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 目覚めたときに真っ先に見えたのは、あの人の顔だった。
 「おはよう。」
 そう言って微笑むこの人に、さっきの夢が重なる。
 もしかしてこの人も、あのとき看病できなかった彼と、僕が重なっていたりするんだろうか…。
 そう考えると、面白くなかった。
 「熱は大分下がっているよ。」
 そう言われて気がついたが、身体が軽くなったような気がする。いや、簡単に身体を起こすことができるということは、やはり病状はよくなっている、ということなのだろう。
 「あの、ありがとうございます。」
 「僕は何もしてないよ。もう治る時期だったんだろう。」
 「でもあなたの手が気持ちよかったから…。」
 「そう言ってもらえて嬉しいよ。」
 悲しげに思える微笑みに、やはりと思う。
 少し翳りのある表情は、仲のよくなかった『彼』のことを思い浮かべている証拠。そんなこの人の切ない表情は好きなのだが、その事実は気に入らないことに違いない。
 もちろん、そんなことは言えない。言っても仕方のない話だ、その相手はすでにいないのだから。
 「ずっと起きてたんですよね?疲れてないんですか。」
 だから強引に話題を変えた。
 すると、この人は笑顔のまま首を振った。
 「言ってみれば、僕は精神体だから。眠らなくても休養は取ることができる。
 それに起きていたといっても、生身の身体じゃないから肉体的疲労もないしね。」
 …ちょっと便利かもしれない…、と思ってしまう。
 「では、僕はもう帰ろうか。」
 「え、もう…?」
 思いっきり不満そうな声になってしまったが、それは仕方ないと思う。
 この人はずっと僕の寝顔を見ていたのかもしれないけど、僕は寝るちょっと前と、起きてから今までの短い時間しかこの人と話をしていない。
 「そろそろ君のお母さんがここに来るころだよ。
 僕の姿は見えるか分からないけど、見えてしまって驚かせてはいけないから。」
 それはマズいかも…。
 いや、それ以前に、ママに世話を焼かれているところをこの人に見られるのは恥ずかしいような気がする。
 でも、これでしばらく会えないなんて…!
 「じゃあ、後で僕が博物館に行きます!」
 そう言うと、この人はまた困った顔をした。
 「…ジョミー、熱が下がったといっても、風邪が治ったわけじゃないんだから。
 無理するとこじらせてしまうよ?」
 「大丈夫です!」
 「それでは僕が困る。元気な君の姿を早く見たいんだから、今大事を取っておかないと…。」
 「でも、僕はあなたと最近全然話してないし、もう身体は動くし…!」
 頑として言い張るジョミーに、この人はため息をついた。聞き分けのない子供を相手に手を焼いている様子そのものだ。
 「…分かった。
 じゃあこうしよう。夜まで待ってくれないか。」
 「夜…?」
 「君が出歩くことには反対だから、僕がここに来るよ。昨日よりも体調がよさそうだから、少しくらい夜更かししても大丈夫だろう。」
 「うん、昼間寝ておくから!」
 一転して笑顔を浮かべると、この人は呆れたように笑った。
 「語り明かす気かい?」
 それはいいこと聞いた。今晩ずっと起きていられるように、この人が来るまで寝ていよう。
 そう決めた。
 
 
 
 
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