もう二度と仲間たちの死を見たくない。
そう思って、僕は皆を守ろうと思った。
収容所で仲間たちが死んでいくのに、僕が生き残っていたのはただの偶然だった。身体も小さく、体力的に劣るのだから、いつ死んでもおかしくなく、度重なる実験の中で死は決して遠い存在ではなかった。
けれど、生き延びた。
そして、アルタミラの大虐殺を経て…。
僕はミュウを統べるソルジャーとなった。
その運命をどうこう言う気はない。アルタミラで見捨てざるを得なかった仲間たちへの罪滅ぼしとでも思えば、命を懸けて同胞を救うことに否はなかった。
けれど。
君を巻き込んでしまったのは、間違いでなかったかとたまに思うときがある。
ソルジャー・シン。
いまや唯一無二のミュウの指導者となった君に、いまさらこんなことを考えているなんて知れたら笑われるだろうね。君なくしてはミュウが地球へ到達することはあり得なかっただろうし、君だからこそこれだけの戦いに勝利することができた。
だが…、君らしさがまったく隠れてしまったようで…。
「僕らしさって何ですか?」
…おや、聞こえたのかい?
会談を控えている君の邪魔はするまいと思っていたんだけどね。
「別に邪魔じゃない。」
それはありがとう。
「それよりも、僕らしさって一体なんですか?」
…こだわるね。
そうだね、明るく優しく、まっすぐなところ、かな?
「…そうですか。
でも、それをなくしたのはあなたのせいじゃありません。」
…そうかい?
「僕は自らあなたから運命を引き継いだんです。あなたに強制されたわけでも同情したわけでも何でもありませんから。
その辺は間違えないで下さい。」
…言うようになったね。さすがはソルジャー・シン。
「あなたに言われても嫌味なだけです。
それよりも、せっかくなんですから、先代らしく明日の会談について秘策のようなものを授けてくれないんですか?」
君の思念が笑っている。最近では珍しいことだ。
残念ながら、そんなものはないよ。
「…冷たいですね。」
冷たいも何も。
君はただ一人で皆を導いてここまでやってきたじゃないか。君は君らしく、君のやり方で明日に臨みたまえ。
そう告げると、ジョミーはしばらく返事をしなかった。
突き放しすぎたかな?と少々不安になったころ。
「ブルー。」
不意に呼びかけてくる、声。
「…どんな結果になっても…、あなたは僕を許してくれますか…?」
滅多に聞くこともないソルジャー・シンの弱音を聞いたようで、おかしくなった。
今言ったじゃないか。君は君らしく、この戦いに終止符を打てと。
僕が選んだ君のすることだ、僕はどんな結果になったとしても、君は正しかったと言い切れるよ。
「…それなら…、いいんです。」
…やれやれ。泣く子も黙るソルジャー・シンともあろうものが、随分と気が弱くなっているものだ。
「…いけませんか?」
いや。
君があまりにも強いと、僕が寂しい。
「僕も、あなたがあまりにも冷たいと寂しい。」
そうやって、甘えてくるところは変わらないね。むしろ、巧妙になったのかな?
「あなたを見習っただけです。」
口も達者になったようだね。
さて、そろそろ眠りたまえ。泣いても笑っても、明日ですべてが決まる。
「…そうですね。じゃあおやすみなさい、ブルー。」
ああ、おやすみ。
それっきり。
君の思念も途絶えて、静かになった。
今度は、君を起こさないようにそっと思いを馳せる。
ジョミーは明日への不安な思いを感じさせない。おそらく…、明日戦いを終わらせると同時に君は…。
できれば…、君の優しさや明るさを守ってやりたかった。
多くの犠牲を払い、戦いに勝つことでしか進むべき道が開けなかった君の辛さは、こうして身体をなくしてしまった後は、なおのことリアルに感じることができた。
もし…、生まれ変わることができるならば…。もう二度と君にこんな思いをさせない。
だから。
来世でも君と出会えるよう、祈っていてもいいだろうか…?
「ブルー、あなたは生きている」と言っていたので、こういうのもアリかなあ?と。 |
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