初夜&新婚旅行 (未発表作品)
「ごめんなさい、遅くなりました!」
ベッドで本を読んでいると、ジョミーのけたたましい足音が聞こえてきて、その帰宅を告げる。
「……別に……」
出先から戻ってくることを考えれば、この時間は遅いわけじゃない。ただ、夕食には間に合わなかったというだけで。
「このあと、新婚旅行に行きますから、少しだけ打ち合わせるつもりだったんですが……」
「新婚旅行じゃないだろう」
北の指導者の元へ挨拶に行く、と聞いたはずなのだが。
「それは名目です」
いたずらっぽい笑顔でそう返しておいて、ジョミーはマントを脱いでからブルーの隣にもぐり込む。
「今日は疲れたでしょうから、休みましょう」
明かり、消しますよ? といいながらサイドテーブルのランプスタンドの紐に手をかける。
「……もう眠ってしまう気なのか」
本を置いてそう尋ねると、ジョミーはくすっと笑う。
「今日は結婚式で疲れたでしょうし、明日は旅行に出ますから」
……そんな余裕を見せられると、今までどきどきしていた自分はなんだったんだろうと思ってむっとする。
初めてではないし、そんなに緊張するのも変な話なのだが、以前ジョミーに『役に立たない』といわれたこともあって、どうやって触れ合えばいいか、本を読むふりをしながらずっと考えていたのだ。
「……君がそういうのなら……」
不満げに返事をして、ジョミーに背を向けて横になる。
「あの……何か怒ってます……?」
後ろから恐る恐るといった風情で訊いてくるのに、もっと腹が立つ。敏いのかと思えば、肝心なところで鈍感なのだ。
「何でもない」
何も話すことはないとばかりに布団を被っていると、また笑う気配がする。
「……慣れないものを着た上に、随分と疲れている様子でしたから、今晩は休みましょうといっただけですよ……? 先は長いんですから」
分かって訊いていたのか……! とつい苛立って起き上がる。
「そんな気遣いは必要ない……!」
そう、いってしまって。 しまったと思った。
これでは、抱いてくれとせがんでいるようなものではないか。
ジョミーはというと、呆気に取られたあと、今度は可笑しくてたまらないといわんばかりに肩を震わせて笑っている。あまりの気恥ずかしさで布団の中に入ろうとしたが。
ジョミーに抱きすくめられてそれは叶わなかった。
「あなたって本当にかわいい人だ」
かわいい、といわれてかあっと顔が熱くなるのを感じる。
それでも。ジョミーの腕の中は温かくて気持ちがよかった。
「じゃあ、明日に差し支えのない程度にしましょうか」
しましょうかといわれて、どう返事しようかと悩んでいると、急に頤に手をかけられ、くいと上を向かされた。
「ジョミ……っ?」
しかし、問いかけようとした言葉はジョミーの口の中に消える。
二度目のディープキス。
今回はあまりに突然で、何の準備もできていなかったけれど……それでも強引に入ってくる舌に、自分のそれをぎこちなく絡ませる。
ジョミーの笑う気配がした。
「ん……っ!」
何だろうと思ったが、そんなことを問うている暇もなく、口内を荒々しく犯されるのに息がつけなくなる。二度目は少しくらい余裕が出るのかと思いきや、まったくそんなことはなく、ジョミーが支えていてくれなければすぐに崩れ落ちてしまいそうなくらい、手足に力が入らない。
それなのに、ジョミーはうっとりとした表情を浮かべている。こちらは呼吸さえままならないというのに。
ふ、と唇が離れ、キスからようやく開放されてほっとしていると、ジョミーが面白そうにこちらを覗き込んできた。
「……本当に大丈夫なんですか」
からかい半分の口調に、ジョミーをむっとしてにらみつける。
「余計なお世話だ。君こそ疲れているんじゃないのか」
「それだけ強気な発言が出るということは、まだまだ元気そうですね」
いいながら、今度は頬に、瞼にと口付けを降らせてくる。その感触が気持ちよくて……されるがままになっていると、次には耳元に口付けられてびくっとしてしまった。
その反応に、ジョミーは顔を上げて微笑む。
「あなたはここが弱いんですか」
からかうような口調でいわれるが、何のことか分からない。
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