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   「何やってんだよ、キース!」この友人は、どうにも口が悪い。増してやそれがブルーに向けられたのだから、こちらとしては気が気でない。
 「発育不良を発育不良と言って何が悪い。」
 …これだ。
 ふんぞり返ってそれがどうしたとばかりに言い放つこの態度が、どうにも他人を思いやっている風に見えない。
 「だって、あの子は自分の体格が他より比べて小さいということを随分気にしているんだよ?」
 「ほう?」
 面白そうに眉を上げる友人を見て脱力してしまった。どうやらそれを見抜いてわざと口に出したらしい。まったく、意地の悪い友人だ。
 しかし、キースはすぐに面白がるような色を消して、真剣な目でジョミーを見つめた。
 「そんなことよりもだ。少々面倒な話を持ってきたんだが。」
 「…面倒…?」
 そう言えば、旅行に出て夏休みいっぱいは戻らないと言っていたのに、早々に戻った原因を聞いていなかった。
 「って何だ…?」
 そう思ってキースを促した。
 「この先は、アパートに帰ってからにしよう。立ち話ではナンだ。」
 「……? うん。」
 そう言って足を速めるキースを追いかけるように歩いた。
 「食事はどうする?」「久しぶりに、お前の手料理が食べたいな。妻の味、我が家の味、という奴が。」
 「…そういう誤解を受けるような発言やめてよ…。」
 いつ僕が君の妻や家族になったんだよ?
 「それに、そういうことはキースのファンの女の子に言ってあげれば喜ぶじゃないか。手料理の一つや二つ、いくらでも作ってくれるよ?」
 「あいにくと俺は口が肥えていてな。手料理なら誰のものでもいいというわけじゃない。」
 「だから、それが誤解を生むんだってば。」
 言いながら、冷蔵庫の残り物を集めて何を作ろうか考える。
 「ジョミー。」
 「ん?」
 「こんな話をすると、お前は俺を恨むかもしれないが。」
 その言葉に、やっぱり…と思う自分がいた。
 キースが面倒ごとだというからには多分…、僕たちが記憶を持ったまま転生してきたことに起因するものなのだろうと。
 いや。正確に言えば、記憶を持ったまま転生してきたんじゃない、この地でキースと再会した直後、二人の記憶は前世というべき過去までさかのぼって戻ってしまったのだ。おまけに、僕にはミュウとしての力まで一緒に戻ってしまい、しばらく戸惑うことになった。
 でも、キースは『戻ったものは仕方ない』とばかりに覚悟を決めてしまったらしい。この記憶と力とに付き合っていくよりほかがないのだと。
 ただ…、キースとも何度か話したことはあった。僕たちが昔と同じく同学年で、運命に導かれるがごとく出会って、同時に記憶を取り戻したことに何か意味があったのかと。
 …しかし、答えは出なかった。
 そのときは。
 「俺が旅行に行ったのは、かつてマザー・コンピューターがあったユグドラシルの跡地だ。」
 静かにだが、そんな風に話し始めたキースを、僕は黙って見守った。
 「地図上ではそこには当然何もなく、ただの砂漠地帯と化していたのだが、やはりそうだった。皮肉なものだ、世界の始まりの樹と呼ばれ、地球再生計画を担っていたはずの場所が、水もない荒れ果てた土地と化していたのだ。
 だが、俺が気になったのはそこじゃない。」
 キースは一旦言葉を切って、ため息をついた。
 「キース…? 僕は別に恨むとかそんな気持ちはないよ。」
 だから、何があったのか言って…? 僕だって、この力の意味を知りたいんだ。
 「…すまんな、俺一人じゃどうしようもなくて、お前に助けを求める羽目になってしまった。」
 弱気とも思える皮肉屋の友人の台詞だったが、ほっとしているのが傍目にも分かった。
 「マザー・コンピューターはお前が完膚なきまでに破壊した。それは間違いない話だったんだが、誰かが…、おそらくリボーンの技術者がマザー・コンピューターのプログラムのバックアップを取っていたんだな。」
 え…?
 あまりの事実に、まさか…と思った。
 「俺がそれに気がついたのはただの偶然だ。俺の血筋が政治家のものだって知ってるよな? 俺がたまたまその集まりに出たときに聞いたんだ、マザー再生計画。」
 …センスも何もないネーミングだと思った。
 「人間はどうしても同じ過ちを何度も繰り返してしまう生き物なのかもしれん。確かに戦争やら環境破壊やらで、地球のおかれた状況は過去にそうであったように悪くなりつつある。そこで出たのが…。」
 「母親に反抗することのない、従順で大人しい子羊を育成するというマザー再生計画。
 すまない、キース。今のは聞こえたんだ、読んだわけじゃない。」
 「別に読まれても構わんよ。説明する手間が省ける。ただ、本当にマザーが絡んでいるとしたら、かなり危険だ。本格的に活動を始める前に叩いておかなければ、取り返しのつかないことになるような気がする。」
 …確かに…。
 最後の戦いは、人類、ミュウともに多大なる犠牲を払い、お互いの指導者自らも命を落とした壮絶なものだった。
 「それで、実際に計画が動いている形跡はあったのか?」
 「…だから心を読めと言っているのに…。
 そうだな、ユグドラシルの地下深くに大量の物資が送られていることと、世界でも屈指の技術者が呼び寄せられていることだな。」
 そう、か…。ならば、あのとき対峙したマザーと同じものかどうかは分からないが、何らかの計画が遂行されているのは間違いのない話のようだ。
 「できれば、かつての戦いに関わったもので、記憶を持った転生者が同意して集まってくれるとやりやすい。人類側なら人類統合軍とか、ミュウならシャングリラにいたものとか。」
 その言葉で、さっき別れてきた無邪気な笑顔を持つ少年が思い出された。
 「キース! ブルーはダメだ!!」
 そう言うと、この友人は眉を上げてこちらを見た。
 「ブルーは前世を思い出していない! 力だって戻るかどうか…。」
 だから、ブルーは見逃して!
 キースなら、さっき会った少年がかつて伝説とまで呼ばれた、ソルジャー・ブルーその人であったことなどとうにお見通しだろう。だけど、僕は何の屈託もなく笑うブルーの記憶を戻したくなどなかった。
 前世で受けた悲惨な仕打ちと、永きに渡る戦い。それを思い出してしまったら、ブルーはもうあんな風に微笑んでくれないかもしれない…!
 「お前も大概人の言うことを聞いてないな。」
 苦く笑いながらキースからそう言われるのに、目を見開いて友人を見返した。
 「俺は、前世の記憶を持っていて、なおかつ同意を得られるものならと言ったんだ。
 前世の記憶を取り戻すどころか、身長さえ伸びないような発育不良のガキに用はない。奴にはそんなことに関わる前に、きちんと食べてさっさと人並みの体格にしてもらうほうがよほど大切だ。」
 そう言われるのに、ほっとして力が抜ける。
 「キース…。」
 口は悪いが、キースは最初からブルーをこの戦いに巻き込むことは考えていなかったようである。
 「大体、俺はタイプ・ブルー、オリジンなどに頭を下げたくないぞ。さっきはついからかうネタがあったから声をかけてしまったが、本当ならああいうタイプは嫌いなんだ。」
 「キース…、何もそこまで言わなくても…。」
 何のことはない、先ほどブルーに小さいだのモテないだのと言っていたのは、一種の意趣返しだったらしい。
 でも…、ブルーには今度こそ幸せになってほしいから。戦いに赴くのは、キースと僕、それから…、手助けをしてくれるかもしれない転生者だけでいい…。
 「でもキース、死ぬのなら…。」
 「ああ、俺たち二人だけで十分だな。」
 そう言われるのに、ほっとして笑顔を浮かべた。
 「変な奴だな。俺は厄介ごとを持ち込んだんだぞ?」
 慣れてるよ、と。
 しかめっ面のキースにそう返しておいた。
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        | ジョミ視点がないと何が何だか分からないだろうと輪廻『2』をさくさくアップぅ。ちょっと切ない感じのキース&ジョミでした!
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