3,4話あたりから転生までの捏造

3 「忘れて」


 

 

「『忘れて』と言われたらどうする?」
「…え?」
 訓練の合間。
 休憩がてら、青の間にやってきたジョミーに、ブルーは突然そうつぶやいた。
「例えば、『僕のことは忘れて、好きに生きてくれ』と言われたら。君ならどうする?」
「なんですか、それ?」
 ジョミーは謎めいた笑みを浮かべているブルーに、しかめっ面をして問い返した。
 そもそも今僕は、この人の意志を受けてソルジャーになるべく訓練中なのだし、この人のことを忘れるなんて仮定はあり得ないだろう。
「そんなこと、考えたこともありません!」
 この人を忘れるだなんて。
「だから、もしも、だよ。」
 むっとしたジョミーをなだめるように微笑む。
「たまに思うときがある。
 僕が君の成人検査を邪魔しなければ、君はあのまま検査をパスして、今頃はどこかの教育ステーションで友人と一緒に笑っていたのではないかとね。」
 こんな重責を背負わされることもなく。籠の中であっても、それさえ知らなければ、自由に生きることができたかもしれない。
 しかし、ジョミーはむっとした表情を隠すことなく、ブルーを睨んだ。
「その自由が、所詮籠の中のものだと教えてくれたのは、あなたです。」
 何も知らないころへ還れとでも言うんですか?
「…そうだったね。」
 ほのかに苦笑いしながら、ブルーはゆっくりとかぶりを振った。
「すまない、失言だった。」
 年を取って気が弱くなったのかな、と笑いながら言う姿に、こちらもつられて微笑んだ。
「それに、君に忘れられたら僕が寂しい。こうしてたまに起きているとき、君が来てくれるのを待っている間がひどく物足りない。もうここには来てくれないような気がして。」
 おかしいだろう? 僕が君なしじゃいられないのに、つい余計なことを考えて。
 そう言われるのに、思いっきり首を振った。
「絶対に来ます!毎日でも数時間おきにでも来ますから!!」
 真剣に叫んでしまったためか、この人はしばらく呆気に取られたように目を見開いて、でも次にはくすくす笑った。
「ありがとう。」
 嬉しそうに微笑むブルーに、ようやくほっとして肩の力を抜いた。
 だから、もう二度と『忘れて』なんて言わないで…。ね、ブルー?


 遥かなるときの流れ。
 その中にあっても、僕はあなたのことを決して忘れない。あなたが忘れていたとしても、僕が覚えている限り、あなたと僕の関係は終わらない。絶対に終わらせない。


 静かな木陰で本を読んでいる見知った学生を見つけて、そっと近づいた。
「まだ帰らないの?」
 背後から声をかけると、びっくりしたらしく慌ててこちらを振り返った。見開いた紅い瞳が、やがて細められる。
「…ジョミー。」
 ほっとしたようににこりと笑う姿に、こちらも微笑んだ。
 あなたがこんなに無邪気に笑うなど、あのときは想像もしなかったのに。
「熱心なのはいいけれど、もう帰らないと日が暮れてしまうよ?」
「ジョミーこそ、まだ仕事は終わらないのか?」
 待ってたんだ、とこちらを見上げる様子に、かつてのあなたが重なる。
 転生、というのだろうか。かつて美しい緑や綺麗な水が失われていた地球に、僕たちは立っている。しかし、今ここは豊かな自然が満ちていて、ミュウや人間の争いなどない、平和で穏やかなときが流れる楽園のような星だ。
 この図書館には、本の整理のアルバイトとして入った。そこに、忘れもしないあなたがテーブルに座っていた。
 あなたに、昔の辛い記憶を思い出させるつもりはない。刺激するつもりなどさらさらなかったから、ただ見守るだけでよかったんだけど。
『君…、どこかで…会った?』
 本の束を運んでいたときにあなたから声をかけられて以来、僕たちの運命は、再び回り始めた。
『ジョミーとは、初めて会った気がしないから、つい声をかけてしまった。本当は人見知りが激しいって言われるんだけど。』
 本当に人見知りするのか? と思うくらい、人懐っこく話しかけてきたあなたが、昔のあなたとあまりに違いすぎて、戸惑ったけど。
 でも、あなたがミュウのソルジャーになっていなければ…、ミュウとして目覚める前はこんな風だったのかなと思うと、今度は切なくなった。
「ジョミー?」
「え…?」
 はたと気がつくと、この人が心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫か? もしかして疲れてる…?」
 ああ、いけない! つい自分の世界にはまり込んでしまった。
「何でもないよ。」
「そう?」
 安心したように微笑むこの人に、もう一度笑いかけてから。
「あと10分待ってて。着替えてくるよ。」
「じゃあ、ここで待ってる。」
 今は、あなたのその無邪気な笑顔を守ってあげたい。だから。
 『忘れて』なんか、やらないよ、ブルー?







ミッションコンプリート! ううう、1周年よりもさらに3ヶ月後でした…。(汗)でも楽しかったvv 来年はもっと奇抜なお題にしようっと♪(もう来年のことを…!?)

 


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