博物館の屋上への通路はちょっと分かりづらかった。屋上に行く人間など、あまりいないためだろう。
そのためか、屋上に通じる通路には誰もいなかった。
もちろん、屋上にも誰もいない。
昨日の今日でまた来てしまって、あの人は呆れるかな…?
それから。
…あの妙にリアルな夢は一体何だったんだろう…。
あれは夢なのに、なぜだかただの夢に思えない。
あの人と仲のよくなかった『彼』ともこんな感じだったんだろうか…。
「やあ、ジョミー。」
振り返ると、にこやかに微笑むあの人がいた。触れることはできないのだろうが、今はまだ日が高いせいか昨日会ったときよりも質感を持っているように見える。
よかった、怒ってない…。
ポーズがよく似ていたせいだろうか。
給水塔の壁に寄りかかった状態で、こちらを見ている。昨日の夢の中で、不機嫌そうに話しかけてきた姿がダブった。
「あ、こんにちは、ブルー…、さん。」
「ブルーでいいよ、ジョミー。
今日は学校から直接来たのかな?」
「はい。」
「クラブ活動はしているかい?」
「はい、サッカーをやっています。」
「今日は休み?」
「え、まあ…。」
「もしかしてサボりかな?」
当たり、である。
何となく気まずくて、返事ができない。
「いつもじゃ困るけど、たまになら息抜きにいいかもしれないね。」
意外、だった。
昨日の夢の中の姿があまりにも印象深かったせいか、叱られると思い込んでいた。それが顔に出てしまったらしい。
「僕が怒ると思ってた?」
今度は苦笑いをして、生前もあまり怒ったことはないんだけど、と続ける。
「すみません、そういうつもりじゃなくて…。」
では、あなたが怒っていた相手は…、誰?
あまり怒ったことのないあなたが怒りを見せた相手って…。
「ジョミー?」
「え…?」
ぼんやりしていたらしく、彼が心配そうにこちらを見ている。
ああ、いけない。完全に夢の中と現実を混同してしまっている。
「体の具合でも悪いのかい?」
「いいえ、そんなこと絶対にありません!!」
「何もそこまで否定しなくても…。」
ジョミーの様子がおかしかったのか、また微笑む彼にほっとする。
「でも、何か気になることでもあるなら、相談に乗ろうか?」
「え…、あなたが?」
「僕では不足かな。」
「いえ、そんなこと…。」
と少し考えて、ジョミーは思い切って口を開いた。
「あなたと仲のよくなかった人のことですが…。」
そう言えば、この人は少し驚いたように目を見開いた。
てっきり相談事は、ジョミーの私生活だと思っていたようだ。
「その人とはよく喧嘩したんですか?」
「…そうだね、喧嘩の回数なんて覚えていられないほどだよ。」
「あなたが声を荒げることってあったんですか?」
そう問えば、この人は少し考えてから首を振った。
「ほとんどなかったね。僕よりも彼のほうが先に感情的になってしまったから…。
ああ、それでも一度だけそんなことがあったかな。」
ふと何かを思い出したらしく、彼は続けた。
「戦闘の最中、彼が一人で敵軍の中に飛び出して行ったことがあって、戻った彼をつかまえて注意したことがあったな。そのときばかりは彼も相当疲れていたようで、いつもの勢いが全然なかったんだけどね。
その会話の中で、自分を捨て駒のように思っているところがあったんで、つい怒鳴ってしまったことがあったよ。」
今まですっかり忘れていたけど、と。この人は笑ったけれど。
まるで同じ、だった。
じゃあ、僕が見た夢は…?
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