「僕は君が思うほどいい人じゃないよ。」
「うわああああ!」
ソルジャー・ブルーが眠るベッドのそばに座り込んでいたジョミーは、突然頭の上からかかった声に驚いてひっくり返りそうになった。
「ブ、ブルー、起きてたの!?」
慌てて立ち上がると、ちょうどブルーが目を開けるところだった。静かな紅い瞳が現れ、ジョミーを見やる。
「ついさっきね。」
ジョミーは訓練や授業がなければ、よく青の間に来る。そして、部屋の主が目覚めていようがいるまいが、数十分程度を過ごしてから自分の部屋に帰る。ブルーが目覚めていれば話をしているが、そうでなければ本を読んでいるときもあるし、単にブルーの顔を眺めているときもある。今はベッドを背もたれにして床に座り、ぼんやりと物思いにふけっていた。
ちなみに今の考え事は、自分がミュウとして覚醒し、成層圏まで昇ってしまったときのことだ。そう、声をかけられたのは、ブルーが命がけで成層圏まで自分を追ってきて自分の力の暴走を止めたときのことを回想していたときだった。
「すまない、読む気はなかったんだが。」
微笑みながら謝られては、こちらに勝ち目はない。それに、ソルジャー・ブルー相手に怒ることができるものなどここにはおるまい。
まあ、いつものことだし、うまくシールドはできないし…。
「僕の思念が強すぎて…でしょ?もう慣れましたよ。」
思念が強すぎるせいもあるけれど、良くも悪くも開けっ広げな性格ゆえ、すでに隠そうという気がないことがシールドを張れない最たる原因だと言われればどうしようもない。性格はそうそう変わらない。
「それよりも体調はどうですか?」
7日ぶりだろうか、今回は眠りが長かったような気がする。
「今日は大分いいよ。」
言いながら、ブルーは上半身を起こした。
…うーん、血色はいいとは言いがたいけど、身体を起こしても平気そうだから大丈夫なのかな…?でも油断は禁物だから。
「随分と疑うんだね。」
懐疑的なジョミーの目に苦笑する。
「あなたは無理ばかりしますから。」
それについては反論できないようで、ブルーは微笑んだだけで何も言い返しはしなかった。なんとなく、ブルーの行動にやきもきするハーレイの気持ちが分かってきたジョミーである。その都度釘をさしておかなければ、とつい思ってしまう。
「ジョミー、僕はいい人でもなんでもないよ。」
「え?」
ブルーが目覚めて開口一番に聞いた言葉だが、ただの謙遜と思って気にも留めなかった。
しかし、改めて言われたからといってどういう意味なのか、さっぱり分からない。確かにジョミーのブルーに対するイメージには、優しく包容力があるというところはあるけれど。
「僕が本当にいい人ならば、君をこんな過酷な運命には引きずり込んだりしないだろう。」
ジョミーの戸惑いをよそに、ブルーは静かに言葉を紡ぐ。表情は穏やかなままに。
…何を言い出すんだろう、この人は…。
ジョミーは文字どおり固まってブルーを見つめた。
「君は僕をもっと恨んでくれていいんだよ。僕こそが君の運命を変えた張本人だからね。
君はミュウと人間との理想的な融合体だ。心理検査では、いや、もしかしたら成人検査ですら君を傷つけることができなかったかもしれない。そのくらい君は身体的にも精神的にも強い。
しかし、僕はどうしても後継者がほしかった。僕の意志を継ぎ、僕とは違う健康で強靭な肉体と精神を持った後継者が。」
淡々と告げられる言葉に、ジョミーは呆然としていた。
「だから、僕は君の優しさにつけこんだ。君がノーと言えない状況を作って。」
まるで懺悔のようだ、とジョミーは思った。それにしても、ブルーが何を思ってこんな話を始めたのか分からない。
「…なぜそんな話を…?」
だから、疑問をそのままぶつけてみる。
ジョミーの言葉に、ブルーは目を伏せて少し考え込んだようだった。
「さあ、なぜかな。君にだけは、僕に聖人君子というイメージを持ってもらいたくなかったのかもしれない。」
やはり分からなかった。僕に対する謝罪なのか、ブルー自身のけじめなのか。
でも。
あなたがどう思おうと、僕の答えは決まっている。僕の原点はあなただから。あなたが僕のすべてだから。
ジョミーはブルーをまっすぐ見つめた。
「それでも、僕を助けてくれたのは、あなたです。
それから、あなたの後継者となると決めたのは、僕自身です。」
瞳に宿した揺るぎのない強い意志。
ブルーは、そんなジョミーをまぶしいものでも見るかのように目を細めた。
「強いね、君は。」
強くなんてない。あなたが自分のことをいい人ではないと言ったように、僕も強くなんかない。
「それに、そんな話なら、僕にはあなたに謝ってもらう理由がない。」
僕のすべてを引き換えにしてもあなたを得たいと思うくらい、僕はどうしようもないくらいにあなたに惹かれた。だから、あなたがミュウの未来を僕に託し、地球を目指せというのなら、僕はあなたの願いをかなえよう。
「僕こそあなたのそんな切迫した状況を利用した。あなたを束縛するために。」
そう、あなたのすべてを。
その言葉に、ブルーはうっすらと笑った。先ほどからの微笑とは少し違う、寂しげな笑顔だった。
「…僕でいいのか?僕の命は…。」
「あなたでなきゃダメなんです!」
さえぎるように、むきになって叫ぶジョミーに、ブルーは一瞬きょとんとしてから、吹き出した。
「では、僕たちはお互い利害が一致した共犯者というところかな。」
久テラ話第2弾!ちょっと二人の内面を書いてみたくなりました。ハゲしい勘違いかも…。 |
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