結局、ブルーに会うのは一番後になってしまった…。
シャングリラを歩きながら、ジョミーはふと思う。
今日は大変な一日だった。いや過去形ではない、現在進行形で続いている緊急事態だ。
カリナのサイオンバーストによる船の破損。船のかなりの範囲を破壊されただけでなく、メインコンピュータにもダメージが残っているらしい。動力炉数基も修復困難な状況で、技術者が全員で復旧に当たっている。
カリナは…。こちらで遺体を安置した後、ユウリの墓の隣で安らかに眠ってもらおうと、明日には連絡艇でナスカに送り届けることとしている。救いは、最後に見た幻のおかげか、微笑むような表情で眠っていることだけだ。
ブルーが助けてくれたトォニィは、集中治療室で医療チームが手当てをしてくれている。だが、幼児で体力がないため、予断を許さないといわれている。
フィシスには目立った怪我はないが、精神的なショックが大きいようなので、安静にするようにとドクターから診断が出ている。
それから捕虜の脱走…。
…悪いときには悪いことが重なるものだ…。
『ブルー、入りますよ…?』
思念波で入室の予告をしたが、青の間からは返事がない。
眠っているのかな…?
遠慮がちに部屋の中に入ると、予想通り静かに寝台に横になっているブルーの姿が目に入った。
よく考えれば、ブルーにとっても大変な一日だったろう。目が覚めたと思えば、突然メンバーズの捕虜が脱走しているし、身体が思うように動かないところにもってきて、そのメンバーズと対峙しなければいけなかったのだから。
でも。
あのメンバーズに対して一歩も引かず、対等以上に渡り合ったというのだから。
「…相変わらず、あなたには驚かされます。」
「それは僕の台詞だ。」
あれ?と思ったときには、紅い双眸が僕を見つめていて。
「起きて…?」
ブルーはゆっくり上半身を起こして息をついた。
「君を待っている間に眠くなってしまってね…。部屋に入ってくる気配で起きたところだ。」
頭痛でもするのか、軽く額を抑え、もう一度息を吐く。
「すみません、本当はもっと早くに来るはずだったんですが。」
ブルーの、いかにも寝起きといわんばかりの仕草に、ジョミーの言葉の語尾に笑みが混ざる。
こんなブルーを見たのは初めてかもしれない。
「…君が大変だったのは分かっているが。」
やはりなかなか感覚が戻らないらしい。どうにも身体を起こしているのが辛そうだ。
「ブルー、横になったらどうですか?」
「そうするよ。」
こんな体調で、よくあのキース・アニアンと戦えたものだ、と感心する。
「…あなたは不思議な人ですね。あのメンバーズエリートは僕たちが手を焼いた相手なのに、あなたは簡単に手玉に取ってしまった。」
「いや、手玉になど取っていない。せいぜい痛み分けといったところだ。」
それは謙遜だろう。フィシスから聞いている。彼女が邪魔をしなければ、ブルーはあの男を斃したはずだと。
「君のほうこそ、疲れないのかい?」
「…?
はい、身体はなんともありません。」
なぜブルーが僕のことを気遣うのかよく分からなかった。
僕のほうが驚くよ、と苦笑いしている。
「君は生身での惑星降下やフィシスの救出で大変だったはずだ。ナスカからこの船まで精神体も飛ばしていたようだし、その後は休みなしに事後処理に当たっていたと聞いた。
それでも疲れていないと言われれば、君の体力は底なしだな。」
どうも開口一番に言われたのはこのことらしい。
「それしか取り柄がないんです!」
体力馬鹿で悪かったですね!
拗ねたようにそう続けたが、ブルーは誉めているんだよ、と笑った。
「…誉められている気がしませんけど?」
でも、そういうことにしておこうかな。
久しぶりに会えたあなたに免じて。
――― お帰りなさい、ブルー ―――
実は最後のはフィシスの台詞だったんだけど、ジョミーに言ってほしかった私…。これが書きたかったがために…。 |
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