| 新 婚 旅 行 T 《ジョミー視点》
   朝早く出て来てよかった……。朝日が昇ろうとする時刻。人々がようやく起きだすこの時間、ジョミーはブルーとともに飛行船の中にいた。
 みんなが見守る中、この人を抱き上げて出てきたんじゃ昨日の夜何をしたのかすっかりばれてしまう。別に……夫婦なんだから何をしていようと構わないんだけど、やっぱり……。
 そう思いつつ、まだまどろみの中にいるらしいこの人を見遣って、あどけない寝顔につい苦笑いしてしまう。
 こんなにかわいらしい顔をしているのに、あんなに積極的だなんて嘘みたいだ。そのギャップに……かなり萌えるかも、なんていったらあなたは怒るかもしれないけど。
 さて、それはそうと……。
 窓から外の風景を見て、今から行く北の国に思いを馳せる。
 キースと会うのは随分と久しぶりだ。旧知だから遠慮はいらないけれど、もっとのんびりできて気候のよい場所はなかったのかと思ってしまう。軍事色の強い寒い北の国で、あなたが体調を崩さないようにしなければいけないし。
 『ワガママをいうものではありませんわ。邪魔が入らずゆっくりできるだけでもよいではないですか』
 フィシスがむっとしてそういっていたのを思い出す。
 ……確かに、指導者の館では何かと横槍が入るだろうし、それがないだけでもありがたいと思わなければいけないのだが……。
 まあいいや。別に僕はベッドでずっとブルーと一緒にいてもいいんだし。
 そんな不埒な考えにふけっていると、腕の中のこの人が身じろぎする様子に、はたと我に返った。
 「……ジョミー?」
 まだ眠いらしいあなたが、すっきりしない様子で目をこするのを、微笑ましい気持ちで眺めていた。
 こんなに無防備なあなたというのは珍しい。
 「さっき夜が明けたばかりですよ。まだ眠っていてもいいんですから」
 「……ん……」
 よっぽど疲れていたらしく、またすやすやと寝息を立てる様子に、もしかしたら二十年分の疲れが出ているのかな……?  とそんな風に思ったりしたが、あなたをずっと抱いていられるなんてそうそうないから、どちらでもいいかと思って、あなたの頬にそっとキスを落とした。
  北の大地に吹く風を飛行船の窓越しに感じながら、外を眺めた。荒涼とした大地と残雪に、寒々としたものを感じる。つくづく、南は気候がいいなと思った。「……ジョミー……?」
 腕の中のあなたが、ふっと目を開けて瞬きする。
 「目が覚めました?」
 「ここは……?」
 きょろきょろとまわりを見渡すあなたがかわいらしくて、どこにもやりたくないとばかりに起き上がろうとするあなたをぎゅっと腕の中に閉じ込めてしまう。
 「ジョミーっ!」
 「だって、あなたがあまりにもかわいいから」
 「かわいいからじゃない! ここは……」
 「飛行船の中ですよ。もうすぐ北の国の目的地に着きます」
 そういってもよく分かっていない様子で、記憶を辿っているらしいあなたを大人しく見守っていると。
 「あ……!」
 短く声を上げて、こちらを見るなり真っ赤になるあなたの顔に、笑っちゃいけないと思うほど笑みがこみ上げる。
 怒られるかと思ったけれど、あなたのほうはそれどころでなく動揺しているようで、頬を赤く染めたまま腕の中でもがいている。
 「……は、離してくれ……降りるから」
 「ダメですよ、昨日がんばりすぎたから腰にくると思いますよ?」
 そういうと、さらに恥ずかしくなったようで、今度は動作を止めてうつむいてしまう。
 「誰も起きない時間に出てきましたから、指導者の館の人間には見られていませんので安心してください。それに、今から会う北の指導者も気を遣うような代物じゃないし。その代わり、向こうも気を遣わず何でもいいたい放題でしょうが、気にしなければなんということもありません」
 そういうと、この人はふっとこちらを見上げた。
 「そういえば……キース、といっただろうか。彼はどんな人なんだ……?」
 ああ、いろいろと取り紛れてしまってあなたにまだ説明していなかったんだった、と思い出す。
 「そうでしたね。北の指導者は、人相は悪いし口も悪いんですが、その、悪い奴じゃないんですよ。四人の指導者の中で僕は一番若いんですが、そのすぐ上が北の指導者なんです。その分、何でもいいやすいところがあって……」
 南の指導者となったときに挨拶に行って、すぐに喧嘩して。
 そういう仲だから、遠慮はいらない。
 「気遣い無用な男ではありますが、その分こちらは気が楽ですから」
 そう説明すると、あなたは変な顔をしていたけれど、そうか、とだけつぶやいた。
 「まあ、その目で確認してみてください。もうすぐで到着のようですから」
 
 
 
 
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