4話から5話の間くらいの捏造

2 必然的運命


 

 

「え…?今なんて…?」
 珍しく目が覚めていると思ったら、何を言い出すのだろうか。この人は…。
「だから、君がここにいるのは必然的運命なんだよ。」
 …と言われても…。
「…ブルー、言っている意味がよく分からないんだけど…。」
 訓練の合間。
 またしても訓練中にマシーンを壊して、早々にトレーニングルームを追い出されて落ち込んだ僕は、この人の顔だけでも見たくなって青の間に寄ってみた。たとえ寝顔でも、この人を見れば落ち着くことができたから。
 するとラッキーなことに、この人はベッドに身体を起こして僕を迎えてくれた。最近では眠る時間も長くなっていて、言葉を交わすなんてことはここ数週間なかったことだから、単純に喜んだんだけど。
 でも、今の言葉は何だろう…?ブルーの言うことは、たまに難しすぎてよく分からない。
 そりゃ僕はミュウだから、人間の中では生きていけないだろう。増してやコントロールもおぼつかない身の上ではなおさらだ。だから、シャングリラにいることは運命といえば運命なんだろうけど…。
「そうじゃないよ。」
 微笑みながらそう言うこの人に、じゃあなに?と尋ねてみる。
 僕の思念などだだ漏れで、考えを読まれるなどいつものこと。…尤も、相手にしてみれば、『読む』という感覚ではなく、『聞かせられる』と言ったほうが正しいらしいけど。
「僕が後継者として選んだのは、他の誰でもない、君だということだ。」
「…?それがどうして必然的運命なわけ…?」
 僕がSD体制始まって2体目のタイプ・ブルーだからでしょ?それを運命って言えばそうなのかもしれないけれど。
「だからそうじゃないんだよ。
 僕が君を後継者に選んだのは、確かに君が健康的なミュウで、タイプ・ブルーだったからだろう。だけど、それが君であったのは偶然ではない、と言いたいんだ。」
 …なんだか余計に混乱したような気がする。
 つい黙り込んでしまった僕に、この人は難しいかな?と苦笑いしている。
「ではジョミー、逆に考えてみたまえ。君は、君を後継者に選んだのが僕でなかったら、今君はここにいただろうか?」
「あなたじゃなかったら…?」
 そう言われて愕然とした。僕を選び、後継者として迎えようとしたのがブルーじゃなく、他の誰かだったら…?
 まったく考えてもみなかったことを言われて、面食らってしまう。だって…、そんな仮定はありえない。
 目覚めの日を目の前にしたあのとき…、夢に現れたのがあなたでなかったら?テラズナンバー5から僕を庇ってくれたのがあなたでなかったら?
 …そして…、成層圏まで迎えに来てくれたのがあなたでなかったら…?
「…想像もできません。」
「そうかい?」
 この人はさもおかしいと言わんばかりに笑う。
「僕も同じだよ。
 どんなに身体が頑丈で強力なサイオンの持ち主がいたとしても、それが君じゃないなんて想像もつかない。君以外を僕の後継者に据えるなんて、考えられないくらいだ。」
 そう言われて、ああなるほど、と思った。
 僕があなたに出会ったのは偶然ではなく必然だったのだと納得できた。ずっと前から決められていた、運命の相手。あなた以外のソルジャーなら、僕は従わなかっただろうし、後継者になろうとも思わなかっただろう。たとえ、指導者の寿命が尽きると泣きつかれようが、何百人のミュウの命がかかっていると脅されようが。
「それに、君が僕以外のものにそんな目を向けるなんて、我慢できないね。」
「えっ、僕?ど、どんな目してます!?」
「知りたい?」
 微笑みながら問われるのに、実は聞くのも怖かったが…。でも、聞かないでいるのも気になって仕方がないだろうと思って、意を決してうなずいた。その様子にこの人は笑みを深くして。
「それは…。」
 どきどきしながら次の言葉を待つ。
「内緒だ。」
「はあ?」
 しかし。
 楽しげに言われた言葉に呆気に取られた。
「すまないが、それは僕だけの秘密にさせてもらう。」
「ひ、秘密…??」
 人差し指を立てて口に当て、嬉しそうに微笑むこの人に、がっくりと脱力しそうになってしまう。
 …この人、300歳は超えてるんだよね?確か…。でも、相当怪しい…。こんな仕草が似合って、しかも…、カワイイなんて…。
 そんな風に考えていたら、この人は、さて、と心持ち上を見た。
「ジョミー、そろそろ訓練に戻らないとハーレイの雷が…。」
『ジョミーっ!どこだ!?訓練を再開するぞ!!』
 言うが早いか、ハーレイの思念波が響いた。
「…あっちゃー…。」
 ハーレイの機嫌はまだ直っていないらしい。頭痛がするほどのテレパシーだ。
「ブルー、じゃあこれで…。」
 挨拶もそこそこに、慌てて駆け出した。これ以上ハーレイを怒らせると、さすがに後が怖い。
「ジョミー。」
 だが、その柔らかいトーンには、立ち止まって振り返ってしまう。すると、期待に違わずにこやかに微笑むブルーがこちらを見つめていた。
「またここにおいで。」
 笑顔でそう言われるのに、嬉しくなって大きくうなずいてからまた走り出した。
 訓練機器を壊したこともハーレイの怒鳴り声を聞くことも、この人の笑顔となら帳消しにしてさらにお釣りがくると言うものだ。
 だから。
 神様、この必然的運命に、感謝します…。

 




最近、お題は暗い話が続いていたので、ちょっとかわいい系の話にしてみました!

 


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