| 忘れ去られた約束(サイト未掲載、ブルー&ちびジョミー)
 ほかに誰もいないと確認してから、君の元に跳んだ。君は五歳だから、一人で留守番ができるぎりぎりの年だね。不審者だと思って、悲鳴を上げたり逃げ出したりしなきゃいいけど。でも僕を迎えた君は、驚きながらも怖がる様子がないのを見てほっとした。
 「おじさん、だあれ?」
 少しショック…。
 おじさん、はないと思う。見た目はそんなに年寄りに見えないはずなんだから。
 「おじさん、はやめてもらえないかな?」
 そう言えば、首をかしげてこちらを見る。
 「じゃあ、なんてよべばいいの?」
 「名前はブルーっていうんだよ。」
 「ふーん…。パパのおともだち?」
 「…そうだね、そんなものかな。」
 「でも、パパいないよ?かいしゃにいってる。」
 「うん、実はかくれんぼしてるんだ。だから、パパやママには内緒にしておいてくれる?」
 君は子供だから信じてくれたんだろう。自分でも苦し紛れに変なことを言っているなという自覚はあるんだけど、他にいい説明が思いつかない。
 「え?そうなんだ。パパがおになの?」
 不思議そうにつぶやく姿に、意識を集中させる。
 やはりこの子はミュウの子供だ。ここにいたら、いずれは成人検査でミュウと判断され、収容所送りになるか、処分されることになるだろう。いや、悪くすればその前に知られてしまう可能性もある。
 「ねえ、ジョミー。僕と一緒に遊びにいかないかい?」
 早めに行動を起こしておくのが得策か。
 「え?でもぉ…。」
 そう思ったんだけど、ジョミーの戸惑った様子におや、と思う。
 「ママがね、しらないひとについてっちゃいけないっていうから。」
 パパのおともだちなのに、ゴメンねと悲しそうに言う優しさにはっとした。
 もう少しで忘れるところだった。こうやって、君を優しく、そして強く育んでいるのは、君の両親だと言うことを。僕が今無理やり君をシャングリラに連れて行ったなら、どれほど君が悲しむだろう。
 「そうだね、ママの言うとおりだよ。
 僕が悪かった、謝るよ。」
 「ううん、いいの!」
 にっこり笑う姿に、つい見とれてしまう。ここまでかわいいと、本当に別の誰かに誘拐されたりしないかと気が気じゃない。
 「代わりといってはなんだけど、ジョミーが大きくなったら迎えにくるよ。それなら、僕と一緒に行ってくれる?
 大きくなったら一人でも出かけられるだろう?」
 「どこぉ?」
 シャングリラのことはどう説明しようか…。
 「君が、幸せになれるところ。」
 陳腐なような気がしたが、ほかの表現を思いつかなかった。
 「ダメ!」
 「え…?」
 急に態度を硬化させたジョミーに、疑問符がわく。ジョミーを怒らせるようなことを言っただろうか?
 「ぼくはおとこのこなんだから!」
 「?うん、そうだね。」
 「だから、およめさんにはなれないの!」
 「???」
 何のことだろう…?まったくつながらないのだけど。
 「おおきくなったらむかえにくるって、およめさんにするためにさらいにくるんでしょ!」
 …それはどういう解釈だ…?
 「あのね、ジョミー…?」
 「だって、このあいだママとテレビみてたらやってたもん!」
 「テレビ…?」
 テレビと言うと…、何かのドラマか…?
 「そうだよ、テレビでやってたのとおんなじ!
 おとこのひとが、おんなのこに、『おおきくなったらむかえにきて、しあわせにするよ』っていって、じゅうねんごにむかえにくるっておはなし、やってたもん!
 あのおんなのこはおおきくなって、むかえにきたおとこのひととけっこんして、しあわせになったのよって、ママがいってたし!」
 舌足らずな口で一生懸命説明してくれるのを聞いて、ようやく君が拒否した理由を理解したが。
 …確かに今の会話と共通点は多いけれど…、一体君は普段どんなドラマを見ているんだ…?
 
 
 
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