|    ジョミーの存在は、ミュウの中に大きな溝を作っていた。そもそも、ジョミーがつれてこられたときの状況が悪かった。まだミュウとして覚醒していなかったとはいえ、ついミュウを化け物呼ばわりし、彼らを否定してしまった。
 そのことで、ミュウの中にジョミーに対する不審や不満が生まれた。
 いかにソルジャー・ブルーがジョミーを後継者と指名したとはいえ、それでその不信が払拭されるわけではない。
  ソルジャー・ブルーがお元気ならば。ソルジャー・ブルーならばこのようなことは。
  今は意識がないとはいえ、かつての完璧な指導者を求める声が大きくなる中、事態は収拾どころか混乱の一途をたどっていた。「…当然の結果かな…。」
 『ジョミー…。』
 傍らのリオには、寂しげにつぶやくジョミーの台詞に返す言葉がなかった。
 ソルジャー・ブルーは確かに偉大だった。ジョミーにとってもリオにとって尊敬すべき存在だ。しかし、この状況はあんまりだった。
 ソルジャー・ブルーに比べれば、ジョミーはまだ歩き出したばかりの幼子のようなものだ。それなのに、何事につけても比較される。いや、比較されるだけならばまだしも、そのことをあげつらい、指導者の立場をソルジャー・ブルー返してはというものまでいる。
 むろん今は無理だ。ソルジャー・ブルーが目覚めたら、ということである。
 「僕自身、指導者なんて柄じゃないと思っていたから…。」
 『そんなことはありません、あなたはがんばっていますよ。』
 リオの慰めも落ち込んだジョミーには効果がないようだ。
 遠い目をしてため息をついている。
 「…でも、今の僕をブルーが見たらどう思うかな…。」
 あきれられるだろうな…。
 そうつぶやくと、ジョミーは少し笑う。
 「これ以上、ブルーを失望させたくないから。やることはやらなくちゃ。」
 ジョミーはそんな思いを吹っ切るように息を吐き出した。
 『ソルジャーも、あなたはよくやっていると思ってくださいますよ。』
 そんなジョミーをいじらしく思った。
 これはリオの慰めではなく、本当にそう思う。自分を冷遇しているミュウのために、こんなに必死になってがんばっているのだから。
 「ありがとう、リオ。」
 ようやく全開の笑顔を浮かべたジョミーに、リオはようやく胸をなでおろした。
 その翌日、事態は急速に収束に向かうことになるとは、このとき二人には想像もつかなかった。
  ソルジャー・ブルーが目覚めた。艦内を見て回っていたジョミーは、ブルーの思念波の動きでそれをキャッチした。ジョミーにとって待ちに待った瞬間だった。
 慌てて視察を中止し、ブルーの部屋へ向かう。いつもはスケジュールをサボったりすると小うるさく小言を言う長老たちも今回は何も言わずにジョミーを送り出した。
 
 しかし、ブルーの部屋へ到着したとき、いつもは静かな場所であるはずの部屋がなぜか騒がしい。部屋の前でジョミーは首をかしげて立ち止まる。
 長老たちとは今別れてきたばかりで、彼らではないだろう。しかも、部屋の中の思念は相当乱れている。これは興奮しているのか…?ブルーの部屋で喧嘩しているわけもないし…。
 やたらと乱れている気は複数あるが、ブルーの発するものはない。そのくらいは分かる。
 遠慮がちに入室したとたん、大きな声が聞こえた。
 「ソルジャー、私たちはあなたの指導のもと地球への道を歩んで行きたい!」
 「あなたにもう一度指導者として私たちの先頭に立っていただきたい!」
 数人のミュウたちが訴えているらしい様子に、ジョミーはあっけに取られてその場に立ち竦んだ。ジョミーを指導者としていただくことに反対する代表たちが、直接ソルジャー・ブルーに申し立てしているところのようだ。
 彼らとて、ジョミーが部屋に到着していることなど先刻承知だろうが、譲る気配がまったくない。ジョミー本人を前にして、彼自身の悪態をつくわけだから、譲るとかそういうレベルではないが。
 「ジョミー・マーキス・シンが来てからというもの、この船はあなたに与する派閥とジョミー派と、真っ二つに別れていて、とても本来の目的を遂行することなど無理です!!」
 「この船とミュウを守るために、どうか立ち上がってください!」
 「どうか地球への道をお示しください!!」
 ミュウが二つに割れている状況。
 いつかはブルーに気づかれるとは思っていたが、こんな早々に、しかもブルーが目覚めた直後に直訴という形で知られるとは思わなかった。
 ある意味、最悪のパターンである。そんなことさえ収めることができないのか、と自分でも思っていた。ソルジャー・ブルーが指導者であったころならば、このようなことはなかっただろう。
 そして、ブルーはというとベッドの上に上半身を起こし、静かな表情で訴えを聞いている。何を思っているのか、その表情からは伺うことはできない。怒っているのかあきれているのか、悲しんでいるのか…。なんにせよ、ブルーにとってはありがたい状況ではあるまい。
 …またブルーに心配をかけた?それとも僕にあきれている…かな?
 さすがに居心地が悪い。しかし、その場を去るわけにも、口を挟むわけにもいかなかった。ましてやこんなところで彼らとジョミーが喧嘩でもしようものなら、困るのはブルーだろう。
 これ以上、ブルーの重荷になりたくないのに…。
 そこへ、ハーレイが駆けつけてきた。
 「何をしている!
 ソルジャーは今お目覚めになったばかりなのだぞ!こんなことでソルジャーのお身体に負担をかけてどうする!!すぐに出て行きたまえ!」
 「しかし船長!私たちはソルジャー・ブルーの指示を仰ぎたいのです!!」
 「君たちはまだそんなことを言っているのか!他にもっとすべきことが…!」
 「ハーレイ。」
 言いかけたが、ソルジャー・ブルーの穏やかな声がそれをさえぎった。
 「ソルジャー!?」
 「…なるほど、そういうことになっていたとは知らなかった。」
 当たり前である、長い昏睡状態から目覚めたばかりなのだから。
 「われわれも考えた末のことです。」
 「ソルジャー、どうかご決断を…!」
 そうは言われても、ブルー自身がジョミーを後継者として指名しているのだから、そんな話に乗るとは思わない。
 しかし、いまや先代の指導者となったブルーが、若き指導者に反発する彼らをどう説得するつもりなのか、考えつかない。下手にジョミーの肩を持ったりすると、尚のことジョミーに対する風当たりが強まる可能性がある。
 それはハーレイたち長老も非常にデリケートな問題として、今まで何の手も打てず見守るしかなかったのである。
 ジョミーをおもしろくない存在として思うことと、指導者としていただくことは、長老たちの間ではリンクしない。それは彼らの指導者、ソルジャー・ブルーたっての願いであるからだ。
 しかし、若いミュウたちにとっては、そのようなことはあまり関係ないようである。良くも悪くも、若者らしい考え方で意志を通そうとする。
 さすがにかつてのカリスマ指導者であっても、そう簡単に彼らを納得させられるようなものには思えない。
 「ならば僕も参加させてもらおうか。」
 ………………………………………………………。
 参加…?
 指導者として返り咲くという話ではないのか??
 まじめな顔で考え込むように言うブルーに、皆何を言い出すのか、と次の言葉を待つ。
 「僕はジョミーにつこう。ジョミー派、というのか?」
 「ソ、ソルジャー・ブルー!!」
 あなたがそれを言うのかーーーーー!?
 ほぼ全員、ブルーの言葉に二の句がつなげない。ジョミーさえ、ぽかんと口を開けていた。
 そんな中、何とか立ち直ったのはハーレイだった。
 「ソルジャー!あなたまでなんてことを言うんですか!!」
 中立し静観するならばまだしも、渦中の人自身がこの微妙なバランスを崩すようなことを言ってどうする!?
 ハーレイの声が、思いっきりひっくり返っている。胃酸の出は最高潮だろう。
 「そうです!私たちはあなたに指導者として立っていただきたくて…!」
 「あ、そうだ!」
 と、今度はジョミーの素っ頓狂な声が聞こえた。
 「今度は何だ、ジョミー!」
 ハーレイも相当頭にきているのか、八つ当たり気味である。でもそんなことをまったく意に介しないジョミー。
 「そうだよ、あなたが僕につく必要なんかない。僕があなたにつけばいいんだから!」
 「ジョミー!!!」
 一体今、何を話しているのか分かっているのか!ソルジャー・シン!!
 とは、ハーレイの心の叫びだった。
 「ね、いい考えでしょ、ブルー。」
 無邪気に言うジョミーに、ブルーは嬉しそうに微笑む。
 「そうだね。
 でも僕は君の派閥に入りたい。」
 「だって、作った覚えないんだよ?」
 「では、僕が会長に就任しても何も問題はなさそうだね。」
 「だから、作ってないのに…。」
 この状況をどういうのだろうか…。中てられている、という言い方が一番しっくりくるのだろうが。
 …バカップル…。
 これをバカップル、バカカップルと呼ばずして何と呼ぼう。
 さすがに詰め掛けたミュウたちも、すっかり毒気を抜かれて呆然としてしまっている。ハーレイも頭痛を感じながらも、ここはもう退散したほうがよいとばかりに声を張り上げた。
 「もういいだろう、この件について蒸し返すことは許さん!さあ解散だ!」
 ジョミーのソルジャー襲名はブルーの意志。自称ブルー派も、落ち着いて考えればこういう結末が待っていたと分かっていたはずだった。
 …少々、ソルジャーズの仲睦まじさにあてられてしまったのが余計だったが。
 「ありがとう、ハーレイ。」
 皆が出て行って、部屋の中にはブルー、ハーレイ、ジョミーの3人になった。
 「…ここに来たのが間違いの元でしたよ、ソルジャー・ブルー…。」
 先代と次代の指導者が仲がよいということはいいことだ。仲たがいしているよりははるかに。だが、それも限度ものだろう!
 「それは悪かった。」
 本当に悪いと思っているのか、とても嬉しそうだ。
 「これで私は失礼しますよ。
 ジョミー、ソルジャーをよろしくな。」
 「はい…。」
 「ああまったく、こんなことならブリッジにいれば…。」
 ぼやきながら出て行くハーレイ。ジョミーはそれを静かに見送った。
 「…ハーレイに悪いことしちゃったな…。」
 これ以上、胃を痛めなきゃいいんだけど…。
 「ジョミーが悪いわけではない。まあ、確かにハーレイには気の毒だったが。」
 その言葉に、ジョミーは寝台のブルーを振り返った。
 「ごめんなさい、目が覚めたばかりなのにこんな騒ぎになってて…。」
 「気にしてないし、ジョミーのせいではない。」
 再度の否定に、ジョミーはなんとなくおかしくて吹き出した。この人は意外に頑固で、ときどき子供っぽいときがある。
 「それにしても、僕の派閥に入りたいなんて…。
 いいんですか?みんな、あなたが目覚めたばかりでボケてるなんて思っているかもしれませんよ?」
 「それは心外だ。僕は本気で言っているんだが。」
 まじめに言う姿に、本当に笑いが止まらなくなりそうだった。
 それをいさめるでもなく、ブルーは少し首をかしげた。
 「それに、僕が君の派閥にいたら迷惑かい?」
 「そんなこと、ありません!」
 ジョミーは大げさに首を振り、慌てて言う。
 最強の味方ですから!
 
 
 
 
 
      
        | 某テラスレで、ブルー派とジョミー派に分かれる→ミュウが二つに割れて争う→地球へ行くどころではなくなる→でもブルーがジョミー派だから大丈夫♪てな書き込みを見て、こんな本末転倒馬鹿話を作ってみたくなったのー。 |   |