収容施設送りか、それとも処分か。
そのどちらになるにしろ、もうここには戻れない。それに。
…あの人とも、もう会うこともないだろう。
あの修羅場で気を失って、次に気がついたときにはすでにこの独房にいた。誰も何も説明してはくれなかったけど、なぜここに閉じ込められたのかは分かっていた。
自分がミュウだなんて、今も信じられないけど、状況的に見るとそうなんだろう。
でも、正直な話、そんな力が僕にあったとしても今は全然使えない。サイオン封じのシールドのせいだけではないと思う。あのときの感覚自体が、まったく分からなくなってしまっているのだ。
あの力はどこからどうやって出てきたのか。
「ジョミー。」
自分の考えにふけっていたときに、聞こえた覚えのある声に慌てて振り返る。
「キース!?」
なぜ地球防衛軍の少佐がこんな場所にいるのか?
当然、今の僕は危険人物として隔離されている状態で、いくら軍の少佐といえどそう簡単に面会などできるはずがないのだが。
「…元気そうで何よりだ。」
「…うん。」
しかしそれ以上会話が続かない。
話すとすれば、ミュウの収容施設の話とか、実験施設の話とか、そんなものになってしまうだろう。そこに自身が送られるかもしれないというのに、どこか他人事のような気がしてならない。
それよりも、キースには聞きたいことがあった。
「キース、ソルジャー・ブルーは…?」
捕まってないよね?と続けるのに、相手はしかめっ面を作った。
「…他人のことよりも自分のことを心配したらどうだ?」
「心配したって結果が変わるわけじゃないし。」
「相変わらずお前はいい加減だな。」
呆れた部分が半分、ほっとした部分が半分。そんなキースの表情だった。
「ミュウの長が捕まったという話は聞かない。あの場から忽然と姿を消して、そのままになっていると思う。」
「それなら、いい。」
あの人が捕まらなくてよかったと思う反面、もう二度と会えないと思うと、辛い。せめて死ぬ前に一度でも、と思ってしまう。
「…お前はミュウの収容施設について、どくのくらい知っている?」
やはりこの話になるのか…。
「…あんまり知らない。」
「だろうな。」
予備知識も何もなしに、収容施設に送られるジョミーのことを心配しているのだろう。
キースはしばらく考えてから、ふと思いついたようにジョミーを伺った。
「お前、俺の考えていることが分かるか?」
「そんなの分かるわけないだろ。」
「今、サイオン封じのシールドは切ってあるんだがな。」
などと、仰天するようなことを平然とした顔で言うキースに、ジョミーのほうが慌てた。
「な、何やってんだよ!
そんなことしたら、いくらお前だってただじゃすまない…。」
「俺のことはいい。
それで?俺の考えが読めるか?」
「だから分かんないってば!!」
「…お前、本当にミュウなのか?」
キースは胡散臭そうにジョミーを見遣った。
「うるさいってば!!」
「地球防衛軍でも問題児だったが、ミュウになってもその称号を引き継ぐとはな…。」
「『問題児』って称号なのかよ!?」
「細かいことは気にするな。
しかしお前はミュウで、しかもタイプ・ブルーだと記録されているのだから、その程度できて当然なんだが。」
「!!悪かったな、ミュウでも落ちこぼれで!!!」
「まったくだ、とんだタイプ・ブルーだな。
ミュウ発現からこっち、タイプ・ブルーと認められたのはただ一人だが、そのデータの内容は読んでいても寒気がするほどだったぞ。」
一人というのは、ソルジャー・ブルーのことに違いない。
自分が目の当たりにした彼の人の力だけでも驚きなのだから、300年の間にはいろいろなことがあったのだろう。
いや、待てよ?
300年の間、あの人は何をしていたんだろう?
ミュウの指導者として、多忙な日常だったに違いないが、それだけではあるまい。やはり恋人もいるだろうし、それも一人とは限らない。
そりゃあ、あれだけ綺麗な人だから、女性にはさぞかしモテるだろう。それで絶世の美女とかが恋人としていたりするわけか…?以前あの人から、恋人はいるかと聞かれたことがあったが、あのときどうして逆に問い返しておかなかったんだろう…!
「ど、どんなことが書いてあったの…?」
「まあ、いろいろだが。
戦艦一艦まるごとテレポートとか、中核基地をたった一人で半壊とか。」
「え?サイオンの記録なの?」
「当たり前だ、何だと思っていたんだ…?」
…そりゃそうか…。ソルジャーの私生活の記録まで入っているはずがないじゃないか。
その当然のことに、がっくりきてしまった。幸いキースは、ジョミーのそんな様子にさして気を止めた風もなかった。
「それで話は戻るが。
お前本当に何も分からないのか?サイオンはもう使えるはずだぞ。」
「分からないってば!」
「ソルジャー・ブルーはテレパシーくらい朝飯前だと思うぞ。」
「あの人と僕を一緒にしないでよ!」
300年間ミュウをやってきた人と、つい最近ミュウに目覚めた僕とを比較すること自体間違っている!
「同じタイプ・ブルーだろうが。」
「それはよく分かんないけど!」
「いや、間違いない。」
断言するキースに、疑問符が浮かぶ。キースは、記録だけを鵜呑みにするような性格ではないはずなのだけど。
「やけに自信あるみたいだけど?」
「それは俺がこの目で見たからだ。
ソルジャー・ブルーが消える直前、お前の周囲に青い光が見えた。あれはサイオンオーラと言われるものだろう。」
あのとき周りを見渡すようなそんな余裕はどこにもなかったから、そう言われても全然ぴんと来ない。
キースはジョミーの首を傾げる様子に苦笑いした。
「考えを読んでもらおうと思ったが、お前の能力不足でできないようだから。」
「能力不足って何だよ!?」
「それなら、タイプ・ブルーなのにサイオンを使いこなせないというのはどういうことだ?」
「僕が知るかっての!」
「ソルジャー・ブルーを逃がしたのはお前だろう。」
「え…。」
あのときの、驚いた彼の人の顔が思い浮かぶ。確かにソルジャーにとっては予想外の出来事だったのだろう。だけど…、あれって…。
「あのときに記録された強力なサイオン反応は、ソルジャー・ブルーのものではなかった。
だが、サイオン反応はタイプ・ブルーだった。それがどういうことだか、言わなくても分かるだろう。」
確かにあのときはあの人をマザーから離そうとばかり考えていたけれど。ということは、やはりあれは僕が…?
「…なんか嘘みたいだけど…。」
「ああ、記録違いかもしれないな。それが証拠に今は全然使えないようだからな。」
「どっちなんだよ!!」
ふ、とキースは笑みを浮かべた。
「…変わらないな。お前はお前のままだ。」
ぽつりと漏らした言葉に、どきっとする。
地球防衛軍の軍人であったときと、ミュウとなったあとと…。自分でもどこが変わったのか分からないくらいだから。
「…キース…。」
「まあいい。今日は時間切れだから、明日また来る。お前の処分はまだまだ決まりそうにないから大丈夫だ。
まったく…、お前のテレパシーを期待した俺が馬鹿だったな。」
「なんだよそれ!!」
後ろも見ずに去って行くキースに怒鳴ってはみたが、全然堪えた様子もない。
…僕だって、お前に期待して損したよ!
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なんだか番外編風になっちゃった…。すみません、ようやく拍手連載以外をアップできました!でもブルーはお休み。次回もお休みかも…。 |
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