またこの夢…。
でも、いつもと様子が違うのは、まず彼と二人っきりではなく、何人かと向き合っているということ。しかも、かなり深刻な話をしているようで、ここにいる全員が難しい顔をしている。
しかし、どうやら『僕』が何かを思いついたらしく、ひっきりなしに喋っている。『彼』の明るい声とまわりの小難しい表情が対照的だ。
『だから、僕が行ってうまく敵の心臓部に辿りつければ、あっちのシールドを解除することができるだろ?そこをこの艦隊が総攻撃している間に、僕があの変な名前の兵器を止めればいい。
簡単、簡単。』
名案だろ?と得意げに言うのに、やはり否定の声が入る。
「どの辺が名案なのか、教えてもらいたいものだな。」
ため息混じりの呆れた声は、いつも聞きなれたあの人のものだった。
「君の思いつく作戦は相変わらず穴だらけだな。
大体、その手順で首尾よくシールドを解除して敵の兵器を破壊できたとして、君はいつのタイミングで脱出するつもりだ?」
そういえばそうですな、やはり無理があるな、とまわり中がつぶやいているのが聞こえる。
しかし、『彼』は憤慨することもなく、さらに言葉を継いだ。
『脱出なんてできるわけないだろ?する気もないし。』
『彼』のその台詞に、まわりが水を打ったようにしんとなる。
『みんな何も思い浮かばないなら、僕の作戦が一番いいってことじゃない。時間もないことだし、早速…。』
「だから君は行き当たりばったりだと言うんだ。」
さらに『僕』を遮るこの人に、あれ?と思う。
いつもは言わせるだけ言わせて、最後にひっくり返すような人なのに。今回ばかりは何か焦っているような、そんな感じがする。
「その作戦で行けば君が生きのびることのできる確率は、限りなく低くなる。それを分かって言っているのか?」
『何でもはっきり言う君らしくない。確率はゼロだと言えば…。』
と、『彼』が言いかけて、何かに思い当たったようにぽんと手を叩いた。
『その言い方からすると、君もこの作戦を考え付いたんだろ!
僕の頭じゃ思いつくのに2時間はたっぷりかかったんだから、さっさと言ってくれればよかったじゃないか。時間の無駄だよ、もう。』
「………!
だから、こんなものは作戦とは言わないと…!」
『じゃあ、聞くけど。
最小限の被害にするのと、全滅するのとどっちがいい?もう時間はないんだから、迷ってる暇なんかないでしょ。』
言いながら『彼』は、まわりを見た。
「何も君でなければいけない理由なんてない。」
他の面々が口をつぐむ中、あの人だけが反論してくる。
やっぱり何か変だ。
『適任者は僕だよ。
まず、シールドを解除して、それからあの変な名前の兵器を止めるんだよ?そこまで力を保たせられるのは僕だけだろ。』
「うぬぼれているところ申し訳ないが、君と僕の力は同等のはずだ。
それなら僕が行っても差し支えないだろう。能力的にも君に引けをとるとは思わないからね。」
怒っているというよりは、やはり焦っているように見える。この人の平生の穏やかな雰囲気などすっかり消し飛んでしまっている。
『いつもは冷静なのに、今日はどうしたんだよ。
今僕たちが「頭」を失うわけにいかないだろ?』
「その理屈で言うなら、君という「力」だって失うわけにはいかない。」
『この非常時にそんなことを言っていられるかどうか、君なら分からないはずはないと思うんだけど。
それに、さっき「それなら僕が」って言ったよね?適任者が君なら、君は迷いもなく実行に移すつもりなんだろ?』
「………。」
そう言うと、痛いところを突かれたようにこの人は黙り込んでしまった。
『手足の替えはあるけど、頭はないでしょ?』
『僕』が手足という言い方が適当なのかは分からなかったが、この人がかけがえのない存在であることは前々から分かっていた。だから、この表現には妙に納得がいった。
でも。
それを聞いたこの人の傷ついたような眼差しに、どきりとした。
しかし『僕』はそれにまったく気がついていないかのように喋り続けた。
『それで君にお願いしなきゃ。
攻撃のタイミングは僕からは指示できないから、君から出して。』
…なんて顔をしているんだろう。
淡々と言う『僕』を見つめるこの人の表情が痛々しくて見ていられない。
『タイミングがズレたら意味がないから、重要なところだし。』
多分、『彼』は暗に他のものには無理だと言っているのだと思う。
しかし、それではますますこの人を悲しませるだけなのに。
『…ねえ、こんなことは君にしか頼めないから…。』
ひどいことを言っているとは、『彼』にも分かっているのだろう。言ってみれば、同胞への引き金を引く役を頼んでいるのだから。
この人の立場上、それを断ることができないということも分かった上で。
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