ジョミー先生は、みんなに優しくて平等に接してくれる。
でも、僕にはそれが不満だ。気がつけば、何とか先生により多くの時間構ってもらう方法を考えている。
それで何とか二人になれそうになると。
「ジョミー先生!僕も!!」
…どうしてこんなに聡いのだろう。
赤毛の少年、トォニィはジョミー先生レーダーでも持っているのではないだろうかと疑ってしまうほど、どこに行ってもついてくる。
しかし、トォニィはトォニィで、僕のことが気に入らないらしい。
「ブルーはスウェナ先生のご機嫌取りでもして来いよ!」
そういう憎らしいことを言って追い払おうとする。
「こら、トォニィ。そんなことを言っちゃダメだよ。」
当然、ジョミー先生から叱られる。
以前はそんなトォニィことをただ馬鹿な奴だと思っていたけれど、最近ではそうも言い切れない。
「だって、僕ジョミー先生と遊びたいんだし…。」
トォニィが上目遣いに伺うと、ジョミー先生は仕方ないなとつぶやいてから。
「じゃあみんなで遊ぼう。それならいいだろ?」
…こうして、僕の計画はことごとく失敗する。
ただの考えなしじゃなかったんだなと、ぺろりと舌を出すトォニィを苦い思いで睨むが、当のトォニィは次の瞬間にはジョミー先生に甘えモードで抱きついていく。
…今日もジョミー先生とゆっくり話せなかったな。
もうお帰りの時間で、ママやパパたちが玄関先に迎えに来ているのが見えた。その後ろに、執事のハーレイの姿が目に映り、ため息をつきつつ通園かばんを肩にかけた。
「じゃあ、さようならしようか。」
よりによって、こんなときまでこいつと一緒になるなんて…。
ジョミー先生にさようならの挨拶をしようと思って先生の前に立つと、トォニィも同時に先生の前に立っていた。
「ブルーはスウェナ先生にさよならしてくればいいだろ?」
「…トォニィこそ。」
「こんなときまで喧嘩したらダメだろ!さあ、二人一緒にさようならしよう。」
『先生、さようなら』の後は、ハイタッチでお別れとなるのだが、その高さでトォニィに負けたくない。でも、ジョミー先生とはさよならしたいし…。
こういうつまらないものに競争心が働いてしまうことは近年ないことで、自分でも呆れながらも力が入るのを感じる。
…正直、体力ではトォニィに劣るからジャンプ力で勝てるとは思っていなかったけど。
「「先生、さようなら!」」
「はい、バイバイ!」
同時に飛び上がるが。
…やはり、負けてしまった。
トォニィは勝ち誇った笑みを浮かべてこちらを見てから、ママのところへ走っていった。トォニィのパパとママは看護師をしていて、交代でお迎えに来ている。それを見送ってから玄関から歩き出そうとしたとき。
くしゃり、と頭をなでられて振り返った。
「じゃあブルー、また明日。」
ジョミー先生が笑顔で腰を落として僕を見ている。
「…うん。」
微笑んでうなずいてから、ハーレイの元へ歩いた。
「ブルー様、今日はいかがでしたか?」
微笑みながら手を差し出されたが、今日は握り返す気になれず、そのまま一人で車まで歩いた。
「いつもと一緒だよ。」
そう返してから車の後部座席に乗り込む。
「そうですか。お友達とは仲良く遊びましたか。」
ハーレイがその隣に乗り込むと、車は静かに発進した。
「…うん。」
「おや、珍しいですね、言いよどむなんて。
もしかして喧嘩でもなさったのですか?」
…図星だが。
原因を訊かれると言葉に詰まってしまうので、これ以上は喋らないほうが得策とばかりに黙って寝たふりでもしようと思って。
はたと気がついた。
「…ハーレイ、園に戻って。」
「どうかなさったんですか?」
「着替え袋を忘れた。」
「着替え袋って…、ブルー様はあまり持っていらしたことがないのでは。」
今まではそうだったんですっかり忘れていたが、最近ジョミー先生と外で遊ぶようになって服が汚れるようになったから、どうしても持ってこなければいけない。
「そうですか。活発に運動なさるのはいいことです。」
ハーレイはそう笑いながら運転手に戻るよう指示を出す。
失敗した…。でも、園にはまだ誰かいるはず。
そう思いながら、幼稚園に戻ると、玄関はさっきの喧騒が嘘のように静まり返っていた。その奥に、ジョミー先生の金髪が見えて、どきんとした。
「では、私が行って…。」
「僕が行ってくる!」
ハーレイが車から出ようとするより先に、車を降りて玄関に向かう。
「ブルー?」
玄関の奥で、ほうきを持ったジョミー先生が、こちらを見て首を傾げるのに、これはチャンスだ!と思った。
「ジョミー先生…。」
「どうしたの?忘れ物?」
「うん、着替え袋を…。」
ああ、そうか、と先生も今思い出したようだった。
「気がつかなくてごめん。じゃあ一緒に取りにいこうか。」
「うん!」
そううなずいてから。
「…先生、抱っこしてもらっても、いい?」
我ながら甘えているなとは思ったけれど、邪魔者がいないこんな瞬間などなかなかないから。
「特別だよ?」
ジョミー先生は、そういたずらっぽく笑って手を差し出してくれる。
その手に掴まると、ふわりとした浮遊感とともに急に目線が高くなった。
「肩車はしたことがなかったからね。」
「わあ…!」
こんなに天井が近いなんて初めてだったから、すごく嬉しくなって歓声を上げてしまったほどだった。だって、ジョミー先生の金の髪に触れられるし!
高いところから見下ろしているせいか、あまり人のいない園内はいつもよりも広く感じられる。
「ジョミーせんせー、こっち来てー。」
それでも奥から小さい子供の声が聞こえてくるのに、あれ?と思う。
「ちょっと待ってて。用を済ませてから行くから。」
そうジョミー先生が応えるのに、疑問が湧く。
「先生、まだ誰かいるの?」
だって、お帰りの時間は過ぎたはず、と思っていると。
「どうしても時間までに迎えが間に合わない子供が残っているんだよ。」
そう言われるのに。
もしかして…、それって迎えが間に合わない場合の決めごとなのかな?なら、それ利用すれば先生と二人っきりになれる…?
我ながら、なんで今まで知らなかったんだろうと思ったが、すごくいいことを思いついた気分になって、ジョミー先生のやわらかい髪にこっそりキスをした。
トォニィには気づかれないようにしなくっちゃ。
3へ
うーん、やはり黒い。
どなたかが黒園児(黒執事みたいだ…。)ブルーの家庭環境を気にしておられたので、ちょっとでも参考になるかなと早めにあっぷぅ♪ |
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