|      画面に映るソレイド軍事基地は、強固な城塞といった様相を呈していた。ソルジャー・シンからは、軍事色の強かった育英惑星、トロイナスよりもさらに激しい戦闘が予想される、とワープ前に全員へ伝達された。何せ、トロイナスは軍事色が強いとはいえ、所詮は育英惑星だ。辺境の軍事施設の要となるソレイドとは比較にならない。
 しかし。
 「いまいち緊張感がないじゃない?」
 ナスチルことナスカで生まれたタイプ・ブルーの子どもたちは、そう笑いあった。
 「どうせ戦うのは僕たち…って思ってるからじゃない?」
 「そうかもね。」
 だが正直なところ、この子どもたちにも緊張感はない。それは、他人任せにする年長のミュウとは違い、激しい戦闘を経験したことのない気楽さから来るものだろう。
 「ソルジャー…」
 そして、その思念はブリッジにも届いている。シロエは、困ったようにジョミーを伺った。だが、ジョミーは微動だにしない。
 何か言いたげにしていたシロエは、それ以上は何も言わず、ジョミーと同様前方スクリーンを見つめた。
 ナスカで戦ったのは、目の前にあるソレイド軍事基地の軍事力を主力とする艦隊である。その事実だけでも、殺気立ちそうだと思うのだが…。
 …やはり、自分たち自身が痛い目を見ないと分からないのだろうか。
 「…ソルジャー・シン?」
 シロエは何かを感じてジョミーを見上げたが、彼は相変わらず黙ったままだった。
 『トォニィ、準備が出来次第出撃しろ』「了解!」
 ジョミーからの思念波に、トォニィは待ってましたとばかりに特殊仕様の戦闘機のコックピットに飛び乗った。
 「待ってよ、トォニィ!」
 「先に行くなよ…!」
 アルテラやタキオンが慌てて後に続く。トォニィの乗る一機が先に出、少し遅れて残り三機がそれを追うように出て行く。目指すはソレイドの守りの要となる、等間隔に連なる10基の護衛衛星。巡洋艦並の迎撃システムを備えているといわれているものだ。出撃前に、ジョミーからその配置や攻撃力の情報を渡された。
 「相手はただの機械じゃないか。僕たちの敵じゃないね」そう言ってトォニィは一笑に付したのだが、ジョミーは厳しい顔で首を振った。
 『機械だからこそ危険なんだ。では聞くが、お前に機械の思考が読めるか?』
 そうたしなめられるのには、黙らざるを得なかった。
 『護衛衛星には、テラズ・ナンバーの端末が置かれている。その解析能力は、お前たちの乗る戦闘機の攻撃パターンなどものの数分で見抜いてしまうだろう。十分注意することだ』
 …要は、さっさと壊せばいいってことだろ!
 トォニィはジョミーとのやり取りを思い出し、新たな闘志をみなぎらせた。
 「全艦、全速前進!」キャプテン・ハーレイの声に、シャングリラと三隻の宇宙船はソレイド軍事基地へ向かって動き出した。前線をトォニィたちに任せ、本体であるシャングリラと脇を固める巡洋艦クラスの船がそのバックアップと地固めを行う、いつもの戦法である。
 「気を緩めるな! どんな攻撃があるか分からんぞ…!」
 「前方の小惑星から高エネルギー体…!」
 ハーレイの声が響き渡った次の瞬間、ルリの緊迫した声が聞こえた。それと同時にレーザービームが放射線状に放たれる。
 「きゃ…!」
 「うわあ…っ」
 予想外の位置での攻撃にシャングリラは大きく揺れ、クルーたちは悲鳴を上げた。まさかこんな離れた場所で攻撃を受けるとは思っていなかったらしい。防御セクションも油断していたらしく、レーザーはサイオンバリアを突き抜けた。
 「防御セクション、何をしている…! 船体の被害状況は…!?」
 「情報を収集中です…!」
 現場からの情報がまだ届かないらしい。
 「敵迎撃システム、破壊完了。小惑星と見せかけた、巧妙な破壊兵器だったようです」
 攻撃セクションから報告があがってきたらしい。
 「よし。同じようなものがあるかもしれん、気を抜くな」
 …後手に回っているな。
 ジョミーはその様子を肌で感じながらも微動だにしない。自分が慌てれば、まわりが動揺する。そのため常に冷静に立っている必要がある。まだ戦闘もさわりの部分だからなおさらだ。ここでミュウに動揺を与えれば、勝てるものも勝てまい。それとも。
 ジョミーはわずかに眉根を寄せた。
 …精神的に弱いミュウの動揺を狙っているのか…。
 その可能性は十分にある。今までは、マザー・コンピューターの秘密主義が幸いして、こちらの情報が十分に伝わっていないところが多く、それに助けられた場面も多々あったものだが、今回はそうも行くまい。
 「機関室がやられました…!」
 オペレーターの声が響く。ようやく被害状況はまとまったらしい。だが、機関室には動力源やメインエンジンの制御機器が置かれている。事態は深刻だ。
 「何だと…? 船は動くのか…!?」
 「サブエンジンには問題ありません。ですが…推進力は80パーセントダウンします」
 「…ほとんど動けないということか…」
 ハーレイは悔しそうにつぶやいたが、すぐに顔を上げた。
 「…仕方ない、ゼルやブラウたちの船を先行させる。機関室の早期復旧に努めろ」
 「了解!」
 「…足をやられたような感じですね」
 慌しい指示伝達の中、シロエはジョミーにそっとささやきかけた。それでもジョミーは動かなかった。
 スクリーンには先に進んでいく三隻の船が映し出されている。
 「のっけからこんな状態じゃ、先が思いやられるな」
 だが、ジョミーの返事がないことを気にした風もなく、シロエはそうつぶやいて、また前を向いた。
 エンジンがフルに稼動できないということは、何かあっても素早い退避行動ができない。それなら、サイオンバリアが鉄壁ならばまだいいのだが、そうでもない。どうにも根底に甘えがあるように見受けられる。
 ブルーの嫌な予感が当たらなければいいが…。
 そう思ってふと青の間にいるブルーのことを思い浮かべた。
 おそらく、彼の人は今この様子をスクリーン越しに見ているだろう。また、変なことを考えなければいいけれど…。
 『トォニィ、見えたわ! ソレイドの護衛衛星!』『よし、散開して一気に叩くぞ! ひとり2個壊せば、お釣りが来る…!』
 4機の戦闘機は、それぞれの目標に向かって速度を上げた。護衛衛星からも、容赦のないミサイル攻撃が行われる。そして、ミサイル攻撃の間隙を縫うようにして行われる、レーザービームにも手を焼いた。威力はミサイルに及ばないが、その連携のとれた攻撃に、トォニィたちナスカの子どもたちは苦戦した。
 『もう…っ、なんなんだよ、これは!』
 『攻撃どころじゃないじゃない!』
 悲鳴じみた思念波の叫びが交錯する。
 「…グランパの言ったとおりだ…っ。なんだ、この異様な攻撃の正確さは…!」
 まったく衛星に近づけない。まるでこちらの行く先を知っているかのように先手を打ってくる攻撃に、避けるのが精一杯だ。
 これが…機械の思考? 今までは相手の次の出方を予想することができたのに、今は逆に読まれているようだ。
 トォニィは間断なく繰り広げられる衛星の攻撃にぞっとした。
 もしかして…勝てないかもしれない…。
 そのときだった。
 『さっきの勢いはどこへ行った?』
 何の気負いもない、ジョミーの思念波が届いた。
 「でも…グランパ…!」
 今この場でもっとも励ましてほしいと思っていた声に、涙が出そうになった。
 『落ち着け。機械にこちらのパターンを読まれているのならば、そのパターンを打ち破ってみろ』
 「…パターンを…打ち破る?」
 『機械は、予想外の反応に咄嗟の判断ができない。それが狙い目だ』
 そんなこと言われたって…と途方に暮れかけたが、ふとひらめくものがあった。
 「分かった、やってみる!」
 トォニィは叫ぶと、操縦を衛星の攻撃圏外に設定してオートモードに切り替えた。
 …タイプ・ブルーのサイオンに、パターンなどないと思い知らせてやる…!
 トォニィは攻撃を繰り返す護衛衛星をにらみつけてから、ふっとコクピットから姿を消し、宇宙空間に姿を現した。
 おそらく戦闘機や戦艦の動きに対しては、瞬時に解析できるようになっているのだろうが、宇宙空間で動き回る人の動きはそうそう読めまい。
 トォニィの身体が青白い光をまとい、衛星に向かって飛ぶ。戦闘機では考えられない動きに、護衛衛星は高エネルギーの破壊兵器と判断したのだろうか。衛星の迎撃システムはあらぬ方向へ向けて砲口を向け。
 「やったあ、トォニィ!」
 護衛衛星のひとつが同じ護衛衛星のミサイルによって大破したのだった。
  その様子に、シャングリラのブリッジにいたジョミーもほっと息を吐いた。トォニィ率いる前線部隊はこれでうまくいくだろうが…。
 ジョミーはシャングリラの前方にいるソレイド軍事基地の艦隊を眺めた。巡洋艦、駆逐艦は合わせて100隻足らずだが、その中からは次々と戦闘機が出撃し、こちらに向かってきている。
 あんな数を相手にするのか?
 本当に勝てるのか…?
 シャングリラ内の不安が入り混じった思念波が聞こえてくる。
 「敵戦闘機、間もなく攻撃圏内に入ります…!」
 「よし、サイオンビーム充填、発射準備。防御セクションは、このあとの戦闘に備えろ…!」
 すでに、ゼルたちの船は戦闘に入っている。ここさえしのげば、あとは…。
 「敵戦闘機、攻撃圏内に入りました!」
 「サイオンビーム、発射!」
 すさまじい爆発音と閃光が起こる。こんな本格的な戦闘は、ミュウにとっては初めてだ。
 「サイオンバリア、保ちません…!」
 「防御セクション、何をしている…!」
 「サイオンビームも命中率低下!」
 「何とか踏ん張れ! 退くことはできんのだぞ…!」
 悲鳴と怒号。不安と恐れ。ミュウを支配する感情が、負の方向を向いていく。そのとき、ふっと誰かのつぶやきが混ざった。
 …ソルジャー・ブルーなら…。
 その思念に、ジョミーの盲いた目が眇められた。
 そうだ、ソルジャー・ブルーならきっと…!
 …僕たちを助けてくれる…!
 その思いは、シャングリラ全体に広まっていった。
 
 
   13(ソレイド軍事基地4)へ
 
 
      
        | うーん、『ソルジャー・ブルー』はミュウの象徴と言うべきお人ですからね〜。メギドのときのこの人の犠牲は、やはり大きかったと思うんですよ。それをジョミーが生かしちゃったわけですから、ナスカの教訓も半分以下になっているんじゃないかなと思ってこんな感じに…。ミュウを甘やかしたという点ではブルーの自業自得? ジョミーにとっては面白くない状況…。(いえ、ソルジャーとして無視されているということではなく、ブルーが出てこなければいけない場面が用意されつつあるという点でね!)
 |   |