ジョミーが会談初日、尉官会議に行った直後の話です。
…まったくあの馬鹿め…。
キースはまだ未練の残っているらしいジョミーを見送ってから、ソルジャー・ブルーに向き直った。
「このあとは、私がお部屋までお送りします。」
そういうと、彼の人は静かに微笑んだ。
「すまない。」
賓客誘導のため、キースはソルジャー・ブルーの前に立つ。
だが、背後の客人は、気配がおそろしく希薄で、たまに振り返って確認しないと、いなくなっているのではないだろうかと思えるほどだ。しかし、ひとたび視線を向ければ、その姿は強烈な存在感を示す。
これは、ジョミーのことを笑えないな…。
男性としては、または300歳以上といわれる人にしては、信じられないほど整った中性的な容貌。全体的に色素が薄いのに、唯一血の色を宿す双眸だけが際立っている。
…ぞっとする…。
しかし、奇しくも思ったことはジョミーと正反対だった。ジョミーが「綺麗」だと評した紅い目を、キースは「不吉」だと感じた。
もちろんそんなことを表に出すようなキースではない。表向きは丁寧に振舞う。
「ジョミーはおもしろいね。」
ふと気がつくと、後ろを歩いていたはずのソルジャー・ブルーが隣にいた。
追いついていた気配などまったく感じなかったのに、と驚いたが、キースはそんなことはおくびにも出さなかった。
「…シン中尉が何か無礼なことでも?」
彼の人はその言葉に、そんなことはないよ、と笑いながら首を振る。
「発想や感性がユニークで、話していて楽しかった。
君は、彼とは親しいのか?」
…唐突である。
まあ、先ほどのやり取りを聞いていれば、友人同士ということは分かるだろうが。
「…昔からの知り合いですので…、腐れ縁といったところです。」
「そうか。やはり親しい友人には違いないようだね。」
「そう、なりますか…?」
親友同士であるということはわざとあいまいにしたというのに、すっかり決め付けられてしまったようだ。
あいまいにしてしまった理由は、なんとなく嫌な予感を覚えたからだが。
「ジョミーは非番のときは何をしているのだろうか。」
「は…?」
どうしてこのようなときにそんな質問が出るんだろう?やはり予感は当たってしまったようだ。
「さあ…。付き合いの広い奴なので、同じく非番のものと一緒にスポーツをやっているときもあれば、射撃練習に付き合っていることもあるようですが…。」
よく分からないまま、つい答えている自分がいた。
「じっとしているのが苦手なジョミーらしいね。」
嬉しそうな微笑に、目が釘付けになった。
よく考えれば、この人のこんな笑顔を見ることなどまったくなかった。会談内容が内容なだけに笑顔を浮かべることなどできないのだろうが、そんな表情をしていれば、彼がミュウ最強のサイオン能力の持ち主であることなど忘れ去ってしまいそうだ。
「君とジョミーとはよく一緒にコーヒーを飲んでいるようだが、彼はコーヒーが好きなのかな?」
まったくジョミーのおしゃべりめ!そんなことまで話しているのか!
キースは心の中で悪態をついた。だが、実際ジョミーがソルジャー・ブルーに対してそのような話をした事実はないのだが。
「…さあ…。その、軍にいるとコーヒーぐらいしか出てこないものですから。
でも、あれには好き嫌いはないと思いますが…。」
「ますますイメージどおりだな。」
何をイメージしていたのか?
とは思ったが、どこか嬉しそうに言うソルジャー・ブルーには余計な突っ込みはしないほうがいいと思って黙っていた。
ホテルの中に入り、エレベーターに乗る。
やれやれ、これでお役御免か。
ほっとしていたキースだったが、それだけでは済まなかった。
「さっき、ジョミーは休日、友人と過ごしていると言っていたが、彼には恋人はいないのかな?」
…これはまた、答えにくいことを…。
もちろんジョミーのプライバシーということはあるが、それ以前に、いないのだ。
20歳を超えたメンバーズともあろうものが、恋人の一人や二人、いないほうが少ない。メンバーズは未婚であるという条件はあるものの、それ以外の制約はない。そのため、メンバーズのほとんどには恋人がいる。
別にジョミーがモテないというわけではないのだが、超がつくほど鈍感なジョミーは、まわりにその気があっても、まったく気がつかない。告白されても、どこかズレてとらえてしまうせいで、自分に好意以上のものが向けられているとは気がつかないのだ。
しかし、そう思うキース自身、相当鈍感ではあるが。
「さあ、それこそ本人でない限りは…。」
さすがに逃げを打ってみる。
「では、君が見てどう思う?」
だが、ミュウのソルジャーはなかなか追及の手を緩めない。
「は…、私から見て、ですか…?」
まさかそこまで聞かれるとは思わなくて、キースは焦ってしまった
「…まあ、いないのではないかと…。」
焦りついでについ事実を言ってしまったが…。もうなんとでもなれと半ばやけになっていた。
「それは意外だ。もしかして、ジョミーは女性よりも男性のほうがいいのだろうか…。」
外見秀麗なこの人からそんな台詞を聞こうとは…!
チン、と音がして、エレベーターが指定フロアに到着した。
さすがにそれ以上キースは答えることができなくなって、沈黙のままエレベーターを降りた。いや、もうコメントのしようがないだろう。
幸いにもソルジャー・ブルーは返事を期待していた様子はなく、エレベーターホールの角で立ち止まった。
「ここでいい。部屋は目と鼻の先だ。」
それだけ言うと、ソルジャー・ブルーはキースを置いて歩き出し、角を曲がろうとしてふと振り返った。
「ありがとう、アニアン少佐。参考になった。」
キースは返事もできずに廊下の角を曲がっていった彼の人を見送るしかできなかった。
はたと我に返って、慌てて自分も廊下の角を曲がったときには、すでに彼の人の姿はなかった。
気がつけば、ここまで来る間ジョミーのことしか話をしていないのに、一体何の参考になったのか、気にはなったが考えないほうがいいような気がした。
とにかくほんの数分のことなのに、異常に疲れたキースだった。
…ジョミーめ、こんな役をやらせおって…。恨むぞ…。
なんとなく書いてしまったら、本編よりも早くできましたー。 |
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