4話から5話の間くらいの捏造

7 明日なんてこなければいいのに


 

 

 

「ブルー!」
「やあ、ジョミー。」
 最近眠っている時間の多くなったブルーが珍しく起きていると知って、ジョミーは慌てて青の間に走りこんだ。ベッドサイドに立っていたフィシスが微笑みながら振り返る。
「いらっしゃい、ジョミー。今ちょうどあなたのうわさをしていたところですのよ?」
「…どうせまた、訓練設備を破壊したこととか、長老と喧嘩したこととかでしょ?」
 面白そうな微笑みを浮かべているところを見ると。そうとしか思えない。
「君は新しい時代の象徴だと話していたんだよ。」
 もちろん、いい意味でだよ。
 ベッドの上のブルーにそういたずらっぽく返されるのに、最初はむっとした。けれど、その言葉の持つ意味に気がついて、次には悄然としてしまった。新しい時代、ということは、世代交代を意味する。世代の交代ということは…。
 目の前では、ブルーとフィシスが和やかに談笑している。二人ともその事実に気がついていないはずはないのに、
「旧態然としたシャングリラの皆にとっては、ジョミーのすることは随分と斬新に映るようだけどね。」
「まあ、あなたがそれをおっしゃるんですか?他の誰が言っても、あなたがおっしゃってはいけませんわ。」
 フィシスはそう言いながらにこにこ笑う。そして、くるりとジョミーを振り返った。
「この人だって、あなたに勝るとも劣らず、皆の頭痛の種だったんですのよ?」
「頭痛の種とは人聞きの悪い。」
「あら。では、悩みの元とでも言い直してさしあげましょうか?」
「これは手厳しいね。」
 ブルーは苦笑いしてフィシスを見遣るが、当のフィシスは平然としている。
「ジョミーも長老方に訊いてみれば私の言っていることが本当だと分かりますよ。
 では、私はお暇しますわ。お二人ともごゆっくり。」
「え…? もう行っちゃうの?」
「ええ、ソルジャー…、いえ、ブルーとのお話は終わりましたもの。」
 ではごきげんよう、と優雅にお辞儀をして去っていくミュウの女神を見送りつつ、ジョミーは新しい時代の象徴、という言葉に囚われていた。
 新しい時代、おそらくそのときブルーは…。
「ジョミー、ここにおいで。」
 その声にはっと顔を上げると、ブルーが微笑みながら手招きしていた。それに従って先ほどまでフィシスのいた位置に立つ。
「君がどんな指導者になるか、楽しみだと話していたんだ。」
 ジョミーの内心に気付かないかのように、ブルーは微笑みながら話しかける。
「確かに、荒削りなところはあるが、君には強い意志と強靭な精神とがある。かよわいミュウには、それがどれほど心強く感じられるか。
 僕は君が幼いころから君の成長を見ていた。この子はどんな世界を創っていくんだろう、誰からも愛され慕われる優しさと、皆の指標となる強い心をあわせ持つ君が、どんな未来を描いていくのか、と。それがとても楽しみだよ。」
 …あなたが優しければ優しいほど、その微笑みが美しければ美しいほど、僕の気持ちは塞いでしまう。この人はそれすら感じていないかのように微笑みながらこちらを見ている。
「…あなたは?」
 あなたの言う未来の世界には、あなたは含まれていないのでしょう?
 そう問えば、この人は黙った。
「僕のことばかり気にしていないで、あなた自身のことを思い遣ってください。」
「ジョミー。」
 あなたはいつもそうだ。自分を主張しない、我を通そうともしない。
「…新しい時代なんか…、明日なんてこなければいい。」
「そんなことを言うものじゃないよ。」
 微笑みはそのままに、ブルーは首を振った。
「君にしろ僕にしろ、いずれは死ぬ。僕は永く生きてきて、君はまだ若い。それだけだ。」
「でも、僕はあなたと会ったばかりなんです!」
 それには、ブルーは嬉しそうに笑った。でも、どこか寂しげに感じられる笑みだった。
「そうだね。でも、それが運命なんだよ。誰が悪いわけでもないだろう?」
 今度は反対にジョミーが黙り込む。
「僕だって、君がどんなふうにミュウを導いていくのか、見ることができなくても構わないと言えば嘘になる。だけど、君が僕に代わり、僕と違った方法で先頭を歩く姿を想像すると、嬉しくなる。」
「…分かりません。」
 分からない。志半ばにして道を譲らなければならないことのどこが嬉しいのか分からない。
「そうかい?君に後継者ができると分かるかもしれないよ。」
「こ、後継者?」
 まったく想像すらつかないことを言われて目を白黒させる。
 まだソルジャーになりたてで、新米もいいところだというのに?
「言っただろう? 君だっていつかは死ぬんだ。そのとき、自分の跡を継ぐのが美しく力強い身体と、輝かしく伸びやかな精神を持つものなら、どれほど誇らしく喜ばしく思えるか。」
「…分かりたく、ありません。」
「困ったね。」
 しかし、ブルーは言葉とは裏腹にさして困った様子もなく微笑んだ。そして、そのときになったら、僕の気持ちが分かるから、といわれたけれど。
 僕は、そんな気持ちなんか分かりたくもなかった。




ジョミーがシャングリラに来て間もなくの設定♪
にしても、わざわざ少数お題を選んでいるというのに、まだクリアしていないのであります…!

 


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