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  「そろそろ帰ったほうがいい。」すでに日が落ちて暗くなった外を眺めながら、この人は言った。
 「夜になると何かと物騒だし、それに君のご両親を心配させてはいけない。」
 続けて言われた言葉に納得しつつも、帰りたくないと思っている自分がいた。もう少しこの人の顔を眺めて、言葉を交わしていたい。
 この人が、仲のよくなかった『彼』の話をするたび、嫉妬のようなものが心をよぎるけれど、そのときの嬉しそうな、それでいて悲しげな表情の彼はとても綺麗で、できるならずっと見ていたいくらいだった。
 「でも…、友達を探さなきゃいけないし…。」
 こんな場合は何でも理由になるものだ。
 さっきまで綺麗に忘れ去っていたサムのことを口にしてしまう。
 「ああ、ここに君と一緒に入ってきた彼だね。
 彼ならもうこの建物の外に出て君を待っているよ。」
 「え…?」
 笑いながらこの人が窓辺で指差す方向を見れば、サムが心配そうにこの建物をじっと見ている。
 「一緒に行動しようって言ってたのに…!あの薄情もの!!」
 自分のことはすっかり棚に上げてしまって、サムに対する悪態をついてしまう。
 そんなジョミーを見て、目の前のこの人は一層笑みを深くした。
 「彼が悪いわけじゃないよ。
 僕が君と話しているのが楽しくて、この一帯に結界を張っていたから、彼はここには入って来ることができなかっただけだ。君をずっと探していたんだよ。」
 と、そんな風に言われてしまうと、怒るに怒れない。
 って、今なんて…?
 「君と話ができて楽しかった。
 もし今度来るときには、夜じゃなくて日中に来ればいい。夜、家を抜け出したりして君に何かあったら、君のご両親や友達が悲しむからね。」
 「また…、来てもいいんですか…?」
 「君の気が向けば。
 ただ日中のこの場所は人の往来が激しいから、今度会うときは屋上にしようか。そこならあまり人は来ない。」
 まさか彼からこんな言葉を掛けられると思っていなかったので、驚きつつも浮き足立つ自分を感じた。
 「僕の姿はほとんどの人には見えないだろうけど、君の姿はしっかり見えてしまうからね。
 こうやって僕と話をしている君の姿は、他の人から見れば一人芝居をしているようにしか見えないと思うよ。」
 …それは勘弁してほしい…。
 想像して少しげんなりする。
 「それに今度は君の話を聞きたい。今日は僕ばかり喋っていたから。」
 さらにまた信じられないようなことを言う。
 「僕の話なんて、つまらないですよ…?」
 この人が生きていた当時は戦争があって、まさに激動の時代だったのだろう。
 そんな時代を生き抜いて、そして果てたこの人に、今の平和ボケしたような日常生活の話が楽しいなんて思えないし…。
 そう言えば、彼はにっこり笑った。
 「そんなことはないよ。
 君は相当いたずらが過ぎるようだし、面白い話が聞けそうだ。」
 …完全に面白がられている…。
 そうは思ったけど、この人とまた会えると思うだけで嬉しいと思う自分がいることも事実で。
 「僕はブルー。君の名前は?」
 「ジョミー、です。」
 「そう、ジョミーか。いい名前だね。」
 そんなこと考えたこともなかったけど、この人がそう言うと、本当にいい名前のような気がしてくる。
 やっぱり、不思議な人だ。
 明日、学校が終わったらすぐにここに来よう。
 
 
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        | 拍手連載!ブルーの人外は初めて書きました。ブルーって設定大きく変えたらいろんなところに波及しそうで、設定変えるのも難しくて…。 |   |