてしまっていても、必ず探し当てられるように。」
 『そこまでする…?』
 「させてくれるだろう?」
 『…好きにすれば、としか言えないよ。』
 「ありがとう。」
 言いながら微笑をたたえるこの人に、『僕』はため息をついた。
 『やっぱり君は変な人だよ。』
 「そうかな。」
 『そうだよ。
 もう行くからね。時間がないって言うのに、変なところで油売っちゃったじゃないか。』
 「そうだね。では気をつけて。」
 『うん。またね、ブルー。』
 「幸運を、ジョミー。」
 その瞬間に。
 すべてのパズルが解けた。
 
 
 
 
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        | 拍手連載!過去部分でほのぼのは貴重!でも最期のあたりだから…。 |   |