これは夢、だろうか…。
夢にしては現実味がありすぎるような気がするが、僕は今眠っているはずだから夢には違いないのだろう。しかし、今まで見た夢は過去のものが多かったのだが、今目の前に立っている人間は現在にも過去にも僕の中に存在しない。
金髪に緑の瞳、利発そうな整った顔立ちをした少年。真っ暗な空間にあるせいか、やたらと目を引く容貌だ。
「君は、誰だ?」
そう問いかけると、少年はにっと笑った。いたずらっ子が何かをたくらんでいるような、そんな笑いだ。
「僕はジョミー。
はじめまして、ソルジャー・ブルー。」
「僕のことを知っているのか。
ではジョミー、君は何者で、なぜここにいるのか教えてくれるかい?」
僕の名前を知っているということは、それだけで敵である可能性は高い。
「さすがにミュウの指導者だけあって、聞くことにも手抜かりがないね。
僕はナイトメア、ここにいる理由は…、獲物がいないかと思って。」
「獲物…?」
「ナイトメアの獲物だよ。
僕らは人の夢に入り込んで精気をもらう悪魔なんだよ。」
そう聞いても、ジョミーと名乗った少年に、何の恐怖も嫌悪も湧かなかった。それどころか、むしろ納得した自分がいた。
ナイトメアとは、相手好みの美しい姿で現れることが多く、それゆえ警戒どころかその魔力におぼれ、精気を差し出してしまうのだと。
「そうか。それで獲物は見つかったかい?」
「いや、全然。
この船にいる人たちには、輝くほどの精気を持つ人ってのはいないからね。」
それはそうだろう。ミュウは虚弱なものがほとんどで、強い生命力だの精神力だのといったものには縁がない。
「ということは、僕も失格なのかな。」
「そりゃあね。
僕にだって良心ってものがあるから、余っているところからいただく分には罪の意識も何も感じないけど、さすがにあなたからもらうってのには良心の呵責ってものがあるんだよ。」
変なことを言う悪魔だ。そんなことにこだわる悪魔など初めて聞いた。
「それはすまないね。」
しかし、どちらにしろ、死にかけた人間から取ることのできる精気などわずかなのだろう。
「僕に謝る必要はないよ。」
僕は精気を吸い取る悪魔なんだって、と笑いながら続ける。
「…でも、あなたの夢はすごく綺麗だな。」
「僕の、夢…?」
「地球…っていうんだ、あの青い星。」
あらゆる絶望の中にあって、静かに、それでも確固たる存在感をもって闇を照らす青い星。生涯をかけて焦がれた、夢。
「別にあなたから何を盗ろうと思ったわけでもないけど、あなたの夢があまりにも綺麗で切なかったから、ちょっと寄り道してみた。」
「それは…、誉めてもらっていると思っていいのかな?」
「最大級の誉め言葉だよ。ナイトメアが利用しようとした夢に捕らわれたんだから。」
そういいながら、さて、と身体を伸ばした。
「じゃあそろそろ行こうかな。」
「行くのかい?もう少しここにいればいいのに。」
ジョミーと名乗ったナイトメアは、不思議そうな顔を向けた。
「あなた、変わってるね。悪魔なんてさっさと帰ってほしいと思うのが普通なのに。」
言われてそうだなとは思った。
ということは、僕はこの悪魔の魔力にまんまとはまってしまったということなのか。
「でもこの辺に僕好みの獲物はいないって分かったしね。そろそろお暇するよ。」
「君の好みになれなくて…、残念だ。」
目の前の悪魔は、今度は呆れ顔になった。
「…つくづく変な人だね。まあ、やることがあるわけじゃないから、もう少しここにいたっていいけど。」
と、悪魔は少し考えてから口を開いた。
「じゃあ、僕のお願い、聞いてくれる?」
「お願い…?」
おうむ返しにつぶやいたら、ジョミーの顔が急にふっと目の前に現れた。
「あなたの中の地球を見せて。」
「…ここには僕よりももっと鮮明で美しい地球のヴィジョンを抱くものがいるが。」
「でも僕は、あなたがいい。」
もう少し話をしたいという望みをかなえてくれるのなら。
「では、手を出して。」
差し出した手に、悪魔の手が重なる。
冷たいかと思ったそれは、意外に普通の人間と変わらないしっとりとした感触を持っていた。
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大外れパラレル第1弾!フィシスのようなブルー…。うーん、自分で書いてフクザツ…。 |
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