|     シャングリラになんか滅多に来ることないもんね。母親であるカリナの側からそっと離れ、トォニィは船の中の冒険を楽しんでいた。
 名も知らぬ機械がたくさんあって、いろんな部屋がいっぱいある。そんな船内は、子供の好奇心をそそるのには十分だった。
 トォニィはわくわくしながら船内を見てまわっていたが、ふっと悲しそうな顔になった。
 なぜだかパパやママのような大人たちは、この船に来ることを嫌がっている。逆にもっと上の、長老と呼ばれる人たちはナスカに降りてこない。なぜそうなのかよく分からないけれど、それがグランパを困らせる原因になっていることは何となく分かる。
 どうして、仲良くできないんだろう。大人は僕たちに仲良くしなさいって言うのに。
 とぼとぼ歩いていると、周りの雰囲気が変わる。
 あれ?と思って回りを見渡すと、そこは静かな青い照明に照らされた空間だった。
 満々と水が張られた室内を、トォニィは目を丸くして見つめた。そしてその奥に、ベッドが置かれていることに気がつく。そこに人が横になっていることも。
 …こんなとこで眠ってるなんて、一体誰だろう…?
 近寄ってみると、それが彼の大好きなグランパと同じくらいの世代の青年であると知る。
 …綺麗な人…。
 そう思って、じっとその横顔を眺めていると。
 くす、と笑い声が聞こえた。
 だ、誰だろう?と思ってきょろきょろ回りを見渡したが誰もいない。というか、ここにはもう一人だけ…。
 「よく来たね。シャングリラの中は面白いかい?」
 視線を戻すと、ベッドに眠っていたはずの人が目を開けて微笑んでいた。その目は鮮やかな赤色…。
 その特殊な容姿には覚えがある。輝くような銀髪に、血よりも紅い瞳。
 でも何で急に…?どうして突然この人の前に…!!
 いきなりの恋敵との遭遇に、トォニィはわたわたと慌てた。そうしている間にも、ベッドの彼の人はゆっくりと上半身を起こしてトォニィを嬉しそうに見やる。
 「はじめまして。君はトォニィだね?」
 な、なんで分かるの!?
 そう思いかけて、相手は最強と謳われたミュウだったと思い出した。
 「僕はブルー。ジョミーの前のソルジャーだったんだよ。」
 そ、それは知ってるけど!
 焦るトォニィに構わず、ブルーは手を伸ばして子供特有のふっくらとした頬に触れる。
 そのひんやりした感覚に驚いた。まるで…、血が通っていないかのような…。
 「ああ、ナスカと同じ色の瞳だね。綺麗なオレンジ色だ。」
 ナスカと同じ…?
 ブルーの微笑みに、目を奪われる。優しくて、それでいて儚そうな微笑みに、なぜだか胸が締め付けられる。
 「それに…、ユウイにもカリナにもよく似ているね。」
 トォニィの戸惑いをよそに、ブルーは嬉しそうに微笑む。その微笑に見とれかけて。
 そうだ!この人はグランパの敵なんだっ!僕はグランパが一番だって証明しなきゃいけないんだから、この人のことを綺麗だとか優しいとか思っちゃいけないんだ!
 そう思って、精一杯眼光を鋭くした。
 しかし、相手はひるむ気配がない。それどころか、その様子がおかしかったのか、なおさら微笑を深くする。
 僕を手懐けようったってそうはいかないぞ!僕はグランパが大好きなんだから、あなたのことが嫌いなんだ!
 「そう、奇遇だね。僕もジョミーのことが好きなんだよ。」
 にっこり笑ってそう言われるのに、もっと慌てる。
 読まれてる…!そりゃ相手はソルジャーだった人だ、心を読むなんてお手のものだろうけど!
 「君の期待を裏切って申し訳ないけれど、今僕はほとんど力を使えない状態なんだ。読んでるわけでも何でもない、君の声が聞こえてしまうだけなんだよ。」
 「うそ…。」
 多分、それはかつてのソルジャーであったブルーだからこそ感じることができるのだろう。
 …だって、そんなこと言われたことないし…。
 ブルーは動揺しているトォニィを見ながら、懐かしそうに笑う。
 「君は昔のジョミーとよく似ているね。力が強くて思念を隠し切れない。でも、当時のジョミーよりは君のほうがコントロールが上手だ。」
 いちいち丁寧に、しかも笑顔を添えて応えてくれるブルーに、トォニィは毒気を抜かれて声も出ない状態である。
 もっと嫌ってやるつもりだったのに、この人にはそうできない何かがある。この人の姿を、表情を見ていると、憎しみの気持ちが萎えて、逆に心地良いようなこそばゆいような気持ちが湧いてくる。
 とにかく。
 …調子が狂いっぱなしだ。
 「さて。そろそろ戻らないと、皆心配するんじゃないかな?」
 その言葉には思いっきりうなずいた。
 やはり経験値の違いだろう、その差は歴然としていて、すっかり相手のペースに巻き込まれているため、さっさと退散するほうが得策だ。
 でも…。
 ふとジョミーの顔を思い出して、困ってしまう。
 こんなところに来ていたことがグランパやママにバレたら、絶対怒られるよな…。けど、そんな弱味見せちゃダメだ、特にこの人には…!
 「ねえ、トォニィ。」
 そんなことを考えていたら、目の前の彼の人から声をかけられた。
 「ここで君と会っていたことは、君と僕の秘密にしておこう。」
 微笑んでそう言われたのには、口止めを言い出せないことに、先回りされたとは思ったが。
 …黙ってうなずいておくことにした。そして、足早にこの場を去ろうとしたとき。
 「そうそう、君は面白いことをしているんだね。」
 今度は何を言い出す気だろう、この人は…?
 微笑みながら言われるのに、さすがに身構えてしまう。
 「僕はジョミーに一票入れておくよ。」
 この人が心を読んでないなんて、絶対ウソだ!と。
 このとき実感したのだった。
 
 
 
 
 
      
        | ブルーとトォニィならこんな感じ…?これもほのぼの分類? |   |