|    「…それで、君は何をしている?」「何って、あなたのご機嫌伺い。」
 いつものとおりシャングリラにやってきて、ブルーのベッドの横に座るジョミーは、にっこり笑いながらその主を仰ぐ。
 「以前と何も変わった様子はないけどね。
 それともそんなに自信があるのか…?」
 物憂げに言うブルーに、緑の瞳のドロボウはいたずらっぽく笑う。
 「あなたのほうこそ、僕の真意探りとやらは進んだの?」
 そうジョミーが返せば、美しい彼の人はふっと笑う。
 「…なるほど。僕に合わせてくれているわけか…。」
 「それに、口説くには押すだけじゃダメでしょ?」
 「押してもいないような気がするけどね。」
 「そんなに押して欲しいわけ?」
 そうジョミーに笑顔で続けられるのに、今度は沈黙した。
 そんなブルーの様子を見ながら、ジョミーはゆっくりと立ち上がり、ベッドの脇に腰掛ける。
 「ご要望とあれば、いくらでも。」
 無邪気な笑み。年相応の14歳の少年の微笑みを、ブルーの真剣な瞳が受け止める。
 「…その前に、僕に対する君の気持ちを聞いておきたい。」
 「今更何を言い出すんだか。」
 あなたを盗みたいって言ったときから、分かってるでしょ?
 「改まって聞いたことがないからね。」
 「そう言えばそうだっけ。」
 緑の瞳のドロボウは、とぼけたようにそう言うと、夢見るような表情でブルーを見つめた。
 「僕にとってあなたは、何を置いても手に入れたい愛しい存在。あなたの姿を、その意志の強い紅い瞳を見たときから心を奪われて、ずっとあなたに焦がれてきた。
 僕を哀れと思うなら、僕を見て。僕の思いを受け入れて。」
 多少芝居がかってはいるが、愛の告白ではある。
 これでどう?とばかりに、ジョミーはブルーを伺ったが、しかし、愛しい存在と告白された彼の人はというと、その様子を冷めた目で見ただけだった。
 「…だが、それはすべてじゃないだろう?」
 ブルーの言葉に、ジョミーは微笑を消した。そして、次には含みのある笑みを浮かべる。
 「…さすがは聡明なミュウのソルジャー。僕のこと、調べはついたんだ。」
 「いや、推測の段階だ。だから、君の気持ちをはっきりと聞きたい。」
 ふうん、と面白そうに笑って、ジョミーは次にブルーをまっすぐ見た。
 「あなたは僕の最愛の人であると同時に。」
 ふっとジョミーの表情が暗いものになる。
 「できればもう顔も見たくない、最も憎い人でもある。あなたの綺麗な顔を見ていると、いつか僕の手でその澄ました表情を壊してやりたいと思うほど、激しい思いに囚われるときがある。
 あなたは恋しい僕の想い人、だけど、同時に嫌悪する対象。こうして一緒にいるのも不快でしようがない。実際に、好きだ、嫌いだという単純な言葉で表現できないほどに、あなたへの思いは深い。」
 その激しい怨恨に満ちた言葉に、ブルーは表情を変えず、静かにジョミーを見つめていた。
 それに対して、ジョミーは暗い表情を消し、再び無邪気な笑みを浮かべた。
 「初めて知ったって顔でもなさそう。
 じゃあ、僕の真意探りとやらは大分進んでるんだ。推測だなんて言っても。」
 楽しそうに言うジョミーに。
 「…僕に触れるのは嫌だから、君は僕に手を出してこないと受け取ってもいいのか?
 僕の澄ました顔を壊してやりたいと君は言ったが、それ以前に盗み出すこともできない、と解釈して差し支えなさそうだが。」
 一種の挑発、とでも取れるブルーの台詞。
 「ふーん…。」
 その言葉を受けて、ジョミーは壮絶な微笑を浮かべる。
 これが、Bandit of Jade 本来の顔なのかもしれない。
 「あなたはもっと利口な人だと思ってたけどね、ソルジャー・ブルー。」
 後悔するよ?
 「そうでもない。
 得体の知れない君を後継者に据えようとしているのは、他ならぬこの僕だからね。」
 「…それ、まだ生きてるの?」
 「誰も取り消してなどいないだろう。」
 「物好きだね。」
 言いながら、今度は少年の笑顔に戻る。
 一体どれが本当の彼なのか、さっぱり分からない。
 「じゃあ、あなたのその酔狂なところに免じて、あなたの女神でも読みきれなかった僕の能力を教えておいてあげる。
 あなたの女神は、僕に人の記憶や感情を盗む能力があると言った。けれど、そのほかにも人の意思、電子記録、ああ、それとミュウのサイオン、そんなものも奪うことができる。」
 落ち着いて聞けば、恐ろしい能力である。
 サイオンを奪うということは、ミュウ特有の攻撃、防御能力さえ失くすことができるのだ。彼が人間側につけば、シャングリラなどあっという間に陥落だろう。
 しかし、ジョミーはその能力を人間のために使うとは露ほども考えてはいないらしい。
 「どう?
 僕がその気になれば、あなたの意思もサイオンも奪って、あなたを僕だけのものにしておくこともできるんだよ。誰にも触れさせないよう、誰も見ないように閉じ込めて、僕のことしか見ないようにして。」
 けれど、できればそんな悪趣味なこと、したくないけどねと微笑む。
 「だって、そんなことしたらあなたの魅力が半減する。
 僕の欲しいあなたは、その瞳に強い意思を秘めた、聡明で勇敢なこのシャングリラの指導者。ミュウの長として尊敬を集め、すべてのミュウに対して慈愛を注ぎ、慈悲の心を持ってか弱きミュウを守る、孤高のソルジャー。」
 それに対しても、ブルーは静かにジョミーを見つめただけだった。
 「あなたのその、どんなことにも動じない冷静としたところ、好きだよ。どんな状況でも道を誤らない沈着なところも。
 でも。」
 ジョミーはふっと目を伏せる。
 「同時に、憎らしくて忌まわしくてたまらない。
 とにかく、この間の賭けはあなたの勝ちだよ。おめでとう。でもね、これだけ聞けば、ミュウの長として僕を後継者にというのは、取り消さざるを得ないでしょ?」
 「取り消す気はない。」
 ジョミーの言葉に対して、ブルーは顔色を変えず応じる。
 同時に、ジョミーが呆れたようにため息をつく。
 「…頑固だよね、あなたって。」
 「それに僕は君の真意を理解したわけじゃない。」
 「…偏屈ものでもあるみたいで…。」
 「君は押してもいないし。」
 「…まだ言うの…?」
 そして今度は呆れたように微笑み、ベッドから立ち上がる。
 「気がそがれたから、今日は帰る。
 またね、ソルジャー・ブルー。」
 「ジョミー。」
 「なに?」
 出て行こうとしていたジョミーは、ブルーの呼びかけに応じて振り返る。
 「もし君の目的が50年前の復讐なら、その相手は僕だけにしておいてくれ。」
 「なるほど、やっぱりあなたの大事はこの船とミュウ全体ってワケだ。」
 天使のような微笑みに。
 「あなたは素晴らしい指導者だ。反吐が出るほどに。」
 似合わない物騒な響きが、青の間に木霊した。
 
 
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        | ごめんなさい、変なところでちょん切って!今回とりあえずここまでをアップ〜! |   |