また、だ。
見覚えのない廊下、見覚えのない人たち。
彼らは僕のことを知ってるようで、笑いかけたり声をかけたりしてくる。そのたびに『僕』は挨拶を交わしたり冗談めいたことを言って笑っている。
ここはどこなんだろう。
それに、ここには彼はいないのだろうか…。
つい、あの人を探してしまうが、この場にはいないようだ。
『どこに行ったんだよ…。』
苛立たしげに『僕』が言うのに、おや?と思った。
この『僕』も誰かを探しているらしい。
それにしても、先ほどから『僕』は何度か話しかけられているが、やたらと敬語が使われているのは気のせいではないと思う。ということは、『僕』はそれなりに上の立場にいるということだろうか。
でも、あの人は『僕』に対して普通に喋ってるし、『僕』もあの人に敬語は使ってないし…。
しばらく歩くと、談話室のような場所に出た。そこでようやく誰かとにこやかに話しているあの人を見つけた。
この間は随分怒っていたが、今日は機嫌がよさそうだ。というか…。
博物館でジョミーに向ける笑顔とは少し違うような気がした。言ってみれば、表面上だけの笑顔のような…。
そう、イメージ的にはデパートの店員が浮かべる営業用の微笑みに似ていた。
しかし、相手はそんなことはまったく気がつかないらしい。夢中になって喋っている様子だった。
そんなに待つこともなく、話は終わったらしい。相手は目を輝かせて何度も頭を下げていた。やはり、この人は尊敬されている人であることには間違いないらしい。
相手が去って行くのを笑顔で見送って、ふと彼が僕を見る。
こちらはどきりとしたが、あちらはどうもそれとは正反対だったらしい。
「なんだ、君か。」
疲れたような表情でジョミーを見た。
『なんだとはご挨拶だね。』
『僕』は不満そうな声で応じる。
でも今の彼の表情のほうが、先ほどの笑顔とは違い、この人自身の素顔であるような気がした。
「日ごろの自分の行いを振り返ってみればいい。僕の気持ちが分かるだろう。」
『なんだよそれ。
他の人には愛想笑いするくせに、僕にはそんな気さらさらないの?』
「愛想笑い…?」
『体調よくないなら、さっさと部屋に引き上げたら?君がこんなところにいたら相談ばっかりされるだろ、君は一応人格者で通っているから。』
「………。」
『なんだよ。』
「無茶無謀無鉄砲を絵に描いたような君に心配されるとは…。」
『本気で心配してやってるのに、そんな言い草はないだろ!?』
そう言うと、この人はため息をついた。
「…悪かった。君の言うとおりにする。」
あれ?本当に具合が悪いのかな?
予備知識が何もないジョミーにとっては、彼と『僕』との会話だけが頼りなのだが、その辺はまったく明言されないため、よく分からない。
そういえば、前のときに気になる問答があったのを思い出した。
―そんなことをしていたら早死にする―
そう言ったこの人に『僕』は何と言った。
―君だって人のことは言えないだろう―
…どういうことだろ…?
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