「ダメ…、なんですか?」
「いや、ダメということはないが…。」
さっきからこの繰り返しで話が進まない。
「ソルジャー、僕は訓練も真面目にこなしてますし、何度か育英惑星に潜入したこともあります。だから、地球防衛軍相手でも逃げ切る自信はありますから!」
「ジョミー、慢心は禁物だよ。」
「それは分かっていますが…!」
ああ、やっぱり話は元に戻ってしまう。何で今回に限ってソルジャーはこんなに頑ななんだろうか…。
そう考えてため息が出る。
それも、いつも思慮深いソルジャーにしては珍しく、揚げ足取りというか、重箱の隅をつつくというか、とにかく取るに足りない些細なことで難癖をつけてくる。表立っては反対しないが、やんわりと否定する。
事の発端は、シャングリラがソル太陽系を通りかかるという話を聞いたときから始まった。
そう言えば地球を出るときに、キースに言われていたよな。ほとぼりが冷めたころに顔を出せって。
あのときの脱出劇を懐かしく思い出して、地球にいる友人に思いを馳せる。
キースもだけど、シロエも元気かな…?二人とも気が合っているくせに、顔を合わせれば喧嘩一歩手前の口論ばかり。今、誰か仲裁に入る人いるのかな…?
そう考えると、会いたくてたまらなくなった。
二人とも昇進してるかな?
まさか、キースは僕のことが原因で降格されていたりしないよな…?もしそうだったら謝らなきゃ。そうなっていてもキースのことだから『お前のせいじゃない』って言うだろうけど。
それからシロエは中央政府に異動したころかな。あの毒舌はどうでも、シロエは努力家だし野心家だから、きっともう中央政府で活躍しているだろうな…。
だから。
ソルジャーに正直に話して、数日間だけ地球へ降りる許可をもらおうと思ったんだけど…。
話し始めてもう1時間近くになる。
それなのに、話はちょっと進んではすぐに逆戻り、それの繰り返しだ。さすがに、苛立ってくるのを止められない。
「ソルジャー、僕がそんなに信用できないんですか!」
そう詰め寄れば、そんなことはないよ、と笑顔で答えてくれる。
「でもね、ジョミー。君は地球の中央政府では顔が知られているだろう?危険だよ。」
「ですから、その辺は気をつけますって!」
「もう少し時期を見たほうがいいと思うけどね。」
彼の人は、そう諭すように微笑む。
ああ、やっぱりダメなんだ…。
そう思って、がっくりと肩を落としてしまう。
ミュウの船がソル太陽系に近づくなんてそうそうあることではないし、増してや長寿であるというミュウは、人間とは異なる時間を過ごすため、キースやシロエには会えるチャンスに会っておきたい。
でも…、ソルジャーのお許しが出ないと…。
ソルジャー・ブルーと同じタイプ・ブルーであるジョミーがその気になれば、そのサイオンを使って無理やりシャングリラを出ることはできるだろう。
しかし、ソルジャーが悲しむようなことだけは避けたい。増してや怒らせるようなことは絶対にしたくない。
ゆえに。
あきらめざるを得ない、とジョミーは思っていたのだが。
「ソルジャー、それではジョミーがかわいそうですわ。」
このなんともいえない雰囲気に割って入った声がある。
「フィシス…。」
ミュウの女神、というよりも女王の貫禄をまとった彼女はにっこりと微笑みながらソルジャー・ブルーに向かう。
「大丈夫ですわ、ジョミーはとても強いんですもの。それに、元々は地球防衛軍に所属していましたし、逃げ道は誰よりも分かっています。ね?ジョミー。」
フィシスの言葉で、ジョミーは千人力を得た気分になって思いっきりうなずいた。
何といってもソルジャーはフィシスに弱い。そのフィシスがジョミーの味方をしてくれているのだから!
「だから、行かせて差し上げてはいかがでしょう?
それとも、ジョミーは昔のご友人と会ってはいけないのでしょうか?」
そう言われるのに、彼の人は難しい顔をしていたが、やがて仕方がない、とため息をついた。
「…分かった。
でもジョミー、決して無理はしないでくれ。少しでもおかしいと思ったら、すぐに戻ってくると約束してほしい。」
心配そうな彼の人にはしっかりとうなずいて。
「はい、ソルジャー。気をつけて行ってきます!」
輝かんばかりの笑顔を浮かべて、ジョミーは頭を下げた。
…地球、か…。もう2年?3年くらいになるのかな…?
すでにジョミーの心は地球に飛んでいた。
その嬉しそうな顔を見守りながら、ソルジャー・ブルーは複雑そうな表情を浮かべていた。
「ジョミーが、地球へ行ったまま帰ってこなくなるのでは、と思ったのではないですか?」
ジョミーが地球へ降りる準備のため出て行ってしまった青の間で、フィシスはソルジャー・ブルーに微笑みかけた。
「…気がついていたのなら、ジョミーに肩入れしないでいてほしかったな。」
それに対してソルジャーは不満そうにつぶやいた。
「まあ、あなたにしては自信のないこと。」
しかしフィシスは面白そうにころころ笑う。
「大丈夫ですわ、ジョミーは必ず戻ってきます。」
「君は大した自信だな。」
皮肉に聞こえる彼の人の言葉に、フィシスは笑顔を浮かべて。
「ジョミーを信じていますもの。」
そう言い切ってしまい、ソルジャーは憂鬱そうに再びため息をついた。
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ジョミーがキースとシロエに会いに行く話。ブルーがヘタレ気味ですな。拍手で連載いたします♪
ブルーの呼び名からも、二人の間がろくに進展してないのがモロ分かりなジョミーでありました! |
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