「…大丈夫ですか?」
ジョミーからそっと声がかかった。
息を整えながらジョミーを見遣ると、彼は彼で罪悪感に囚われたような表情をしている。
「無理させて…ごめんなさい。ブルー、大丈夫…?」
そうやって覗き込んでくるところは、優しい彼そのままだ。
「ああ、少し身体が辛いけどね」
そう言うと、ジョミーの表情がさらに曇る。その顔を見られただけで、溜飲の下がった気分になって、身体に負担をかけないように起き上がった。
「大丈夫だよ。でも、こういうのはなるべく遠慮したいけどね」
そう言うとジョミーはしゅんとなった。
「あなたが僕のブルーじゃないって分かってたんですけど…」
まあ、そんなに悪くはなかったが、と思いかけて。ジョミーの言葉に目を剥いた。
…何だって…?
「それでも、あなたに触れたかった。あなたに触れられないなんて思っただけで気が狂いそうだっ…」
「待て! 今何と言った…!?」
聞き逃しそうになったが…今君は何と言った…!?
ブルーは独白を続けようとしたジョミーを遮った。
「え…? 『あなたに触れられないないと思っただけで気が…』?」
「その前だ!」
「『それでもあなたに触れたかった』…?」
「その前…!」
ブルーの剣幕にきょとんとしていたジョミーだったが、何かに思い当ったらしく、くすっと笑った。
「まさかと思いますけど…気がついてなかった…?」
「…!!」
た…確かに…怪我をしたあとのジョミーは、ジョミーじゃないみたいだとは思っていたが…。
ブルーは言葉を失ってジョミーを見つめているしかできなかった。確かに容姿のそっくりな別人という考えを起さなかったわけじゃない。でも…それでは…。
「じゃ…君は一体…」
「これはあくまで僕の推測ですけど」
そう言ってジョミーは心持ち上を見上げた。
「数日前、訓練室の照明の落下事故があったとき、何かの原因で時空が歪んだんじゃないかと思ったんです。あなたは僕が頭を打ったせいだと思い込んでいましたけど、どうもそうじゃないような気がして…」
確かにジョミーはあの事故のことを空間が歪んだような、という表現をしていた。
「もしかして、あなたや僕という人間が別の次元に存在していて、それがあの事故のはずみで入れ替わってしまったら。ずっとそんな思いが頭から離れなかったんですけど、それが決定的になったのは、医務室での夜、あなたに拒否されたときでした」
ブルーはジョミーの言葉をただ黙って聞いていた。
…そこまでは考えなかった。きっとジョミーは事故のショックで混乱しているのだろうと。けれど今のジョミーには混乱のかけらもない。
「あんな夜、ブルーは僕から離れたりしないから」
そう言って、今度はじっとこちらを見つめられるのに、つい居心地が悪くなって視線を逸らした。
「し…仕方ないだろう! 僕にとっては天地がひっくり返ったくらいの衝撃だったんだ!」
慌ててそう叫ぶと、ジョミーはくすっと笑った。
「そうでしょうね、僕もそうでしたから」
その言い草が妙に大人びいていて、意味もなく焦ってしまう。
「だ…大体! そうならそうと言ってくれればいいだろうに! 何も人に誘いかけるような真似をしなくたって…!」
「あれ? 僕がいつ誘いました?」
今度はしれっとそう言い切るジョミーに、今度はむっとした。むっとしついでに視線を戻してジョミーをにらみつける。
「頭が痛いとか何とか言って、青の間に寄らずに部屋に戻ったときだ!」
するとジョミーはわざとらしく考えるふりをしてから、ああ、あれ…とつぶやいた。
「そのときは本当に頭が痛かったんです」
「うそをつけ!」
「どうしてうそだと思うんですか?」
「いかに君が違う次元のジョミーだったとしても、ジョミーが僕を避けるなんてことはありえない! どんなときにあっても、ジョミーは僕を優先するに決まっている…!」
ジョミーはと言うと、さっきまで浮かべていた笑みを消すと、ブルーをじっと見つめて。
「大した自信ですね…」
呆れたようにため息をついた。
「…でも、そのとおり。やはりあなたはブルーだ、たとえ僕のブルーじゃなくても」
そう言うと、今度はひっそりと笑った。
「…ジョミー…?」
だが、ジョミーは次の瞬間にはにこっと笑った。
「だから思ったんです、ブルーはブルーだって」
「え…」
「たとえ僕のブルーじゃなくても、ブルーならきっと僕を受け入れてくれるって。それが証拠にあなたは最終的には僕を…」
その途端、さっきまでジョミーを受け入れてよがっていた自分自身を思い出してさらに焦った。
「き…っ、君の世界のことなど知らないが!」
黙っていれば、とんでもないことを言い出しそうだったので、ブルーは慌ててジョミーを遮った。
「君の相手をしていた僕は、随分と寛容だったようだな。お世辞にも君は上手とは言えなかったしね」
自分の乱れようを思い出し、つい、そう悔し紛れに言い放ったのだが。
それが相手の急所に当たってしまったらしい。自分でも気にしていたのか、ジョミーはぐっと詰まったらしく、黙り込んだ。けれど、今のブルーにはそれが分からない。
「相手を思いやるような優しさも必要だと思うけどね。思いのたけを相手にぶつけるだけなら、誰にだってできるだろう。ある程度テクニックが未熟なのは仕方ないのかもしれないが、君にあるのは勢いだけだ。若いからそれも仕方ないのだろうが」
すると、今度はさっきまでの調子はどこへ行ったのか、悄然とうなだれて「そうですね」とつぶやいた。
…少し言いすぎたか…。つい感情的になって、言わなくてもいいことまで言ってしまったような…。
ジョミーを見ていると、そんな罪悪感を覚えた。
突然襲われて、普段とはまったく逆のことを強要されたとはいえ、ここに来たのは確かに自分自身の考えだし、本気でジョミーを押しのけたかったらできないことはなかった。
ならば、これも自分自身の招いたこと。一方的にジョミーを責めることなどできようはずもない。しかし、それを口にするのも年上のプライドが邪魔をした。
「そう…ですね、すみません…」
重い沈黙が続いたあと、ジョミーはしおらしく頭を下げてきた。
「僕があなたに求めたのは、あなたにとっては屈辱的なことだったのに…。浮かれてて、そんなことにも気が回らなくて…。え…?」
たとえこの子が僕のジョミーでなかったとしても…。
ブルーの手がすっとジョミーの頬に触れる。それは健康的で、セックスの影響かわずかに赤みが残っている。
「ブルー…? あの…」
怪訝そうにこちらを見つめ返してくる少年は、自分の大切な太陽そのものだ。
「いや。君のいうとおりだなと思って」
「え…?」
「君は僕のジョミーじゃないかもしれないが、それでもジョミーには違いない、と」
こんな風に緑の大きな瞳でまっすぐに見つめてきて、憧れの入り混じったような思慕を向けてくる。どこも変わりはない。そう思って。
そのとき、ふと思いついたことがあった。
「そうだ。僕が実技指導をしてあげよう」
「は…?」
ジョミーの目が落ちそうなくらい見開かれた。突然のことに何を言われたのかよく分かっていない様子だ。
「僕は君よりもこの手の経験が長いしね。そうだ、それがいい。もし、君が君の世界に戻ったとしても、君の僕を満足させることができるじゃないか」
何せ相手は僕なんだし、と言うと、さすがにジョミーも分かったらしい。首をぶんぶんと振ると、慌てて狭いベッドの上で後ずさった。
「ええっ! ちょ…待って! 僕はそんなこと初めてで…っ!」
さっきとはまるで逆である。その危機感はこの部屋に来るまでのブルーのものだったのだから。
「大丈夫。だって、君はいつも満足してくれていたから」
「それは僕じゃなくて…って、どこ触って…! 待って、ブルー…っ!」
…やはり、結局のところ、経験値の差でブルーの勝ち…? であるらしい、ジョミブル攻め同士バージョンでした〜。
5へ
次は受け同士。受身同士と言うのは能動的に欠けるようなので、も少しゆったりとした感じかと…♪ |
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