彼はいすに腰掛けると、僕を見上げた。
身体の具合が悪いから部屋に戻るんじゃなかったの…?てっきりこのまま立ち去るものだと思っていたのに。
「それで?君も僕に話があったんじゃないのか?」
『いいよ、後にする。』
「別に倒れるほどじゃない。
君が急がないのならそれでもいいが。」
『じゃあちょっとだけ。
戦闘配備のこと。あれって…。』
「却下。」
取り付く島もないとはこのことだ。言いかけたところへ一刀両断に切って捨てられた。
『まだ何も言ってないだろ!?』
「どうせ後方にいるのが不満だと言うのだろう。」
『…そうだけど。』
「やはり何も聞かずに部屋に戻ればよかったな。」
と、ため息混じりにつぶやく。
『当然、理由は教えてくれるんだよね?』
「聞くとなおさら納得できないかもしれないけどね。」
『聞かなくても納得できない!』
「説明したって、どうせ君は自分の意見を曲げる気がないのに。
そのあたりは治したほうがいいんじゃないか?」
『君こそ、人の意見に耳を貸さないその頑固なところ、治したほうがいいと思うよ!』
「僕を頑固だというのは君だけだよ?」
『だからそれは、君の柔和そうな顔にみんなだまされているんだよ!』
「相変わらず失礼だな、君は。
じゃあ説明するが、今回の配置は敵部隊の戦い方に従ったまでだ。相手は罠をはるのがうまい。そこで君の傾向だが…。」
『皆まで言わなくていいよ!僕が単純だから相手の計略に引っかかるって話だろ!?』
「察しがいいのは嬉しいけどね。」
『僕はひとつも嬉しくない!』
「人には誰しも向き不向きがある。」
『悪かったね!複雑なことには不向きで!』
「別にそれが悪いわけではない。」
『慰めてくれなくてもいいよ!』
「最初さえしのぐことができればいい。」
『え、最初って…。』
「敵の仕掛けさえ破ることができれば、あとは同じだ。」
『………。』
「先頭に立つのは、そういったことを得意としている仲間だ。君は彼らを信用できないのかな?」
『…そうじゃないけど…。』
「ならば、君は後方にいると戦況が分からないとでも?常に先頭にいないと指揮を執ることができないのか?」
『そんなわけないだろっ!』
「じゃあ決まりだ。
さて、僕は部屋に戻るか。」
『あ…。』
「まだ何か言いたいことがあるのなら、明日にしてくれ。
君の推察どおり、僕は体調が悪いんでね。」
と、彼は今度こそ立ち上がって、ジョミーに背を向ける。一瞬目が合ったが、面白がるような色を浮かべていた気がしたのだが…。
しかし、そう言われては、これ以上話を続けられないではないか。
この状況は、つまり…。
『またやられた…。』
あの人を見送ったあと、呆然とつぶやく『僕』が、何となくおかしかった。
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