|   「この間、どこかの星の偉い奴の夢に入ったんだけどさ、権力者の夢っていい夢なのかなと思ってたら、全然だったよ。脂ぎってていやらしい夢でさ。
 だから、精気を奪って病院送りにしてやったんだ。せいせいしたよ。」
 魔界の一角。少年少女の姿をした魔物が6人集っていた。
 その中の黒髪の少年が、自慢げに笑っている。
 「ちょっとタージオン。
 そんなことジョミーに知れたら怒られるわよ?」
 金髪の少女が眉をひそめてたしなめる。しかし、タージオンと呼ばれた少年は、まったく気にした風もない。
 「大丈夫だって、バレやしないよ。言わなきゃジョミーだって分かるわけない。
 …ってツェーレン、ジョミーもういないじゃん。」
 「あ、そうか…。」
 それっきり会話が途切れてしまう。
 少年たちの心に大きな穴があいてしまったかのような、そんな様子が伺えた。
 「…なんかつまんないな。」
 「なあにタージオン、いつも悪さばっかりしてたのは、ジョミーに構われたかったからなの?ほんっとに子供なんだから。」
 長い紫黒色の髪の少女、アルテラが横から口を出す。
 「そっ、そんなことあるわけ…。」
 慌てて否定しようとしたタージオンだったが、途中から黙り込んでしまった。そしてうつむき加減でぼそっとつぶやく。
 「…やっぱり戻らないのかな?」
 「そうなんだろ?なんたって『追放』なんだから。」
 タージオンのつぶやきに、銀髪の青年、タキオンがため息混じりに応じる。
 「でも、追放処分だって決定したわけじゃないから分からないじゃない。トォニィがそう言っていたし…。」
 黒髪を二つのお団子にした少女、ペスタチオはそう言ってから、ふと周りを見渡した。
 「そういえばトォニィは?」
 「そのジョミーに会いに行ってる。連れ戻すんだって。」
 亜麻色の髪のコブが応じると、タキオンがふんと笑う。
 「トォニィはグランパびいきだからな。」
 「ホント、笑っちゃう。」
 と、言いつつ誰も笑わない。そういった当人のペスタチオでさえ。そして笑わない代わりに、寂しげにつぶやく。
 「トォニィ、ジョミー連れて戻ってくるかな…?」
 「それはないだろ。ああ見えて言い出したら聞かないぜ、ジョミーは。」
 「もう!どうしてそんなに意地が悪いの!!」
 タキオンが答えれば、逆にペスタチオににらまれてしまった。
 「そりゃ僕だってジョミーには戻ってほしいけどさ、人間のほうがいいって言うんだから仕方ないじゃないか。」
 「ジョミーは元々人間好きだったからな。おかげで僕たち、随分健全な悪魔やってたよなー。」
 兄を助けるためか、タージオンも同意した。
 「ほーんと、うるさいんだから、ジョミーって。
 弱い奴からは精気を取るなとか、必要最小限にしろとか。」
 アルテラが笑いながら応じる。
 「しかも怒ったら怖いよな、冗談抜きで。」
 コブもつられて笑う。
 「普段はへなちょこなのに。」
 「だよねー。」
 みんなでひとしきり笑ったあとは、やはり沈黙してしまう。それだけ彼らの中で、ジョミーの存在が大きかったということか。
 「やっぱり、物足りないよな…。」
 コブがつぶやくのに、ペスタチオがため息をつく。
 「ねえ、私たちがもっと小さかったら、ジョミーは人間じゃなくて私たちを取ってくれたかな…?」
 「そんなこと考えたって、いまさら小さくなれるわけがないじゃないか。」
 「んもう!タージオンの意地悪!」
 「でも、ジョミーは好きな人のところへ行ったんでしょ?
 ジョミーがずっと恋人も作らずに一人でいたのって、私たちのせいかなって思うの。せっかくジョミーが幸せになろうとしてるのに、邪魔したらいけないような気がする。」
 ツェーレンが言うのに、タキオンが信じられないという表情で首を振る。
 「幸せぇ?
 力もほとんど使えずに、寿命もあと何十年程度の人間になって、幸せなのかよ?」
 「でもジョミーはそうは思ってないじゃない!私だって、すぐに死んじゃうような人間になるのは不幸だと思うけど…。」
 ツェーレンもため息をついて空を仰いだ。
 「…トォニィ、ジョミーを連れてきてくれるといいね。」
 「うん…。」
 魔界の曇った空は、そのまま彼らの胸のうちを現しているかのようだった。
 
 
 
 
 
 
 
      
        | ナスカっ子登場!ジョミーの子育ての苦労が偲ばれる...。 |   |