|    誰かがこちらを伺っている。それは分かったが、この気配は僕にとってはともかく、君のとっては馴染んだものだろうから、特に注意は払わなかった。軍人、というのは一種独特の雰囲気がある。
 それから一瞬遅れて君の警戒した様子が分かった。
 「誰だ!?」
 軍人ともなれば、サイオンシールドの中であっても気配だけで外敵を察知できるのか。
 君は多くのミュウのような『受信型』ではなく『発信型』であることを考えれば、やはり訓練によるものなのだろう。そう思って素直に感心した。
 「さすがは地球防衛軍だね。」
 つい口に出して言えば、彼は困ったようにこちらを見た。
 「あの、ソルジャー、できればこう、緊張していただけるとありがたいんですが…。」
 それは聞き捨てならないね。僕がそばにいては集中できないとでも?
 「僕は君が守ってくれるんだろう?」
 そう言えば痛いところをつかれたとばかりに苦い顔をした。
 「そうでした…。」
 改めて銃を構えなおす君に、つい笑みがこみ上げる。これ以上邪魔しては悪いので、静かにしていようとは思うけどね。
 木の後ろから出てきたのは、思ったとおり地球防衛軍の軍人だった。
 「キース…?」
 君の知り合いか。というか…。
 『明日早番だから、早めに休むと詰め所に帰ったんじゃなかったっけ?』
 そのときの会話とともに、ヴィジョンが投影される。
 …なるほど、君の友人だったのか。
 テレパシーは一旦通れば思考は読みやすくはなるが、君のそれは読むというよりも聞かせるくらいの思念だ。これでは、サイオンなどない人間でも、君の考えていることはすっかり分かってしまうだろう。
 それにしても。
 君はコーヒーが好きなのか?二人でよく飲んでいるようだけど。
 「ソルジャー・ブルー、初にお目にかかります。
 シン中尉には急用がありますので、この後は私が代わってお部屋まで送ります。私は地球防衛軍少佐、キース・アニアン。」
 …これは対照的な二人だな。どうやら親友同士のようだが、見た目も違えば精神構造も大分違っているようだ。
 とはいえ、キース・アニアンと名乗った少佐の心は鉄壁の防御によるものか、心の動きがほとんど分からない。サイオン封じのシールドの中では、せいぜいが心の動きを感じる程度になってしまい、その詳細な考えについてはほとんど分からないから余計だ。
 「僕に急用?何のことだよ、キース。」
 そんな話なんか聞いてないと言わんばかりの君の抗議に、会議が招集されているのに何で知らないんだと言わんばかりの怒り心頭の彼の応酬。ここにきて、やっと彼の気持ちに揺らぎが起こった。
 そのやり取りを聞いていて笑いそうになりながら、通信器を見るジョミーに、ふと思い当たる節があった。
 もしかしてそれは…。
 つとめてサイオンを抑えれば、思ったとおり着信音が鳴ってメールが入ってきた。
 サイオンの波はたまに電子機器の発する電磁波をはじいてしまうらしい。僕一人だと滅多に起こらない現象だけど、多分君が一緒にいたために起こった珍しいトラブルだろう。君が巡回交代の連絡を入れたときは何ともなかったのに、不思議なものだ。
 増してやここはサイオン封じのシールドがあるわけだから、普通では考えられない。君との共鳴で、サイオンが増幅したのか…?
 まあ、どちらにしても君のせいでもあるわけだから、遅刻のそしりは甘んじて受けざるを得ないだろうね。残念ながら僕は君の弁護ができないし。
 「あの、ソルジャー…。」
 「聞いていたよ、会議だってね。」
 仕事なら仕方ない、こんな夜まで大変だね。
 そう思って、挨拶をして会議に行こうとする君を呼び止めた。
 「今日は楽しかったよ。」
 その言葉に嬉しそうに笑うジョミーを見て、そのあと苦虫を噛み潰したような彼の顔を見ると、本当に似たところがほとんどないと実感できる。
 返す返す正反対だね、君たちは。だから仲がいいわけか。
 「この後は、私がお部屋までお送りします。」
 ジョミーの姿が見えなくなったころ、目の前の彼はもう一度繰り返した。
 では、その言葉に甘えようか。聞きたいこともあることだし。君がジョミーの友人なら、僕の知らない彼のこともよく知っているだろうしね。
 「君は、彼とは親しいのか?」
 しばらく歩いたときにしたその質問に、彼の内面が揺らいだのがわかった。ジョミーが去った後は表情も動かなければ、心のひだの動きさえ分からなかったというのに。
 それほど親しい間柄とは、嫉妬したくなるほどだね。
 「…昔からの付き合いですので…。」
 おや、警戒されてしまったか。でも、それで引き下がるほど僕は甘くないよ。
 「やはり親しい友人には違いないようだね。」
 そうやって不本意そうな顔をしていること自体、君の場合珍しいのかな?ジョミーの思念からも本来君はあまり感情を見せないということが分かったが。
 「ジョミーは非番のときは何をしているのだろうか。」
 もう心の動きを見なくとも、君の気持ちが分かるというのは面白い。
 何で今そんなことを聞かれるのだろう、という疑問符がそのまま表情に出てしまっている。少佐クラスになれば、僕にそんな感情を読ませるべきではないような気がするけど。
 「さあ、付き合いの広い奴なので…。」
 同じ非番の友人とスポーツに興じているらしいと聞いて、ジョミーらしいと思った。問題行動は多いけど、友人が多くて人気があるというところは。
 地球防衛軍の中では浮いている気がしたけど、同僚や後輩からは慕われているようだね。
 「君たちはよくコーヒーを飲んでいるようだけど、ジョミーはコーヒーが好きなのか?」
 これはジョミーの嗜好の参考にさせてもらおうと思ったのだけど、どうやら彼を余計に混乱させてしまったらしい。それでも彼の答えから、思ったとおり君には好き嫌いはなさそうなので安心した。
 ああ、そうだ。肝心なことをきいていない。
 「彼には恋人はいないのかな?」
 それをきくと、今度はまずいものを食べたかのような顔をした。
 これはどう取ればいいのだろう。恋人はいないのか?それとも絶世の美女の恋人がいて、目の前の彼が嫉妬したくなるほどなのか?はたまた、恋人はいるけれどとてつもなく変わった女性だとか?
 ジョミーの思念からは、このあたりのことについては何も読み取れなかった。単に、いないと判断していいのだろうか。
 「それこそ本人でないと…。」
 でも君は何か知っているんだろう?
 「では、君が見てどう思う?」
 「私から見て、ですか…?」
 そこまで慌てられると、余計に勘ぐりたくなるんだけどね。
 「…まあ、いないのではないかと…。」
 …いない?
 なんだか拍子抜けしてしまう。
 それは意外だ。本当だろうか?
 ジョミーの容姿から、女性に好かれないとは考えられないのだが。それとも。
 「ジョミーは女性よりも男性のほうがいいのだろうか…。」
 同性の友人は多いらしいし、そちらの方なのか?軍人にはそういう趣味が多いとも聞いているが。
 チン、と音がして、エレベーターが目標階に到着したことを知らせる。
 ふと隣を見ると彼が憔悴しきったような表情をしていたので、不思議には思ったもののそのままエレベーターを出た。
 「ここでいい。」
 そう言うと、ぼうっとしながらも彼はこちらを見た。
 「ありがとう、アニアン少佐。参考になった。」
 その言葉に今度はさらに疲れたような顔をしたが、何も言ってこなかった。
 さて。明日の夜は、君は非番か。今度こそゆっくり話ができるかな。
 
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        | ブルー視点、クセになるかも!何よりも早く書きあがるとは、こはいかに…。それよりも、ブルーのイメージガタ崩れしてなきゃいいけど〜。 |   |