それはある日のこと。
ハーレイ、ゼル、ブラウ、エラ、ヒルマン、いわゆる長老5人が青の間に集まった。
「今日は一体どうしたんだい?」
みんな揃って。
ブリッジクルーだけならまだしも、この5人が揃っているのは珍しい。
「今日はあなたに頼みたいことがあって参りました、ブルー。」
ハーレイが口を開く。
「ソルジャー・シンのことですが…。」
と、エラが続けようとしたが。
「あんな戦い方では、人間たちはいずれ我々を恐れ、拒むようになるじゃろう。降伏している人間まで容赦なく攻撃するとは考えられん!まったく、何を考えておるのじゃ。」
憤ったゼルがそのまま引き取ってしまった。その怒りはジョミーだけでなく、ブルーにも向けられる。
「なぜあなたがソルジャー・シンを諌めぬのか、理解に苦しむところじゃ。」
「そんな頭ごなしに言わなくても…。」
一応止めてはいるものの、そんなに強く言わないところを見ると、ハーレイも同じ意見なのだろう。
「もっと穏便な方法も取れるのではないかと思うのですが。」
「ゼルも言っているが、降伏している人間まで攻撃するのはどうかと思うね。」
ヒルマン、ブラウも同じように続ける。
恐らく長老だけでなく、若いミュウたちも眉をひそめているだろう、ジョミーの容赦のない戦い方。
「このままでは、ミュウの中でもソルジャー・シンやトォニィたちを疎むものたちが出てくるでしょう。」
降伏し、戦意を喪失したものさえ完膚なきまで叩きのめす指導者に対して、皆の不安が増しているという。
しかし。
対するブルーは、まったく表情を変えない。この件について、いつか誰かがブルーに直訴に来ると想定していたかのように。
「そのことをジョミーには?」
「もちろん言いましたとも。」
「しかし、わしらの意見など聞く耳は持たぬようじゃ。
まったく…、わしらを何だと思っているのじゃ。」
基本的にミュウは優しい。メギドによる大虐殺をアルタミラとナスカで経験したにもかかわらず、冷徹になり切れない。
そんなミュウにとっては、今のジョミーは異様に映るのだろう。増してや今まで皆の幸せのために紆余曲折を繰り返してきたジョミーを知るものにとっては、そのギャップに戸惑わざるを得ないのが本当のところだ。
「そこで、相談なんだけどね。」
ブラウが続ける。
「あの子はあんたの言うことなら無下にはしないだろう?あたしたち相手じゃ、『だからどうした』ってもんだからさ。」
確かに。
提案を受け入れるかどうかは分からないが、彼ら長老たちを相手にするように無下に却下するようなことはしないだろう。ブルーはあらゆる意味で、ジョミーにとって『特別』なのだから。
「あんたがソルジャーだったら、あんなむごいことはしないだろう…?」
「…そう、だね。」
同意するまで一呼吸あった。積極果断で、あいまいな言い回しをしないブルーにしては珍しい。
おや、とその場にいる皆が思った。
ブルーは静かに続ける。
「だが、僕が皆を地球へ連れて行けなかったということは事実だ。僕自身あれほど焦がれたというのに、300年かけても行き着くことはできなかった。
つまり僕を真似ていては、地球など夢のまた夢だということだ。」
「そんなことは…!」
「ハーレイ、僕は自嘲して言っているわけではない。」
「しかし、それとこれとは話が…!」
「それに、僕に反対された程度でやめるような、いい加減な気持ちで今のような戦いをしているわけではないだろう。ジョミーは命の重さをよく分かっている。」
優しさを知っているジョミーだから。
ナスカで生まれた子供たちを、あれほど喜び、祝福したジョミーだから。
「地球に向かうためには、優しいだけではいけない。か弱く、感情に流されてしまうミュウを引っ張っていくには、強い指導者像が必要だ。」
ジョミーはそれを体現しているだけ。
そのために、心の中では嘆き悲しんでいるだろう辛い戦いにも、表情ひとつ変えずに指令を下すのだ。
「…分かっています。私たちのために、ソルジャー・シンが変わってしまったということは。」
ブルーの言葉に誰もが黙り込んでいる中、ハーレイが静かにつぶやいた。
「分かっているのなら、いい。」
「それでも、あたしは今のままがいいとは思わないよ。」
しかし、ブラウは苛立ちを隠そうともせず、ブルーを睨んだ。
「あんたはあの子のことをよくわかっているようだがね、ブルー。
それだけ分かっているなら、なぜ止めないんだい。あれじゃあの子の心はいつか壊れるよ?こんな無理ばかり続けていて、どこにも障りが出ないわけがない。」
「そうだね。」
済ました顔でうなずくブルーに、ブラウはなおさら怒りを煽られた。
「そうだねって…!
あんた、あの子がかわいそうに思えないのかい!?」
「かわいそうに思う前に、彼は皆を導く指導者だ。」
その言葉は、かつて指導者であったブルーにも当てはまる言葉。他のものが言うのとは、重みが違う。
「立ち止まってはいけない、迷ってもいけない。すでにそういうことが許されないところまで来ている。
しかも、もう誰もジョミーの代わりができない。彼はミュウ全体の頂点に立つ、ただ一人の存在だ。」
代わりがいないということは、倒れることさえできない。
頂点に立つということは、弱音を吐くことも、愚痴をこぼすことさえもできない。
その重圧と孤独は想像でははかることができない。
「だから、ジョミーのことを心配してくれるのならば、静かに見守ってやってほしい。
彼は、地球防衛軍とミュウ全体の期待や不安、それから葛藤を続ける自分自身とも戦わなければならないのだから。」
さすがに。
誰も何も言えなくなってしまった。
見守ってほしい。
許しを請う命まで絶たねばならない、その運命を。戦いが激化するこのあとは、そんな場面はさらに多くなるだろう。
その姿に恐れおののく同胞に、忌み嫌われるだろうその宿命を。
そんな悲しく辛い運命を彼に課したのは、他ならぬ―――。
『…お邪魔していいですか?』
いつもの「定例報告」らしく、ジョミーの思念波が響いた。
「入りたまえ、ジョミー。君が遠慮することはない。」
『…本当にいいんですか?』
ふっと姿を現したジョミーは、長老たちが集まっていたのを確認し、次いでブルーを伺う。
構わないよ、とブルーは5人を見やる。話は終わったから、と。
「…では、これで失礼します。」
気まずい沈黙の中、ハーレイが一礼して退出を申し出た。
「分かった。」
ブルーの返事に、5人は黙って出口へと歩き出した。
ジョミーは彼らが出て行く姿を見送ってから、ブルーに向き直る。警戒するような表情で。
『…僕に、何か言いたいことがあるんじゃないですか?』
長老たちが、ブルーに何を訴えていたか、ジョミーには分かったようだった。
「そうだね。
君は疲れているだろうから、少しここで休んでいきたまえ。相変わらず部屋には戻っていないんだろう?」
『そうではなくて…。』
「では、何だい?」
反対にブルーから問いかければ、ジョミーは困ったように首をかしげた。
『…いいえ。何でもありません。』
何かを言いかけたようだが、結局ジョミーは首を振っただけだった。その代わり、表情を緩めてブルーを覗き込むようにして言った。
『でも、ここで眠ってしまうと1時間後の会議に遅れてしまいそうですからやめておきます。』
「待たせておけばいい。君がソルジャーなんだから。」
それを聞くと、ジョミーは呆れたようにため息をついた。
『まさかと思いますがブルー、あなたそんな調子で指導者をやってきたわけじゃ…。』
「そうでなければ300年もソルジャーをやっていられない。
1時間後に起こしてあげるから。」
しかしジョミーはというと、しかめっ面をしてふんとそっぽを向いた。
『その手には乗りません。絶対起こしてくれないんですから。』
「そんなことはない。」
『どうだか。』
「随分と信用がないんだね。」
『2、3回同じことをやられたら信用もなくなります!』
「そうだったかな?」
君に残酷な運命を課したのは、僕自身。
だから。
「君の寝顔くらい守りたいんだけどね。」
『それがいけないんです!!』
では、この瞬間だけでも…。
そう思わずにはいられなかった。
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アニメではフィシスだったよね、この辺のフォロー。(しかしフォローになっていたのかはなはだギモン。) |
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