「それで、あの後どうしたんだよ?」
「あの後…?」
2日目の日程も終わり、今度こそ正真正銘の勤務時間外。
外周警備の今日は、やっぱりソルジャー・ブルーに会えなかったなと少々落ち込んでいたところだった。
「僕が会議に行った後。」
ああ、とキースはため息交じりに空を仰いだ。
例によって、2日目宿泊ホテルのロビーでキースと二人、落ち合って二人でコーヒーを飲んでいた。こういうときでなければ、酒でも飲みに行くような時間帯なのだが、いつ召集がかかるか分からない今は、さすがにそれをやってしまうわけにはいかない。
「賓客を部屋まで送り届けたさ。」
そう言いながら、キースはため息をついた。それがどうも彼らしくない。
「…何なんだよ、その反応。」
「…あまり思い出したくないというか…。」
思い出したくない…?
ジョミーは珍しく気がそがれているようなキースを不思議そうに見やった。
「…どうして?」
「…お前がきくな。」
「え?」
「…お前、ソルジャー・ブルーと一体何の話をしていたんだ?」
「何って言われても…。」
何の話をしていたんだろう。
地球にいることが嬉しくて部屋にいるのがもったいないという話や、昼間のシャトルでの話…。時間がなかったからそんなに長く話してなかったし、キースが迎えに来てしまったから話は途中になってしまったし…。
そういえば、僕が口説いているみたいだなんて言ってたっけ、ソルジャーは。
「…別に、大した話はしてないよ。」
「そうか…?」
キースは胡散臭そうに僕を眺めて続けた。
「やたらとお前のことをきかれた。」
え…?
「ついでに俺ともどんな関係なのかともな。」
「そ、それでお前どう言ったんだよ!?
いや、それ以前に僕の何をきかれたんだよ!?」
「…何を慌てている。」
「あ、慌ててなんかいない!!」
ついむきになってしまって、キースから呆れた視線を向けられてしまった。
「…お前、そういうとこ本当に馬鹿正直だな。」
「また馬鹿って言ったな!」
「馬鹿を馬鹿といって何が悪い。
俺とお前はただの腐れ縁だと言っておいた。」
「よかった…。」
ついぽろっとこぼれ出た台詞に、自分でもなぜ?と思ってしまった。
当然、それを見逃す友人ではない。
「何が『よかった』のだ。そもそもお前との関係は腐れ縁以外の何者でもないだろう。」
「う…、そりゃそうだけど…。」
「それとも何か?
俺とお前はステーションE-1077からの付き合いで、一緒にメンバーズエリートに抜擢された同期生だったが、問題児のお前のほうが少々昇進が遅いだけで、親しい友人同士であると詳細に言えばよかったか。」
「ま、まあ、そうだよね…。」
キースが根本的に勘違いしてくれていてよかった…。と思って、ふと自分で突っ込む。
でも、キースと僕の関係って本当にそれだけだよね?
その辺をあいまいに誤魔化してほっと息をつく。ついでに大分冷めてしまったコーヒーを口に運んで落ち着こうとした。
「それで、僕の何をきかれたって…?」
「取るに足りないことがほとんどだったがな。
お前の趣味だの嗜好だの、ああ、好きな女がいるかともきかれたな。」
「ぶ…っ!」
ついコーヒーを噴出してしまって、キースに白い目で見られてしまった。
「…何をやっているんだ、お前は。」
「そ、それでお前はどう言ったんだよ!!」
「どうとは?
お前には目下のところ女はいないと思うと答えておいたが。それともいるのか?」
「いっ、いないいない!彼女いない歴イコール年齢だから!」
「…自慢して言うな。
と、そう答えたら、お前には男色の気があるのかときかれてな…。」
「………。」
どうもキースが疲れている理由がこれだったらしい。
「あー…、僕ちょっと誤解させるようなことを言ったかもしれない…。」
「一体何を言ったんだ…?」
「う…、それは…。」
さすがに、男性のソルジャー・ブルーに対して、うっかり女性を口説くような言葉を使ってしまったとは言えず、つい顔を赤くしてしまったらしい。
「…まさかとは思うが、本当にその気があるわけではなかろうな…?ならばお前との付き合いは考えさせてもらうぞ。」
「そんなわけないだろっ!ソルジャー・ブルーは特別なだけで!!」
「…なんだと…?」
キースの目つきが鋭くなるのを見て、ジョミーは自分の失言にようやく気付いた。
「いや、そうじゃなくて!!」
「つまり、お前は…?」
「だから違うって!!」
「まさかと思うが、ソルジャー・ブルーも…?」
「そんなわけないだろ!ソルジャーに失礼だろうが!!」
「ま、そうだろうな。」
「聞けよ…っ!って、あれ?」
「お前は妙にソルジャー・ブルーを意識しているようだが、ミュウのソルジャーたるものがお前など相手にするわけがない。」
「う…。」
自分から言い出したことなのに、それに同意したキースの一言でへこんでしまった。
そうだよな、そう考えるのが普通だよな…。
「何だ、本当に落ち込んだのか?」
「う、うるさいなっ!」
「心配しなくても、ソルジャー・ブルーは明日の会談が終われば帰るだろう。」
…そうだった…。もう二度と会えなくなるんだろうか。
ジョミーのあからさまに落ち込んだ様子を、キースは複雑な表情で眺めていた。と、そのとき、キースの通信機が鳴った。
「…今日は俺か…。」
「…?緊急会議?」
キースの手元を覗き込むと、昨日の自分の通信機に入ったメッセージと同じような文字が並んでいるのが見えた。
「佐官会議だ。そういえば、お前の通信機はどうだった?何か異常は見られたか?」
「異常なしだってさ。でも交換してもらったけど。」
「それがいい。
じゃあ行ってくるからな。お前、昨日夜警だったんだろ?さっさと寝ろよ。」
「うん、そうする。」
去っていくキースを見送りながら、自分も立ち上がる。言われて昨晩は徹夜だったことは思い出したが、まったく眠くなかった。
ちょっと屋上にでも行ってみようかな。
なぜそんな考えを起こしたのか分からなかったが、確かに変にソルジャー・ブルーを意識している頭を冷やすにはいい考えだと思った自分がいた。
4へ
久今回はキースとジョミーだけでごめんなさい。次回はお約束どおりブルー登場 |
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