|    『トロイナスは軍事色の濃い育英惑星だ。だからこそ最初が肝心だろう。』青の間。最長老と長老5人、ソルジャー・シン、リオ、トォニィが集う。メギド以来、こんな会議を持つのは初めてだった。
 ちなみに、トォニィの会議参加も今回が初めてだ。ソルジャー・シンの意向を反映してのことだが、自分よりも目上の人を前にしていると思えないほどの横柄な態度に眉をひそめるものもいるくらいだった。
 だが実力から言えば、ここにいる資格は十分だろう。
 それがソルジャー・シンの意見だった。
 そう言われては、納得せざるを得ない。トォニィたち、ナスカで生まれた子供たちの力がなければ、アルテメシアの陥落はなかっただろう。ソルジャー・シンがどれだけ強大な力を秘めていようが、一人では何もできないのだ。
 それは、かつてのソルジャーであったブルーが、結局のところアルテメシアに留まる判断をするしかなかった事実が、如実に物語っている。
 「待ってください、ソルジャー。
 それでは、あなたはここでも一戦交える気なんですか…?」
 『我々の行き着く先は、戦いしかない。』
 そう、最初が肝心ということは、アルテメシア以上に厳しい対応をするということだ。アルテメシアは文化色が強く、軍事施設はあったがトロイナスから比べれば、その力はないに等しいらしい。
 それは、アタラクシアのテラズナンバー5のブロックを解いた後入手した情報だ。それまでは、地球の位置はおろか、育英惑星や軍事惑星の位置、規模や特徴などまったく知らなかったのだ。
 その事実ひとつ取ってみても、300年間敵わなかった相手に戦いを挑むにしては、何も知らない無知な一団であると実感してしまう。おそらくまだまだ知らないことは多いだろう。
 だからこそ、最初から手を抜くような真似は避けたいのだろうが…。
 「これでは何のために会議をしているのか分からん!
 いつもどおり、あなたの独断と偏見で判断を行えばよろしい!」
 「そのようにいきり立つこともないでしょう、老師。
 しかしソルジャー、我々の情報はアルテメシアからトロイナスへ送られているはず。トロイナス政府も分かっているでしょう。」
 「戦いを仕掛けるとなると、我々も無傷では済みません。ここは無駄な争いを避けるために、トップとの交渉を持つのがよいかと思いますが。」
 そんな緊迫した空気の中、くすっという笑い声が響いた。目をやると、トォニィがおかしくてたまらないといわんばかりに肩を震わせて笑っていた。
 「トォニィ、不謹慎だろう…!」
 ハーレイがたしなめるが、トォニィはどこ吹く風だ。
 「だって…、おかしいだろ?」
 そう言うと、急に笑うのをやめて全員をにらみつけた。
 「あんたたちは何をぐだぐだ言ってるんだ。グランパが戦うというのなら、戦うべきだろう。
 大体あんたたち、過去に地球側相手に交渉を持ちかけて、いいことあったのかよ?」
 全然ないだろ?と嘲ったように言う。
 「昔と今とじゃ状況が違うよ。
 それに、相手は育英惑星だよ?どんなに軍事色の濃い星であったとしても、変に禍根を残さないほうがいいと思うけどね。」
 ブラウ航海長がかぶりを振るのに、トォニィはさらに苛立ったようにふん、と鼻を鳴らした。
 「禍根?禍根って何だよ。
 大体、あんたたちが受けてきた仕打ちこそが禍根に他ならないんだろうが。僕はナスカしか知らないけど、ここにいる偉い人たちはアルタミラでもメギドを経験してるんだろ?
 ホントにおめでたいよな。」
 『トォニィ…!』
 言いすぎです、と言外ににじませるリオも困っている。
 「違いますか、前ソルジャー。」
 意地悪く微笑みながら、沈黙を守っていたブルーを伺う。
 ブルーはというと、ベッドの上で状態を起こした様子で皆の話を静かに聞いていた。
 「そうだね、トォニィ。
 でも、その禍根を断つことも大事だよ。」
 目指すものは人間との共存なのだから、と続けると、トォニィは嫌な顔をする。それに反論できるはずがない。その目標は、彼が敬愛して止まないグランパことジョミーが掲げているものなのだから。
 「君が僕たちのことを気にしてくれているのは嬉しいけどね。」
 「…誰がそんなこと言った?」
 しかし、その言葉には食い下がる。勘違いもいい加減にしろと言わんばかりである。
 「当時のアルタミラを知るものはほとんどいない。僕とここにいる5人のみだ。多分、ほとんどのミュウが忘れてしまって思い出しもしないだろう。
 だから、若い君がアルタミラのことを心に留めておいてくれているなんて思わなかったんだ。」
 微笑みながら言えば、トォニィは苦虫を噛み潰したような顔をしてそっぽを向く。これは照れている、という仕草なのだろうか。
 「…あなたのそんな人を食ったようなとこ、嫌いだ。」
 それだけつぶやくと、黙ってしまう。
 「そうかい?」
 さらに笑みを深くしてトォニィを見やった後、今度はふっと真顔になる。そして次にはジョミーを正面から見つめた。
 「しかし、今回はソルジャー・シンの意見を支持する。
 多分それが最も犠牲が少なく、勝利するための方策だろう。」
 「ブルー…!」
 まわりから抗議の声が上がる。
 「アタラクシアの情報はおそらく信用できるものだろうが、僕たちが地球側について知っていることは、地球側が僕たちについて知っていることよりもはるかに少ない。
 では。情報量において劣る僕たちが勝利するためにはどうすればいい?」
 前ソルジャーが理路整然と説明し、諭してしまえばもう反対するものはいない。
 いや。
 反対しようにも、できない。やはり力で勝ち取るより他にないのだ。
 『…ありがとうございます。』
 ソルジャー・シンが、静かに頭を下げる。
 それを見やって、ただ、と続ける。
 「この星は軍事色が強いから、子供たちの親は軍人が多いだろう。やりすぎは感心しない。」
 釘を刺されることは、覚悟していたらしい。
 『承知しました。』
 前ソルジャーの忠告に、現ソルジャーは神妙に応じた。長老たちも、あからさまにほっとした表情を浮かべる。
 会議は一応の決着を見、会議は終了となった。
 青の間で解散しようとしたところ、ブルーがジョミーを呼び止めた。それに対してトォニィは複雑そうな顔をしていたが、長老たちと同様、黙って部屋を出た。
 「僕は、君の期待したような役割は果たせたかな?」
 誰もいなくなった室内で、ジョミーに問いかける。
 『…やはり気がついていましたか。』
 「君が会議を開いて、トォニィを参加させると言ったときからね。」
 孤立しつつあるナスカの子供たち。さすがにジョミーもこのままではいけないと思ったのだろう。
 それに、不戦を唱える長老たちの体面もある。若いソルジャーであるジョミーよりも、かつて同じ位置にいたブルーのほうが、話の通りがよい場合もある。
 『…すみません。』
 「責めているわけじゃないんだよ。君の立場としては当然のことだから。だが、真っすぐだった君が、そんな策を弄するようになったのかと思って感慨深くてね。
 それで?」
 微笑みながらジョミーを仰ぐと、彼は苦笑いを浮かべた。
 『…満点です。』
 「それはよかった。」
 子供のように嬉しそうな笑顔を浮かべる前ソルジャーに、ジョミーは今度は困ったように笑う。いつもの鉄面皮からは考えられない表情の豊かさだ。
 「無益な諍いも、頭の使いようで避けることができるならそれでいい。そのために、君に利用されるのなら本望だよ。」
 さすがにそれに対しては反論があるらしい。ジョミーはふくれっ面を作った。
 『…利用だなんて人聞きの悪い。あなたの人徳に縋っただけです。』
 「ものは言いようだね。」
 しかし。
 前ソルジャーであるブルーのほうが、この辺は上手だった。
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        | このシリーズでやって見たいことがあります〜!死んだはずのあの人が生きてた!なんてのを…。でも今回会議してただけだな…。これじゃー、いつ終わるか分からないー!(というのは他の話にも言えるけど。)
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